日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
58 巻, 3 号
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目次
尼子賞受賞講演
総説
  • 亀田 雅博, 近藤 祥司
    2021 年 58 巻 3 号 p. 333-340
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    現在,老化先進国日本では,「老化の多様性」に直面しつつある.遺伝的獲得形質とは異なり,環境改善による寿命延長は,個体差や地域差の影響が出やすいので,「老化の多様性」に繋がる可能性がある.寝たきりの手前の状態であるフレイルも増加している.フレイルでは筋力低下のような身体的問題だけでなく,認知機能障害などの精神・心理的問題,独居などの社会的問題を含む.

    メタボロームは,細胞が生きている間に合成・代謝する非常に小さなメタボライト(代謝物)成分(低分子)を,マススペクトロメトリーなどを応用する事により網羅的に計測する最先端技術である.メタボロームにより,新規バイオマーカーや,病態の解明が報告されている.フレイルに関するバイオマーカーも最近散見されるが,必ずしもその知見が一致せず,議論されている.その一因は,①メタボローム手技自身の多様性と,②フレイルの病態の多面性にあると考えられる.

    我々は,独自のヒト血液メタボローム解析方法を構築し,①日周変動,②赤血球に豊富か,③個人差などの解析を重ねた.この技術を用いて,14個の老化マーカー,44個の飢餓マーカー,15個のフレイルマーカーなどの同定に成功した.特にフレイルマーカーに関しては,①抗酸化物質低下,②認知機能関連メタボライトのフレイルマーカーとの重複,③筋肉や窒素代謝関連メタボライトの運動能低下との関連,④老化マーカーと,フレイルマーカーの重複など,興味深い知見を得た.

    他のグループのフレイルメタボライトを含め,その進展を概説する.

  • 立花 久大
    2021 年 58 巻 3 号 p. 341-352
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    人口の高齢化とともに高齢発症パーキンソン病患者が増加している.高齢発症パーキンソン病は若年・中年発症パーキンソン病とは臨床的特徴に異なる点がみられ,診断治療上注意が必要である.パーキンソン病の診断にはパーキンソニズムを有し,二次性パーキンソニズム(特に薬剤性および脳血管性)およびパーキンソニズムを呈する神経変性疾患(特に多系統萎縮症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,など)を鑑別し,抗パーキンソン病薬(特にL-dopa)により運動症状が改善されることが重要である.高齢発症パーキンソン病ではL-dopaに対する反応性が低下しているとされており,判定には注意を要する.高齢発症パーキンソン病は進行が速く,生存期間が短い.姿勢保持障害などの体軸症状や歩行障害が出現しやすく,認知症に進展することも多い.また併存疾患,特にアルツハイマー病病理の合併が多くみられ,生命予後を悪くする付加的要因となりうる.高齢発症パーキンソン病患者は抗パーキンソン病薬で精神症状などの副作用が出現しやすい.したがって,高齢発症パーキンソン病の治療の原則は,最も有効な抗パーキンソン病薬であるL-dopaを中心として使用し運動機能障害を改善すること,および薬物副作用が出やすいことに留意することである.さらに,患者のADL,QOLならびに生命予後を改善するためにはパーキンソン病とともに併存症を含めた病態に対する総合的評価に基づいて管理を行う必要があると考えられる.

老年医学の展望
  • 清家 理
    2021 年 58 巻 3 号 p. 353-362
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    本稿では,介護者のwell-beingとは何か,またwell-beingの獲得を確認する方法とはどのようなものか,理論と実践,二側面の先行研究を用いて考察した.

    well-beingとは何かについての回答は,立場によって大きく異なる.哲学的側面では,“amounts to the notion of how well a person's life is going for that person”という概念に相当するとされている.しかし,正確さに欠ける懸念もあり,well-beingを定義する際には,定義のStrategy(分析対象・議論領域・定義の方向性),subjective well-beingかpsychological well-beingかのスタンスを検討する必要性がある.そして,心理学領域から,“feeling good and functioning well”“個人の人生における快い主観的な経験,意味・意義のある活動,人間としての可能性を実現する社会的な関係から成る複合的な概念”という定義がなされている.これらの定義の根底にあるのはthe whole human pictureを捉える重要性である.さらに発展させた形態としてWell-beingの構成要素がPERMA(Positive Emotion,Engagement,Relationships,Meaning,Accomplishment)という仮説的定義があり,この構成要素がwell-beingの予測因子になりうるか研究が進められている.

    一方,介護領域の介入試験のアウトカムで用いた既存尺度の探索Review研究では,1.Global Measure of well-being(Depressive Symptoms・Mental health・QOL・Satisfaction with life・Health),2.Caregiver-Specific Well-being measures(Burden・Role strain・Personal strain/Stress・Competence/self-efficacy)に大別された.そしてDepression,Burdenなどwell-beingのnegativeな側面に焦点化した測定が大半を占めた.

    この結果は,従来の疾病管理的側面の体験により,Patho-genesis的な志向(健康にとって望ましくない要素・問題を除去し改善することが善)への親和性を示している.認知症介護を巨視的,包括的に捉え,介護者のWell-beingを定量的に評価する簡便な測定ツールが無いとするならば,当面は,複数のツールで評価せざるをえない.測定する内容(種別・項目)を増やすことは,測定対象者(介護者)のQOLを著しく下げることになりかねない.

    認知症介護を巨視的,包括的に捉え,介護者のwell-being状態を簡便に把握するにはどのようにすればいいのか,その解として,介護者向け心理教育的介入試験で実施したSocial Work手法のEco-mapにヒントがあることを示した.

特集
高齢者の心不全治療2021
早老症研究の最前線
原著
  • 井田 諭, 金児 竜太郎, 今高 加奈子, 藤原 僚子, 勝田 真衣, 白倉 由隆, 大久保 薫, 東 謙太郎, 村田 和也
    2021 年 58 巻 3 号 p. 417-423
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,高齢糖尿病患者における転倒歴と閉じこもりとの関連性を検討することである.方法:対象は伊勢赤十字病院外来通院中の65歳以上の糖尿病患者とした.外出頻度が一日に一回未満の場合を閉じこもりと定義し,また過去一年間の転倒歴の有無を調査した.従属変数を閉じこもり,説明変数を転倒歴及び調整因子(年齢,性別,糖尿病罹病期間,HbA1c,心血管疾患,認知・生活機能低下,うつ,独居,孤立,及び糖尿病治療)としたロジスティック回帰分析を用いて転倒歴の閉じこもりに関する調整後オッズ比を算出した.結果:564例(男性319例,女性245例)が本研究の解析対象となった.転倒歴あり及び閉じこもり該当者はそれぞれ198人(35.1%),88人(15.6%)であった.転倒歴の閉じこもりに関する調整後オッズ比は2.69(95% confidence interval,1.31 to 5.52;P=0.007)であった.結論:本研究において,転倒歴は閉じこもりに有意に関連した.転倒歴を有する高齢糖尿病患者を診た際の閉じこもりへの注意喚起が重要と考えられた.

  • 大坪 尚典, 須田 烈史, 太田 由利, 鍛冶 保奈実, 太田 和宏, 越崎 雅子
    2021 年 58 巻 3 号 p. 424-435
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    目的:後期高齢患者の生命予後に影響する要因を検証した.方法:2016年4月から2017年3月に入院した後期高齢患者(75~99歳)431例の生死を3年間追跡し,多変量解析により生命予後影響因子を検証した(P<0.05).結果:Cox回帰により,年齢,Charlson comorbidity index(CCI),入院前日常生活動作,退院時座位保持,Subcutaneous adipose tissue index(SATI),Controlling nutritional status(CONUT)変法が有意な生命予後影響因子に選択され,各ハザード比(95%信頼区間)は,年齢:1.050(1.014~1.087),CCIのLow vs Medium:0.106(0.032~0.353),Low vs High:0.244(0.150~0.398),Low vs Very high:0.514(0.326~0.809),入院前日常生活動作の歩行 vs 座位:1.861(1.158~2.988),退院時座位保持:0.429(0.277~0.663),SATI:0.988(0.979~0.997),CONUT変法の正常 vs 軽度不良:0.114(0.042~0.311),正常 vs 中度不良:0.235(0.110~0.502),正常 vs 重度不良:0.351(0.166~0.741)を示した.決定木により,CCI,Body mass index >20.7 kg/m2,CONUT変法,退院時座位保持による1年生存モデルが成立し,退院時座位保持,SATI >43.9 cm2m-2,CCI,性別,CONUT変法による2年生存モデルが成立した.結論:高いSATIとBody mass indexは良好な生命予後に寄与する.

  • 堀越 一孝, 藤田 峰子, 島津 尚子, 隆島 研吾
    2021 年 58 巻 3 号 p. 436-445
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    目的:運動機能が高い要支援・要介護高齢者の活動狭小化の要因を,運動機能以外から明らかにすること.方法:短時間型通所リハビリテーション,運動特化型デイサービスの利用者671名のうち先行研究をもとにTimed Up & Go test(TUG)が12秒以下の運動機能良好型に該当し,同意を得た340名を対象とした.調査項目は,Life-Space Assessment(LSA),年齢,性別,疾患名,要介護度,同居家族人数,サービス利用頻度,TUG,握力,老研式活動能力指標,Fall Efficacy Scale(FES),日本語版高齢者抑うつ尺度短縮版,主観的健康感,日本語版Lubben Social Network Scale 短縮版,趣味・家庭内の役割・近隣の公共交通機関・スーパー・疼痛の有無とした.統計学的解析は,LSA得点56点未満を「活動狭小型」,56点以上を「機能活動良好型」と定義した.この2値変数を従属変数,各調査項目を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を行った.統計処理は,SPSS Statistics Ver.25を用い,有意水準は5%未満とした.結果:対象者は,「活動狭小型」139名,「機能活動良好型」201名であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,活動狭小化の要因は,Instrumental Activities of Daily Living(IADL)およびFESの低下,公共交通機関がないことがあげられ,各々のオッズ比(95%CI)は,IADL:0.608(0.453~0.816),FES:0.908(0.855~0.963),公共交通機関あり:0.619(0.390~0.982)であった.結論:IADL,FES,公共交通機関の有無の評価を行うことで活動狭小化の要因を把握できる可能性が示唆された.

  • 須藤 英一
    2021 年 58 巻 3 号 p. 446-452
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    当大学では2007年度より作業療法学科(理学療法学科は選択科目)の学生へ15回/年間の老年学の講義を行ってきた.今回,これまで卒業した学生を対象に老年学の講義が有益であったかを問うアンケート調査を行い,卒業生計511人中58人から回答を得た.結果は,老年学の講義が大いに役立っている,と回答した人数は1人(1.7%),以下役立っている30人(51.7%),役立っていない26人(44.8%),全く役立っていない1人(1.7%)であった.役立っていない理由を検討した結果,今後の講義には,日常臨床で対応が問われていることや,なぜ老年学が必要なのかなどを見直し,これまで以上に,より具体的に掘り下げる必要性を感じた.

  • 福永 昇平, 星野 祐輝, 大庭 雅史, 川西 未波留, 吉金 かおり, 江川 雅博, 伊藤 孝史, 田邊 一明
    2021 年 58 巻 3 号 p. 453-458
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    目的:後期高齢者に対する腎生検の安全性と有用性を検討する.

    方法:2008年1月1日から2018年12月31日までに島根大学医学部附属病院腎臓内科で腎生検を実施した後期高齢者52名(男性29名,女性23名)を対象とし,腎生検の安全性と有用性について後ろ向きに検討した.

    結果:腎生検の適応理由はネフローゼ症候群が22例で最多であった.ついで急速進行性糸球体腎炎(12例),無症候性の検尿異常(12例)であった.病理診断は膜性腎症が12例で最多であり,ANCA関連腎炎(8例),微小変化型ネフローゼ症候群(6例),膜性増殖性糸球体腎炎(5例),IgA腎症(4例),糖尿病性腎症(3例)であった.臨床診断と病理診断の一致率は53.8%であった.腎生検の合併症は1例(1.9%)で輸血を必要とする出血を認めた.腎生検前後のHb値は0.5±0.9 g/dL低下した.腎生検によって治療方針の変更が21名(40.4%)で行われた.

    考察:本研究で腎生検後に輸血以上の処置を要した割合は,過去の報告と同程度であり,後期高齢者でも安全に腎生検が施行できた.臨床診断と病理診断の一致率は約50%であり,治療方針決定に与える影響も大きいため,後期高齢者であっても,腎生検の施行を検討する必要がある.

  • 庹 進梅, 樺山 舞, 黄 雅, 赤木 優也, 呉代 華容, 清重 映里, 畑中 裕美, 橋本 澄代, 菊池 健, 神出 計
    2021 年 58 巻 3 号 p. 459-469
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    目的:“いきいき百歳体操”は住民への介護予防の取り組みの一つとして,全国で広く実施されている体操である.本研究では,身体機能への効果についての検証を行うことを目的とし,合わせて主観的健康感への影響,社会活動との関連についても検討することとした.方法:本研究は,2015年10月~2019年6月の期間に,大阪府能勢町において,介護予防事業として実施されている,いきいき百歳体操に参加した町民を対象とした.初回から半年ごとに体力測定,基本チェックリスト,いきいき百歳体操支援アンケートを実施しており,体力測定については初回と1年後のデータを比較した.体力測定項目は,5 m間最大歩行,Time Up and Go Test,5回立ち上がり時間,握力である.対象者におけるフレイル状態有無は基本チェックリストを用いて判定した.性別,フレイル有無別に体力測定結果を比較した.結果:本研究期間にいきいき百歳体操に一度でも参加し,調査を行えたのは1,028人であった.女性が766人(74.5%)と多く,平均年齢は72.6±8.0歳,506人(49.2%)が前期高齢者であった.データの揃っている464名において,体力測定での測定値の変化について,初回と1年後を比較したところ,4項目すべてで有意な改善を認めた.主観的健康感が良いと回答した者は,初回の29.1%から半年後には45.4%に増えていた.毎月1回以上参加している社会活動については,半年後,1年後に,老人クラブ,ボランティア活動など一部の社会活動への参加割合が増加していた.結論:いきいき百歳体操は地域在住高齢者の身体機能を維持・改善させることが示唆された.加えて,体操参加により,主観的健康感が高まり,社会活動も活発化する可能性があり,特に高齢化の進む地域や自治体において推奨される介護予防事業であると考えられた.

症例報告
  • 小野 拓哉, 石川 元直, 小笠原 知子, 松居 一悠, 松尾 俊哉, 高橋 健一郎, 河原 勇貴, 櫻井 彩奈, 佐倉 宏
    2021 年 58 巻 3 号 p. 470-475
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)は全世界に拡大しており,日本国内でも収束の気配はない.特に高齢者では死亡率が高いことが知られており,要介護状態や併存疾患もあり,医療の現場に与える負担は大きい.当院ではこれまでに90歳以上の超高齢者におけるCOVID-19症例を8例経験し,特にSARS-CoV-2 PCR検査(以下PCR検査)陰性化が転機に大きく作用したであろう3例を報告する.症例1は91歳女性.前医にて細菌性肺炎と診断されるも改善せず,発症16日に当院転院となり,PCR検査にてCOVID-19と診断した.ファビピラビル,メチルプレドニゾロン,未分画ヘパリン投与で状態が落ち着いたもののPCR検査陰性化まで日数を要し,発症71日で転院となった.しかし再度陽性となったため発症80日で当院再転院となった.その後もPCR検査陰性とならずに発症110日で他院へ転院した.症例2は102歳女性.軽症例にもかかわらずPCR検査陰性化まで32日間を要し,ADL低下につながった.症例3は90歳男性.入院時は中等症II相当で,ファビピラビル,デキサメタゾン,未分画ヘパリンを投与したが,合併した間質性肺炎の増悪により全身状態は悪化した.家族の面会希望を叶えるために一般病床転出を目指したが,PCR検査を複数回施行するも陰性にならず,発症20日で死亡した.いずれの症例もPCR検査が陰性化しないことが円滑な退院や一般病棟転出を妨げていた.PCR検査陽性は必ずしも感染性を示唆しないという報告は多数あるが,2020年12月の時点では退院基準はあるものの明確な隔離解除の基準はない.そのため医療現場では「安心のため」PCR検査の陰性化が求められることが多い.治療終了後はPCR検査よりも日常的な健康観察,標準予防策,マスクの着用,他人との距離を適切に保つなどの感染予防策をしっかり行うことが重要である.

  • 柴 隆広, 佐藤 美穂, 秋澤 尚実, 沢谷 洋平, 村井 弘之, 桐生 茂, 大塚 美恵子, 浦野 友彦
    2021 年 58 巻 3 号 p. 476-481
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    我々は腸間膜リンパ腫に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を併発し,ALS発症から9カ月後に敗血症にて死亡した症例の経緯を通所リハビリテーションに従事する理学療法士の立場から報告する.

    症例は69歳,女性.X年9月に腸間膜リンパ腫を発症,X年11月に足趾の脱力を自覚する.上位・下位運動ニューロン障害と電気生理学検査にて脊髄3領域に脱神経所見が示されたため,X+1年3月にAwaji基準でdefinite ALSと診断される.X+1年4月より通所リハビリテーション(通所リハ)を利用して在宅療養を継続していた.通所リハ利用当初は著明な球麻痺症状は認められなかったが,徒手筋力テストで下肢が0~1,上肢は3~4であり,筋力低下と筋萎縮を認めた.そして,通所リハ利用中において,上肢の神経症状の増悪と球麻痺,呼吸筋麻痺が出現,ALS Functional Rating Scale-Revised(ALSFRS-R)は低下傾向を示した.

    X+1年7月に腸間膜リンパ腫の増大に起因する尿管閉塞から水腎症を発症,尿路感染症と敗血症のため入院となる.Ceftriaxoneの投与により一時は解熱したが,入院から3日後に全身性炎症反応症候群により死亡した.

    ALSの発症から死亡までの全経過は平均で40.6±33.1カ月と報告されている.ALSの進行は個人差が大きいが,急速な病状の悪化に悪性腫瘍との関連も否定できないと考える.また,運動ニューロン疾患と悪性腫瘍を併発した症例は神経症状の悪化や合併症による重篤によるリスクが高い可能性があった.本症例は複数の生命予後に関与する疾患を有していたが,医療従事者間での情報交換が十分でなかった可能性がある.予後不良かつ複雑な病態管理が必要な高齢者の在宅支援において,通所リハでは症例の病態に応じたリハビリテーション会議の実施が重要である.また,各疾患の主治医との双方向の情報共有が可能となるような施設間連携の構築が求められる.

  • 吉田 泰成, 藤川 達也
    2021 年 58 巻 3 号 p. 482-488
    発行日: 2021/07/25
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.高血圧症で近医通院中,これまで糖尿病診断歴はなかった.X年12月末頃上気道症状を認め数日後近医で内服加療を受けた.数日後嘔吐,下痢を生じ,前医受診し胃腸炎を疑われ投薬を受けた.翌朝,倦怠感,腹部膨満感を主訴に当院来院,診察し検査待ちの間にトイレで突然呼吸停止を来した.

    来院時検査では随時血糖1,385 mg/dl,動脈血pH 6.885(後に血清ケトン体の上昇も確認)および高カリウム(K)血症を認め,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)から,高K血症による心室細動により心肺停止に至ったものと考えられた.速やかに心肺蘇生を施行し救命し得た後,入院のもとDKAの加療を行った.HbA1c7.1%(NGSP),尿中Cペプチド,血中Cペプチドは感度以下,抗GAD抗体陰性,抗IA-2抗体陰性であり,劇症1型糖尿病と診断した.高齢発症劇症1型糖尿病の蘇生例はまれであり,画像経過を観察しえた点も興味深く報告する.

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