日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
56 巻, 3 号
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目次
総説
老年医学の展望
  • 田口 明子
    2019 年 56 巻 3 号 p. 234-240
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    インスリンシグナルは,各種臓器において,グルコースおよび脂質代謝,タンパク質合成,細胞増殖,老化調節など多様な作用を発揮する.これら種々の作用は,インスリン受容体およびインスリン様成長因子-1受容体アイソフォームの発現パターンの臓器特異的な違いや細胞内シグナル制御機構の複雑性により創出されると考えられる.シグナルの組織特異性や多様性の分子機序の一つとして,細胞内の様々なフィードバック機構が存在する一方で,総括的なシグナルの作用は臓器間相互作用により作出される.これらの制御機構の異常が,糖尿病を含む生活習慣病発症の一因となっていると考えられている.これまでに,インスリンの主たる標的組織として,末梢組織におけるインスリンシグナルの役割については精力的に解析が進められてきたが,中枢神経系のインスリンシグナルの機能については未だ不明な点を多く残している.本稿では,インスリンシグナルの主要調節因子であるインスリン受容体基質の脳での潜在的役割を中心に,脳インスリンシグナルの機能について最近の基礎研究結果を踏まえ概説する.

特集
高齢者医療におけるAIの活用
原著
  • 中村 吉伸, 松山 美和, 大村 智也, 渡辺 朱理, 東田 武志
    2019 年 56 巻 3 号 p. 265-272
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:舌骨上筋群を含む開口筋は嚥下機能時の舌骨挙動に重要な役割を担うことから,本研究では,高齢脳血管疾患患者を対象に摂食嚥下機能と開口力の関係を明らかにすることを目的とした.方法:60歳以上の脳血管疾患入院患者の中から,嚥下障害と診断された者を対象とした.患者基本情報に関する情報はカルテから収集した.摂食嚥下機能は摂食嚥下障害臨床的重症度分類(以下DSS)を用いて評価を行うとともに,開口力は開口力測定器(TK2014)による測定を行った.開口力の性差はMann-WhitneyのU検定にて,DSSと開口力の相関関係はSpearmanの順位相関係数の検定にて解析した.また,DSSを正常範囲群と軽度障害群,誤嚥あり群の3群に分類し,Kruskal-Wallis検定にて開口力を比較した.結果:対象者は52名(男性25名,女性27名,平均年齢78.8±8.2歳),開口力の中央値は男性4.8 kg,女性3.0 kgであり,性差を認めた(p=0.004).全対象者および男性には年齢と開口力に有意な負の相関が認められた(r=-0.362,p=0.008;r=-0.548,p=0.005).全てにおいてDSSと開口力には有意な正の相関関係を認めた(全対象者:r=0.560,p=0.000,男性:r=0.636,女性:r=0.587,ともにp=0.001).また,全対象者,男女ともに,正常範囲群に比べ,誤嚥あり群の開口力は有意に小さかった(全対象者:p=0.006,男性:p=0.024,女性:p=0.015).結論:高齢脳血管疾患患者において嚥下機能と開口力には有意な正の相関関係があり,誤嚥のある者は嚥下機能が正常範囲の者に比べ,開口力が低値であることが示唆された.

  • 佐藤 光信, 米澤 久司, 工藤 雅子, 柴田 俊秀, 小原 智子, 鈴木 真紗子, 石塚 直樹, 高橋 純子, 寺山 靖夫
    2019 年 56 巻 3 号 p. 273-282
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:記憶の過程として,記銘,保持,想起の3段階があることが知られている.記憶障害の進行が症状の主体であるアルツハイマー病(AD)患者において,どの段階まで記銘・保持が保たれているか神経心理学的検査を用い検討する.方法:Amnestic MCI群(MCI)(21例)とAD群のFAST 4(37例),5(10例),6(4例)の患者を対象とした.神経心理学的検査としてリバーミード行動記憶検査,改訂版ウェクスラー記憶検査を施行した.これら2つの検査の下位項目は評価する内容により遅延再生,遅延再認に分類することができ,遅延再生はさらに,ヒントなしに想起する自由再生とヒントを手がかりに想起する手がかり再生に分類した.MCIおよび各病期のAD群において,上記の心理学的検査を行い,病期ごとの遅延再生(自由再生,手がかり再生)と遅延再認の下位項目粗点を検討した.結果:自由再生を評価する下位項目では,MCIの時期から多くの症例で得点できず(中央値0点),FAST 4以降ではほとんどの症例で得点できなかった.手がかり再生を評価する言語性対連合IIの粗点はMCI群に比し,FAST 4,5群で有意に低下していたが,FAST 3で90%,FAST 4で51%,FAST 5で60%,FAST 6で50%の症例が得点できていた.遅延再認の課題である視覚性対連合IIは,MCI群とFAST 4,5,6群では有意差がみられなかった.同じく遅延再認の課題である絵,顔写真ではMCI群と比してFAST 4,5群では有意差は認めず,MCI群で100%,FAST 4,5群では約60~70%の症例で得点できていた.結論:再認課題や手がかり再生の課題はFAST 4,5群でも得点することが可能であった.記銘・保持が障害されている場合には想起は不可能であることを考えると中等度に進行したADにおいても記銘・保持能力は残存していることが推測された.

  • 齋藤 甚, 鈴木 久義
    2019 年 56 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:身体拘束は,紐や抑制帯を用いて対象者を椅子やベッドに縛ることや,ミトンやベッド柵などを用いて,対象者の動きの自由を制限することと定義される.拘束に関しては,様々な問題が指摘されているが,身体拘束を予測する,もしくは,解除や減少に繋がる変数が確立されていないことが問題として挙げられる.本研究の目的は,急性期病院に入院中の脳卒中患者を対象に,身体拘束実施の有無で患者特性を比較し,身体拘束に関連する要因を抽出することである.方法:対象は,2014年8月~2015年9月において,A病院における脳卒中入院患者約500名の内,リハビリテーション介入がなされた患者253名を対象とした.変数は,年齢,性別,身体拘束,向精神薬,手術,留置チューブ,脳卒中重症度,認知機能,運動麻痺,ADL自立度,行動障害などの情報を収集した.解析は,Studentのt検定,Fisherの正確検定にて各群間における変数を比較した.また,拘束の有無を従属変数,その他の変数を独立変数とし,ロジスティック回帰分析にて各変数の影響度を検討した.結果:253名の患者(非拘束群179名,拘束群74名)が分析の対象となり,拘束実施率は29.2%であった.二群間の比較では,年齢,HDS-R,NIHSS,手術,留置チューブ,意識障害,上肢麻痺,下肢麻痺,ADL自立度,行動障害,向精神薬において有意差を認めた.また,ロジスティック回帰分析の結果,年齢,HDS-R,NIHSS,行動障害が拘束の実施に強く影響していることが判明した.結論:身体拘束には,高齢,認知機能低下,重症脳卒中,行動障害が拘束実施の要因になり得ることが示唆された.また,身体機能よりも,安全管理などの判断に関わる認知機能の影響が大きいことが推察された.

  • 井田 諭, 村田 和也, 今高 加奈子, 金児 竜太郎, 藤原 僚子, 高橋 宏佳
    2019 年 56 巻 3 号 p. 290-300
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:高齢糖尿病患者における肥満,サルコペニア,及びサルコペニア肥満と左室拡張障害(Left ventricular diastolic dysfunction:LVDD)との関連性を検討すること.方法:対象は伊勢赤十字病院,外来通院中の65歳以上の糖尿病患者とした.LVDDの評価には,左室拡張早期流入速度(E)を拡張早期僧房弁輪部移動速度(E')で除した値(E/E')を用いた.サルコペニアの評価には,自己記入式質問紙であるSARC-F 日本語版(SARC-F-J)を用いた.肥満の定義はbody mass indexが25以上とした.多重ロジスティック回帰分析を用い,サルコペニア,肥満,及びサルコペニア肥満のLVDDに関するオッズ比を算出した.結果:291例(男性157例,女性134例)が本研究の解析対象となった.男性における,サルコペニア単独,肥満単独,及びサルコペニア肥満のLVDDに関する調整後オッズ比はそれぞれ,0.82(95% confidence interval(CI),0.20 to 3.27,P=0.784),1.92(95% CI,0.69 to 5.32,P=0.207),6.41(95% CI,1.43 to 28.53,P=0.015)であった.一方,女性においては,サルコペニア単独,肥満単独,及びサルコペニア肥満のLVDDに関する調整後オッズ比はそれぞれ,1.31(95% CI,0.31 to 5.51,0.708),1.41(95% CI,0.45 to 4.37,P=0.551),3.18(95% CI,0.93 to 10.9,P=0.064)であった.結論:男性高齢糖尿病患者において,サルコペニア肥満はLVDDと有意に関連していた.

  • 宮崎 さやか, 山田 静雄, 東野 定律, 渡邉 順子, 水上 勝義
    2019 年 56 巻 3 号 p. 301-311
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
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    目的:高齢者の排尿障害にはポリファーマシーが関連すると言われているものの,ポリファーマシーによる排尿障害のリスクに,薬剤数あるいは種類のいずれが影響するのかは明らかではない.また薬剤と排尿障害の関連について,尿失禁のタイプ別に検討した報告はきわめて少ない.本研究では,これらの点を明らかにすることを目的とした.方法:在宅医療受療中の65歳以上で要介護1~5いずれかの認定を受け,処方薬5剤以上,抗がん剤による加療を受けていない者を対象とし,訪問看護ステーションに質問紙調査の回答を依頼した.また,排尿チェック票を用い排尿症状を判別した.結果:167名(女性97名,男性70名,平均年齢83.8歳)を分析対象とした.5~9剤処方が59.3%,10剤以上が40.7%であり,男性の10剤以上で,排尿障害のリスクに有意傾向を認めた.排尿障害と薬剤の種類の関連については,女性の場合,腹圧性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が,切迫性尿失禁ではベンゾジアゼピン系薬剤が有意なリスクであることが示された.機能性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が有意なリスク低下を認め,コリンエステラーゼ阻害薬は有意なリスクであることが示された.αアドレナリン受容体拮抗薬とベンゾジアゼピン系薬との併用で,腹圧性および切迫性尿失禁のリスクはそれぞれ単剤投与時より高値を示した.またαアドレナリン受容体拮抗薬とコリンエステラーゼ阻害薬の併用で,腹圧性尿失禁のリスクが著明に高まることが示された.男性ではいずれの排尿障害に対してもリスクとなる薬剤は抽出されなかった.結語:本研究結果より,薬剤による排尿障害には男女差がみられる,排尿障害のタイプによって関連する薬剤が異なる,リスクのある薬剤の併用によりリスクが著明に高まるなどの可能性が示唆された.

  • 鈴木 みずえ, 服部 英幸, 阿部 邦彦, 中村 裕子, 猿原 孝行
    2019 年 56 巻 3 号 p. 312-322
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:介護老人保健施設における認知症高齢者の生活支障ケアプランニングツール(生活支障尺度,困難な状況に苦しむ認知症高齢者の視点から原因やケアのポイント)を用いて,介護老人保健施設のケアスタッフがケアプランおよび実践に活用することの有効性について認知症高齢者およびケアスタッフの両面から検証する.研究方法:平成29年9月~12月末日まで介護老人保健施設に入所する認知症高齢者とケアスタッフを対象とし,評価尺度を用いてベースラインと介入後(1カ月後)を比較した.生活支障ケアプランニングツールを用いたケアを実践する介入群と通常のケアを実施したコントロール群の2群に分けて比較した.結果・考察:対象者である認知症高齢者とケアスタッフはいずれもそれぞれ介入群14名,コントロール群は12名であった.ケアスタッフはそれぞれ6割以上が介護職であった.介入群の認知症高齢者は1カ月後のNPIの下位尺度の混乱とNPI合計,生活支障尺度の焦燥や混乱に関する生活支障が有意に改善した.ケアスタッフの認知症高齢者に対する介護の自己効力感,日本語版Maslach Burnout Inventoryの下位尺度の情緒的消耗,脱人格化などが有意に改善した.結論:生活支障尺度にケアのポイントを含めた生活支障ケアプランニングツールを用いたケア介入は認知症高齢者とケアスタッフの両方に有効であることが明らかになった.

  • 作田 妙子, 守谷 恵未, 大野 友久, 山田 広子, 岩田 美緒, 角 保徳
    2019 年 56 巻 3 号 p. 323-330
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    目的:化粧療法は要介護高齢者や認知症患者に対して実施されているが,現場のニーズについての報告はない.本研究では医療従事者を対象に,高齢者の化粧療法に関する現状を把握することを目的とし質問紙を用いて調査を実施した.方法:A県下高齢者専門医療機関(職員数548名)に勤務する化粧が業務に影響すると考えられる医療従事者190名を対象に自記式質問紙法による調査を実施した.職種,性別,年齢について調査し,看護師は病棟勤務看護師を対象とし配属病棟の調査も実施した.高齢者における化粧療法の認識と容認できる化粧内容について質問した.対象者全体での検討以外に,看護師と療法士間,看護師の従事病棟別,性別ごとにも検討を加えた.結果:質問紙は121名から回収した(平均年齢33.3±9.4歳 男性42名 回収率63.7%).看護師55名,理学療法士25名などの職種となった.化粧は気分を良くし生活の質が向上すると考えている者がほとんどだが,化粧療法を初めて知った者が多かった.化粧療法をやってみたい者は全体の半数で看護師や女性はやや多かった.外来患者はほとんどの化粧内容が容認でき,入院患者はスキンケア以外の容認率が低かった.看護師,療法士間で比較したところ,入院患者のファンデーション,アイメイク,頬紅で看護師の容認率が低かった.女性で化粧療法をやってみたいと考える者が有意に多く,入院患者のファンデーションおよび頬紅の容認率が有意に低かった.従事する病棟別では,回復期リハビリテーション病棟では化粧療法をやってみたいと思う者が多く,各化粧内容の容認率が全体的に高い傾向があったが,有意差は認めなかった.結論:化粧療法は生活の質改善に効果があると考えながらも,実施したいという者は半数であった.また,化粧内容により容認率に差があった.化粧療法の現状を把握でき,その普及に資するデータが得られた.

症例報告
  • 木村 俊介, 大﨑 正登, 坂井 翔建, 大屋 祐一郎, 吾郷 哲朗, 北園 孝成, 荒川 修治
    2019 年 56 巻 3 号 p. 331-335
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳女性.9年前に非弁膜症性心房細動に対して抗凝固療法を開始し,近年はアピキサバン常用量(5 mg,1日2回)を内服していた.服薬アドヒアランスは良好であった.X年11月某日,構音障害が突発したため来院した.軽度の右中枢性顔面神経麻痺を呈し,頭部MRIでは左前頭葉に新鮮梗塞を認めた.MRAで脳主幹動脈に狭窄性病変は認められず,非弁膜症性心房細動を有することから心原性脳塞栓症と診断した.ヘパリンとエダラボンの投与を開始し増悪や再発なく経過したが黄疸が出現し貧血が進行した.直接クームス試験が陽性で寒冷凝集素価も上昇していたことから混合型自己免疫性溶血性貧血と診断した.第12病日にヘモグロビンが7.0 g/dlまで低下したが,ステロイド治療により貧血の進行は停止した.本症例では半年前から軽度の貧血(ヘモグロビン:9.2~10.9 g/dl)と高ビリルビン血症(総ビリルビン:1.8~2.6 mg/dl)が出現していたことが判明した.潜在していた自己免疫性溶血性貧血が血栓形成の助長因子となり,心原性脳塞栓症発症を契機に顕在化した可能性のある興味深い症例と考えられた.

  • 中屋 雅子, 大家 理恵, 宮元 進
    2019 年 56 巻 3 号 p. 336-342
    発行日: 2019/07/25
    公開日: 2019/07/31
    ジャーナル フリー

    スルホニル尿素薬(以下SU薬)は膵β細胞からのインスリン分泌を刺激するため,特に高齢者では低血糖を起こしやすく,かつ反復・遷延しやすい.酢酸オクトレオチドは,長時間作用型のソマトスタチンアナログで,膵β細胞に作用しインスリン分泌を抑制するため,SU薬による低血糖の治療選択肢の1つとして挙げられる.だが,高齢者に対する使用経験の報告はほとんどない.今回我々は高齢の2型糖尿病患者でSU薬による反復・遷延する重症低血糖に対して,オクトレオチド皮下投与が奏効した症例を経験したため報告する.症例は89歳,男性.糖尿病,陳旧性心筋梗塞後で近医からグリメピリド0.5 mgを処方されており,直近のHbA1cは5.7%と低値であった.家族によるとX月Y-1日の18時までは意識清明であった.Y日の朝に自宅で倒れている所を発見され,当院搬入となった.JCS300の意識障害と血糖22 mg/dlを認め,病歴からSU薬による低血糖昏睡と診断した.末梢血管から10%ブドウ糖液の点滴と1~2時間毎の50%ブドウ糖液の静注を行ったが,低血糖は遷延した.Y日23時とY+1日7時の計2回オクトレオチド50 μgの皮下注射行い,その後は一度も低血糖が再燃することはなかった.またオクトレオチドによる副作用症状はなく,高齢者ではあったが安全に使用することが可能であった.SU薬による反復・遷延する重症低血糖では,効果が持続的でかつ安全に使用できるオクトレオチド投与が有用である.

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