日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
58 巻, 4 号
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目次
総説
  • 赤松 直樹
    2021 年 58 巻 4 号 p. 529-532
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    高齢者はてんかんの好発年齢で,高齢者の1%以上がてんかんを有する.本邦では約40万人の高齢者がてんかんに罹患している.高齢初発てんかんは,痙攣をきたさない焦点意識減損発作focal impaired awareness seizure(複雑部分発作complex partial seizure)が多い.1~5分間の意識変容をきたす発作であり前兆や自動症を伴うことが多い.全身痙攣発作で発症した場合は,焦点発作からの両側性強直間代発作への進展が大部分である.非痙攣性てんかん発作重積状態は持続する意識障害を呈するが,脳波検査をしないと診断は困難である.認知症外来に意識消失焦点発作の患者が受診することがあるので,日常臨床では留意する必要がある.

老年医学の展望
  • 大河内 二郎
    2021 年 58 巻 4 号 p. 533-539
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    介護老人保健施設の特徴は,利用者の多様なニーズに応える多目的性・多機能性である.

    介護老人保健施設は高齢者ケア施設であるが,老人ホームではなく,高齢者に対する在宅復帰および在宅生活を支援する施設である.また団塊の世代の高齢者は,自宅生活の維持への要望が強く,在宅復帰,在宅支援を目指す老人保健施設への期待は大きい.

    その一方で老人保健施設はCOVID19の蔓延に伴う施設負担の増加,社会の少子高齢化に伴う人員確保困難,制度上の事務負担増など課題満載である.今後変化し続ける利用者のニーズに応えるため,これからの介護老人保健施設に期待される役割と課題について考察した.

特集
高齢者の食と栄養
原著
  • 古川 勝敏, 宮澤 イザベル, 金子 英司, 石木 愛子, 荒井 啓行, 石川 崇広, 大西 丈二, 葛谷 雅文
    2021 年 58 巻 4 号 p. 570-578
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:超高齢社会を迎えた我が国において,高齢者医療の果たす役割はこれまで以上に重要になっている.より良い高齢者医療を国民に提供するには医学部生ならびに若い医師への老年医学の教育は必須である.方法:本論文においては,日本老年医学会教育委員会が,インターネットにて諸外国の医学部における老年医学の卒前教育について情報を収集,解析し,日本の状況と比較検討を行った.結果:老年医学教育を医学部の必修科目としているの国は調査した国々の65%であり,英国,ドイツ,オーストリア,デンマーク,フィンランド,スウェーデン,オランダ,スペイン,カナダ,ニュージーランド等のこれまで福祉先進国と言われる国々で充実した卒前老年医学教育が行われていた.また多くの国々において,教育にあたるスタッフ数や時間の少なさが問題点として挙げられていた.結論:老年医学の教育は多くの国々においてその重要性が叫ばれているが,満足の得られる状況にある国は少なく,現在より良いものにしていこうとする“奮闘”が世界各国で続いていると思われる.

  • 木下 かほり, 大塚 礼, 高田 理浩, 安居 昌子, 西田 裕紀子, 丹下 智香子, 富田 真紀子, 下方 浩史, 今泉 明, 荒井 秀典
    2021 年 58 巻 4 号 p. 579-590
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:神経伝達物質合成に関与するアミノ酸摂取と認知機能に正の関連が示唆されている.記憶機能低下とアミノ酸摂取の関連の検討は,認知症予防のための栄養管理に役立つ可能性があるが,その関連は十分に明らかでない.認知機能低下初期にはエピソード記憶の低下を認めることが知られているため,一般地域住民のエピソード記憶とアミノ酸摂取の横断的関連を検討することを研究目的とした.方法:対象は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」の第4次調査('04.6~'06.7)に参加した40~85歳の男女2,082名(男性50.1%).エピソード記憶はウェクスラー記憶検査の論理的記憶課題IIで評価した.3日間食事秤量記録から求めたたんぱく質,19種アミノ酸それぞれに対し1日平均摂取量の性・年代別三分位で対象者を分け,エピソード記憶の得点を従属変数として一般線形モデルで解析した.共変量は,モデル1:性,年齢,体格指数,教育歴,抑うつ状態,喫煙歴,就業状況,独居の有無,年間世帯収入,糖尿病・脳卒中・脂質異常症・高血圧症・虚血性心疾患の既往,モデル2:モデル1とエネルギー摂取量,モデル3:モデル2とたんぱく質摂取量とし,有意水準は両側5%とした.結果:平均年齢(標準偏差)は59.4(12.3)歳であった.エピソード記憶の得点は,エネルギー摂取量調整後,たんぱく質摂取量が多いほど高値となる傾向を認めた(群間差p=0.053,傾向性p=0.015).アミノ酸では,たんぱく質摂取量調整後,イソロイシン,ロイシン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,チロシン,トリプトファン,バリン,ヒスチジンの摂取量が多いほど高値を示した(群間差,傾向性ともにp<0.05).結論:エネルギー及びたんぱく質摂取量とは独立して,特定の必須・準必須アミノ酸の食事からの摂取量とエピソード記憶の得点に正の関連が示唆された.

  • 呉代 華容, 樺山 舞, 神出 計, 野上 素子, 春日 彩花, 安元 佐織, 増井 幸恵, 赤坂 憲, 池邉 一典, 石﨑 達郎, 樂木 ...
    2021 年 58 巻 4 号 p. 591-601
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため,我が国では2020年4月から5月にかけ緊急事態宣言が発令され,外出自粛や人との接触を減らすことが奨励された.これにより,特に高齢者の心身機能への影響が懸念されたため,後期高齢者を対象に,活動量の主観的な変化について,年代,地域別に把握すること,またその関連因子を検討することを目的とした.方法:高齢者長期縦断疫学研究(SONIC研究)に参加している地域在住高齢者に郵送アンケート調査を実施し,自粛期間中(4,5月頃)の活動量,やる気の低下等について尋ねた.活動量減少についての集計を年齢コホート・地域別に行い,活動量減少に関連する要因についてロジスティック回帰分析を用いて検討した.結果:有効回答が得られた1,785名(回答率75.2%)のうち,分析対象者は70歳コホート753名,80歳コホート496名,90歳コホート293名の計1,542名であった.活動量が減少したと回答したのは70歳コホートで68.1%,80歳コホートで65.3%,90歳コホートで56.0%,地域別には都市部で69.4%,非都市部57.7%であった.活動量減少にはやる気が起きないことと新型コロナウイルスへの不安が強く関連したとともに,70歳・80歳コホートでは都市部で活動量減少が多かった.90歳コホートでは地域の影響は減弱し,経済状況にゆとりがないことと2年前の歩行速度1 m/s以上であることが活動量減少に有意な関連を認めた.結論:活動自粛に伴う影響は年代,地域で異なっていた.コロナ禍での生活不活発による健康への悪影響を予防するためのアプローチは都市部においてより重要性が高いことが示唆された.また,90歳以上の超高齢群では元の身体状況や経済状況など70,80代とは異なる要因が活動量低下に関連することが明らかとなった.

  • 糀屋 絵理子, 樺山 舞, 山本 真理子, 樋上 容子, 小玉 伽那, 向井 咲乃, 矢野 朋子, 奈古 由美子, 中村 俊紀, 廣谷 淳, ...
    2021 年 58 巻 4 号 p. 602-609
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:多病を抱える高齢者の疾患管理において,季節変動に伴う血圧の変化が,臨床上,問題であると指摘されている.本研究では,在宅医療を受療中の在宅療養高齢者において,季節変動に伴う血圧変動の実態を把握するとともに,療養中イベントとの関連,変動に関連する要因を検討した.方法:包括的在宅医療確立を目指したレジストリー研究(OHCARE研究)の協力機関にて在宅訪問診療を受療している,65歳以上の患者,かつ初回調査と追跡調査(平均追跡日数368日)で,夏季(6/1~8/31),冬季(12/1~2/28)に調査を行った57名を対象とした.診療記録より,患者の基本属性,血圧値,療養中イベントを含む情報を収集し,季節変動に伴う血圧値を把握した.また,収縮期血圧における季節間血圧変動について,中央値を基準に,季節変動大・小の2群に分け,対象の特性を比較するとともに,療養中イベント(入院,転倒,死亡)との関連の有無を検討した.結果:対象の約60%は要介護3以上と虚弱状態であった.患者の血圧平均値は,夏季120.5±12/66.9±8 mmHg,冬季124.7±11/69.5±7 mmHgと冬季の方が有意に高値であった(P<0.01).また血圧変動レベル大小2群で特性を比較すると,変動レベルが大きい群の方が小さい群より,夏季血圧が有意に低かった.また,血圧変動レベルが大きい群の方が「療養中の入院」の発生割合が有意に高かった(P=0.03).結論:在宅医療を受ける高齢療養者において,季節間で血圧は変動し,特に夏季の血圧低下が変動に影響する可能性が考えられた.また,血圧変動性の大きさが療養中の入院イベントリスクと関連する可能性が示唆された.これらの変動を把握した上で,医療者は臨床的な諸問題を考慮し,患者個々に最適な治療,ケアを検討する必要がある.

  • 平原 佐斗司, 山口 泰弘, 山中 崇, 平川 仁尚, 三浦 久幸
    2021 年 58 巻 4 号 p. 610-616
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:末期認知症高齢者の多くが肺炎を合併して死亡するが,その苦痛は明らかになっていない.本研究の目的は末期認知症高齢者の肺炎の苦痛を明らかにすることである.方法:医学中央雑誌Web版,MEDLINE(STN)/EMBASE(STN),Cochrane Libraryから検索式を用い,「末期認知症高齢者の肺炎の苦痛は何か」を含む5つのCQに該当する文献を検索し,604論文を抽出した.アブストラクトを用いた一次スクリーニングで該当する42論文を抽出,二次スクリーニングで17論文を採用し,このうち本CQに該当する6論文を解析した.結果:食べられなくなり脱水等で死亡する末期認知症高齢者に比べ,肺炎を合併して死亡した末期認知症高齢者は不快感や呼吸困難が強かった.肺炎で死亡する末期認知症高齢者の観察された症状は,咳・痰・呼吸困難などの呼吸器症状,発熱,意識レベルの低下などであった.末期認知症に肺炎を合併し,改善した例では,呼吸困難や不快感などの苦痛は診断当日が最も強く,死亡した例ではこれらの苦痛は死亡約一週間前から出現し,死亡前日にかけて最大化していた.死亡前数日では,疼痛,呼吸困難,不穏・興奮など複数の苦痛が混在していることが多かった.結論:末期認知症高齢者の肺炎急性期と肺炎による看取り期は不快感や呼吸困難などの苦痛が強いため,積極的な緩和ケアが必要である.

症例報告
  • 鷲見 信清
    2021 年 58 巻 4 号 p. 617-623
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    高齢者脊椎疾患の治療法の選択では侵襲的手術を躊躇し難渋する.診断では画像所見で無症候性の脊髄圧迫や馬尾圧迫の問題が生じ客観的に評価可能な電気生理検査が有用である.今回,高齢者腰椎疾患2例に低侵襲的な脊髄電気刺激(SCS)を施行し,脊髄機能評価として中枢運動伝導時間(CMCT),馬尾伝導時間(CECT)等の電気生理検査を行ったので,SCS治療と電気生理診断の有用性について報告する.

    (症例1)68歳女性.2020年8月両下肢痛,間欠跛行,左長母趾伸筋(EHL)低下が見られた.MRI所見で第4腰椎変性すべり,L3/4脱出ヘルニアと腰部脊柱管狭窄を認め馬尾型脊柱管狭窄症が疑われた.CMCTは両側遷延して皮質脊髄路障害が疑われ,CECTは左が有意に遷延し馬尾障害が疑われた.鎮痛剤と物理療法で症状改善なく低侵襲手術を希望され同年9月SCSを施行した.術後2週で左EHL筋力回復を認め,術後10週でCMCTとCECTの左側改善傾向が見られ術後4カ月より鎮痛薬は不要となった.(症例2)79歳女性,第4腰椎変性すべり手術後症候群,骨粗鬆症,腓骨神経麻痺.2011年後方除圧術,2014年L4-5固定術を受けている.2020年2月初診時所見で腰痛,両下肢痛,T字杖間欠跛行,両下肢筋力低下が見られ,MRI所見で腰部脊柱管狭窄を認めた.CMCTは両側遷延し皮質脊髄路障害と両腓骨神経障害が疑われ,同年12月にSCSを施行した.術後2カ月で両下肢筋力の回復とCMCTの改善傾向が見られ,腓骨神経伝導速度の回復が認められた.2症例とも皮質脊髄路障害や馬尾障害が疑われ,病巣部の神経根や硬膜管の器質的圧迫を除圧することなく,SCS治療で症状の回復とCMCT,CECTの改善傾向が認められた.高齢者の脊椎疾患では低侵襲的SCS治療は有用であり脊髄機能評価が可能な電気生理診断は有益と思われる.

  • 鈴木 祐, 櫻井 謙三, 内野 賢治, 井上 健夫, 高橋 幸利, 長谷川 泰弘, 山野 嘉久
    2021 年 58 巻 4 号 p. 624-629
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    72歳女性.肺腺癌に対しニボルマブを8コース終了後より発熱,意識障害が出現した.髄液検査にて細胞数の上昇を認め,細菌培養,HSV-PCR,抗酸菌染色および細胞診は陰性,各種血清傍腫瘍症候群関連抗体は陰性.血清及び髄液中抗NMDA型GluR抗体(ELISA)は陽性であった.頭部MRIでは,FLAIR画像にて右頭頂葉に高信号を認めた.免疫介在性脳炎と判断しステロイドパルス療法を施行,治療後より速やかに症状は改善した.本例は抗NMDA型GluR抗体(ELISA)陽性であったが,臨床経過からニボルマブ関連脳炎と判断した.近年免疫チェックポイント阻害薬は急速に普及しているが,本邦でも報告の少ない免疫チェックポイント阻害薬関連脳炎を経験したので報告する.

  • 宮口 祐樹, 加藤 聡美, 齋藤 愛美, 井上 陽平, 家田 研人, 市原 詩恵, 小林 瑞穂, 高橋 直生, 岩野 正之, 菅 憲広
    2021 年 58 巻 4 号 p. 630-636
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/12/08
    ジャーナル フリー

    症例は81歳女性.X-1年7月に近医で慢性腎臓病(CKD)を指摘され,当科に紹介された.シェーグレン症候群の診断基準を満たし,CKDの原因としてシェーグレン症候群による尿細管間質性腎炎(TIN)を考えたが,患者本人の希望により腎生検やステロイド療法などの精査加療は行わず経過観察していた.X年7月に腎機能が再増悪し,超音波ガイド下経皮的腎生検を行った.腎病理所見では,IgM/CD138二重染色でIgM陽性形質細胞が腎間質に多数浸潤していたことから,Tubulointerstitial nephritis with IgM-positive plasma cells(IgMPC-TIN)と診断した.

    IgMPC-TINは2017年にTakahashiらにより提唱された,病理学的にIgM陽性形質細胞が腎間質に多く浸潤していることを特徴とするTINであり,治療としてはステロイド療法が有効とされている1).本症例は高齢であったがステロイド療法を施行したところ,腎障害は残存したものの,腎機能をはじめとした血液検査および尿検査所見の改善が得られた.また,間質性肺炎も若干の改善がみられた.ステロイド投与量を漸減している現在も再燃なく経過している.

    高齢者は複数の基礎疾患を有し,多数の薬剤を内服していることが多く,TINを始めとした腎障害の原因特定に苦慮することがあるが,高齢者においても腎生検は腎障害の原因特定と腎予後の推定に有用である.IgMPC-TINは治療により腎機能の改善が期待できることから見逃してはならない病態と考えられ,腎生検で適切に診断したうえで治療を検討することが重要である.

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