日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
最新号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
目次
総説
  • ―細胞可塑性からみた老化の再定義―
    加瀬 義高
    2026 年63 巻3 号 p. 169-174
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり

    老化はこれまで,DNA損傷,テロメア短縮,ミトコンドリア機能障害,慢性炎症などの分子異常が時間とともに蓄積する過程として理解されてきた.しかし近年,体細胞核移植および人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)技術の進展により,分化した体細胞であっても初期化されうることが明確に示された.これは,老化が単なる不可逆的損傷の総和ではなく,少なくともその重要な部分が可塑的な状態変化であることを意味する.本稿では,生命の連続性という視点から,体細胞核移植,iPS細胞,エピジェネティック老化,部分的リプログラミング,さらには胚盤胞様構造や胚モデル研究までを概観し,これらが老年医学に与える概念的・実践的意義を論じる.iPS細胞研究は,加齢性疾患の病態解明や創薬,再生医療のための基盤技術であるだけでなく,「老化はどこまで可逆か」という老年医学の根本問題に答えうる研究領域でもある.

老年医学の展望
  • 岡 敬之
    2026 年63 巻3 号 p. 175-184
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり

    高齢者医療では,多疾患併存,フレイル,サルコペニア,認知機能低下,ポリファーマシーが複雑に絡み合い,画像,検査値,診療記録など多様な情報を統合して個別化した意思決定を行う必要がある.本稿では,整形外科・運動器領域における画像AIを起点として,CT・MRI・超音波による骨・筋の定量化,電子カルテと機械学習を用いたフレイル,転倒,再入院,要介護化の予測モデル,さらに生成AIによる診療記録要約や患者説明,ガイドライン検索を概説する.続いて,画像・検査値・生活機能・自然言語を統合するマルチモーダルAIの可能性と,高齢者データの代表性,年齢バイアス,説明可能性,認知症における同意,デジタルデバイド,生成AIの安全性といった倫理的課題を整理する.AIの目的を診断精度の向上にとどめず,将来の機能低下の予防と,患者が望む生活の維持につなげる診療支援として位置づける視点を示す.

特集
CGAとGeriatric 5Msの融合による高齢者診療の新展開
原著
  • 松本 好晴, 伊藤 一弥, 渡部 健二, 宮﨑 信裕
    2026 年63 巻3 号 p. 211-218
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり

    目的:当院で訪問診療を受ける高齢患者のGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)と医学的,社会生活的因子との関連を検討する.

    方法:対象者は当院で訪問診療を受ける65歳以上の患者とした.診療録から,年齢や性別や既往歴や居住先,食形態,推定糸球体濾過率を抽出し,認知機能と身体機能は介護保険主治医意見書の記載項目で評価した.GNRI値に応じて98以上を栄養リスクなし,92以上98未満を軽度栄養リスク,82以上92未満を中等度栄養リスク,82未満を重度栄養リスクの4つに分類し,多変量順序ロジスティック回帰モデルによるOdds Ratioならびにその95%信頼区間の推定を行った.

    結果:265名が本研究に登録され,年齢の中央値は87(82~92)歳,女性は190名(71.7%),GNRIの中央値は89.8(84.0~96.7)であった.多変量解析では,GNRI重症度との間に統計学的に有意な関連を示した項目は,寝たきり度B・C群は寝たきり度J・A群の2.03倍(95%CI:1.16~3.58,P=0.012),施設居住者は自宅居住者の1.88倍(95%CI:1.17~3.04,P=0.010),ミキサー食は常食の3.21倍(95%CI:1.44~7.35,P=0.004),経管栄養は常食群の4.09倍(95%CI:1.12~15.88,P=0.045),高血圧症群は0.58倍(95%CI:0.35~0.95,P=0.033),脂質異常症群は0.54倍(95%CI:0.32~0.91,P=0.023)有意に重度に近づく傾向が認められた.

    結論:訪問診療を受ける高齢患者のGNRIは,高血圧症と脂質異常症に正の関連を,寝たきり度B・C群と施設居住者群,ミキサー食群,経管栄養群に負の関連があることが明らかになった.

  • 葛迫 剛, 菊地 雄貴, 中野 英樹, 合田 明生, 森 耕平, 白岩 加代子, 堀江 淳, 村田 伸
    2026 年63 巻3 号 p. 219-227
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり

    目的:フレイルと骨粗鬆症が複合すると,いずれか単独の状態より骨折リスクが高まるため,骨量低下とフレイルの二重リスクを早期に把握し介入することが重要である.本研究は,フレイルの前段階であるプレフレイルと骨量低下が複合した高齢者の特徴を明らかにし,早期把握およびスクリーニングに資する知見を得ることを目的とした.方法:65歳以上の地域在住女性高齢者292名を対象とした.骨量は定量的超音波法装置にて測定し,Tスコアが-2.5以下を骨量低下と判定した.プレフレイルは,改定日本語版Cardiovascular Health Studyの基準を用いて,5項目のうち1から2つに該当する場合をプレフレイルと判定した.骨量低下およびプレフレイルの有無により群分けし,4群を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析を実施した.結果:各群の割合は,正常群29.8%,骨量低下群27.7%,プレフレイル群18.5%,骨量低下・プレフレイル群24.0%であった.骨量低下およびプレフレイルの有無と身体・心理・認知機能との関連については,プレフレイル群は,GDS-5(OR=2.536,95%CI:1.586~4.057),転倒不安感(OR=2.662,95%CI:1.227~5.779),骨量低下・プレフレイル群は,TUG(OR=1.979,95%CI:1.188~3.296),MMSE(OR=0.771,95%CI:0.633~0.940),GDS-5(OR=2.775,95%CI:1.732~4.368),転倒不安感(OR=2.303,95%CI:1.091~4.860)が関連を認めた.結論:骨量低下とプレフレイルが複合すると,単独の状態よりも機能低下が多面的に認められた.これらより,地域在住女性高齢者における骨量低下とフレイル評価によるスクリーニングが有用である可能性が示された.

  • 木村 琢磨, 宗像 沙季, 任 博, 平原 佐斗司, 福原 慧, 福原 真理, 馬渕 卓, 橋本 正良, Terri R. Fried
    2026 年63 巻3 号 p. 228-236
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    目的:多疾患併存(multimorbidity)の高齢者では,治療目標の優先順位を明確にする必要がある.Fried TRらにより開発されたOutcome Prioritization Tool:OPT(治療目標の優先順位を確認する質問ツール)は,4項目から成る質問票で,欧米で意思決定支援ツールとして用いられている.本研究の目的は,言語的妥当性を担保したOPT日本語版を開発し,その内容的妥当性を検証することである.方法:原著者の許可を得て,日本語版OPTの開発を行った.まず日本語の母国語者2名が独立して順翻訳を行い,協議の上で日本語翻訳案を作成した.次に英語の母国語者が逆翻訳を行い,原著者および老年専門医3名を交えて照合し,日本語暫定版を作成した.続いて,65歳以上の多疾患併存患者9名(診療所外来3名,大学病院外来3名,訪問診療3名)を対象に半構造化面接を実施し,認知的インタビューにより内容的妥当性の構成要素として,認知的妥当性,表面妥当性,表現の明確性を評価した.結果:認知的インタビューの参加者は男性5名,女性4名で,年齢中央値82歳であった.4項目全体の表面妥当性,表現の明確性は全て中央値4で概ね良好であったが,認知的妥当性は,「痛み以外の辛さを楽にすること」は他の3項目(中央値4)より低かった(中央値2).自由回答で,精神的苦痛の含意が不明確との指摘があったこともふまえ,事前説明の文書を改訂した.原著者の最終承認を得て,日本語版OPT:「自立した生活」,「長生きすること」,「痛みを和らげる」,「痛み以外の辛さを楽にする」を確定した.結論:言語的妥当性を担保し,内容的妥当性が一定程度,確認された日本語版OPTを開発した.本ツールは,多疾患併存の高齢者における治療目標の優先順位を明確化し,患者中心の意思決定支援に資すると考えられる.

症例報告
  • 大橋 優美, 熊谷 仁, 平賀 千尋, 前澤 善朗
    2026 年63 巻3 号 p. 237-242
    発行日: 2026/07/25
    公開日: 2026/09/15
    ジャーナル 認証あり

    82歳女性.意識障害を主訴に救急搬送され,糖尿病ケトアシドーシスと蜂窩織炎の診断で入院した.急性期治療の後,第4病日にはインスリンの持続静注を皮下注射での頻回注射療法に切り替えた.第9病日の随時血清Cペプチド(以下CPRと略す)0.55 ng/mL,血糖218 mg/dLと,インスリン分泌能は低下していた.第16病日,空腹時CPR 0.42 ng/mL,空腹時血糖140 mg/dLと,血糖コントロール改善後もインスリン分泌能の低下が持続していた.インスリン離脱は困難と思われたが,施設退院に向けてインスリンの漸減を図る方針とした.デュラグルチドとレパグリニドの使用を開始したところ,最大で23単位を要していたインスリンを離脱することができた.糖毒性の解除と,GLP-1受容体作動薬を含めた薬物治療がインスリン離脱に寄与したと考えられる.良好な血糖コントロールのためにインスリン治療を必要とするかを予測するために,血清CPRや蓄尿CPRの値が有用と報告されている.既報の値に照らし合わせると,本症例ではインスリン離脱が困難と予想されたものの,実際にはインスリンを離脱することができ,示唆に富む症例と考えられるため,インスリン分泌能の評価に関する注意事項を含めて報告する.

短報
施設紹介
IAGGマスタークラス体験記
feedback
Top