日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
7 巻, 5 号
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  • 第1報 高令者における両側性脳血管病巣の臨床病理学的研究
    村松 睦, 岸本 篤郎, 蘇 進一, 平井 俊策, 森松 光紀, 奥平 雅彦
    1970 年 7 巻 5 号 p. 275-283
    発行日: 1970/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老人脳においては, 小軟化巣を持たぬ脳はないとまでいわれており, また老年者の片麻痺例では, 対側にも神経学的に諸種の異常をみるものが多い. 今回, われわれは, 本院における最近四年間の老年者剖検例141例中肉眼的な脳血管障害巣を有した78例について, とくに両側性病巣を認めた66例 (84.6%) を中心として,脳内病巣と臨床症候とを対比検討した. 即ちこれら66例を運動障害とくに片麻痺の発生状況, および両側における運動障害を中心とした神経学的異常所見より評価して, 臨床的に両側麻痺が生前診断できたものを第I群とし, 生前には片麻痺のみしか診断できなかったものを第II群とし, 生前には脳内病変の存在が診断できなかったものを第III群 (Silent group) とした.
    さらに, 第I群をその片麻痺の発生経過を中心に, A. 片麻痺交互発生型, B. 片麻痺+対側麻痺漸次発生型, C. 両側麻痺漸次発生型, D. 両側麻痺同時発生型の4型に分けた. この臨床型と脳内病巣との関連は, IA型では, その13例の病巣集積の示す部位は内包を含む基底核部に全例主病変があり, 25%の者は橋底部にも病巣を有していた. B型は基底核部の lacune が主で片麻痺の責任巣としては橋底部に軟化巣を大部分の例にみた. C型は不全麻痺が漸次両側にみられたものであるが, 病巣は基底核部の微小軟化巣であった. D型は全例脳内出血例であり, 大脳出血2, 橋出血1, クモ膜下出血3, 小脳出血1であった. II群の対側病巣の見落しは, 被殼部の lacunc が主であり, III群即ち Silent 群の脳内病変は, 同様の lacune と劣位半球における皮質巣が主であり, 病巣の部位や大きさの他に, 高令者の場合, 臨床経過時間や拘縮変形, 浮腫などの二次的病態も診断を困難にしている. IA型の中等大軟化巣には56%に褐色色素沈着があり, また50%にangionecrosis を認めた事より, これら軟化巣の一次的原因は脳血管破綻巣と考えられる.
  • 14C-コレステロールの動脈組織へのとりこみと, その放出について
    村田 克己
    1970 年 7 巻 5 号 p. 284-290
    発行日: 1970/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    1) 14C-コレステロールの動脈組織へのとりこみ, および動脈組織よりの放出について, 各種の組織培養の条件下で検討した. ヒト胸部大動脈を中心に各部位のヒト動脈組織とともに, 一部サルの大動脈組織を使用した. さらに, 細胞レベルでのコレステロールのとりこみを, ニワトリの動脈内層細胞, および系統化されたヒト細胞 (HeLa 細胞) を単層細胞として培養し, これを用いて検討した.
    2) ヒト大動脈の培養組織への14C-コレステロールのとりこみは, 24時間~36時間まで添加時間と正の相関を示した. ニワトリのヒナの大動脈内層細胞の単層培養においても, 7時間までコレステロールの細胞内へのとりこみは, 添加時間と正の相関を示した. なお, HeLa 細胞においては36時間までこの相関性が認められた.
    3) ヒト大動脈組織への14C-コレステロールのとりこみは72時間以降も持続するが, その導入率は漸次減少する. 一方, 一度とりこまれた14C-コレステロールの動脈組織よりの培養液中への放出は, 数時間まで顕著であるが, 以後放出率の漸減をみた.
    4) ヒト大動脈組織へのコレステロールのとりこみは, 胸部より起始部 (上行部, 弓部) に比較的たかく,冠動脈により著明であった. このとりこみ率は年令別にみると, 高令者より若年令層にたかい傾向がうかがわれ, 屠殺直後のサル大動脈でもっとも顕著であった.
  • 第1編 Na-Sulfacetylthiazole 投与による心血管障害とその発生機序
    岡野 一年
    1970 年 7 巻 5 号 p. 291-301
    発行日: 1970/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    実験動物としては生後4ヵ月・6ヵ月および12ヵ月の Wistar 系雄成熟ラットと生後約40日の Wistar 系雄幼若ラットを用い, オリエンタル固形飼料で飼育し, その一部には Na-Sulfacetylthiazole (SAT) 投与2週間前に副甲状腺摘除を施行した. SAT0.5g/kgをラットに腹腔内注射すると成熟ラットでは大動脈内弾性板および中膜の壊死・石灰化, 心筋炎および間質性腎炎が生じ, 大動脈・心・腎内カルシウム(Ca)含量は増加した. 副甲状腺摘除ラットや幼若ラットではこれらの変化は軽度の間質性腎炎を除き認められなかった. ラット大動脈の24時間内45Ca摂取がSAT投与3日後に最大となることから, SAT投与3日後に体重100g当り45Ca5μCiを成熟ラットの腹腔内に注射すると24時間後の大動脈・心・腎の45Ca摂取は対照に比して増加した. 副甲状腺摘除はこの増加を防止した. 血清Caは副甲状腺摘除あるいはSAT投与により低下した. SAT投与2週間前に体重100g当り45Ca10μCiを成熟ラットの腹腔内に注射するとき, SAT投与4日後の大動脈・心・腎内45Ca含量は増加したが, 骨安定分画中45Caは低下した. 副甲状腺摘除ラットや幼若ラットではこれらの変化は認められなかった. SAT投与2週間前に45Caを投与したラットの血清45CaはSAT投与により増加したが, 副甲状腺摘除はその増加を防止した.
    Microautoradiogram において, 大動脈では内弾性板・中膜の石灰化巣に一致して45Ca粒子が局在し, 心では細胞浸潤巣内, 腎では尿細管の石灰化巣や間質の細胞浸潤巣内に45Ca粒子がみられた.
    以上のようなSATによる心血管病変の発生機序としては, SATによる急性腎不全に二次的に生じた副甲状腺機能亢進症が過剰の副甲状腺ホルモンの分泌を促し, それによる骨吸収の促進と軟組織結合織基質のCaとの親和性の増大がかかる変化を起したと思われ, これらの発生には年令が大きく影響することが示唆された.
  • 第2編 Na-Sulfacetylthiazole 投与による心血管障害に対する高 Cholesterol 食, 結合型 Estrogen および Thyrocalcitonin の効果
    岡野 一年
    1970 年 7 巻 5 号 p. 302-312
    発行日: 1970/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    実験動物として生後4ヵ月 Wistar 系雄ラットを用いオリエンタル固形飼料または3%高コレステロール食と水道水で飼育した.
    Na-Sulfacetylthiazole (SAT) 0.5g/kgをラットに腹腔内注射すると, 大動脈内弾性板および中膜の壊死・石灰化, 心筋炎および間質性腎炎が生じ, 大動脈・心・腎内カルシウム (Ca) 含量は増加した. In vivo における臓器の24時間内45Ca摂取はSAT前処置により大動脈・心・腎で増加した. 血清Caは低下ないし正常範囲にあり, 血清45Ca, 血清 specific activity および血清総 cholesterol はSAT投与により増加した.
    i) thyrocalcitonin の影響: 16% gelatin に溶解した thyrocalcitonin 200MRC mU/ラットをSAT投与1週間前から実験終了当日まで連日皮下注射したラットでは, SATによる心内Ca含量の増加は防止されたが, 大動脈・心・腎の病変や各臓器の24時間内45Ca摂取の増加は防止されなかった. 血清Caは thyrocalcitonin 投与により低下し, 血清 specific activity は増加した.
    ii) 高 cholesterol 食飼育の影響: SAT投与前4週間高 cholesterol 食で飼育したラットでは, SAT投与による大動脈・心の病変とCa代謝異常は防止されたが, 腎のみは著明な間質性腎炎, 腎内Ca含量の増加および24時間内45Ca摂取の増加を示した. 血清総 cholesterol は高 cholestrol 食飼育により増加した.
    iii) 結合型 estrogen の影響: Premarin (結合型 estrogen) 100r/100g体重をSAT処置2週間前から実験終了当日まで連日皮下注射したラットでは, SATによる各臓器の病変やCa代謝異常は防止されず, Premarinのみを投与したラットの心・腎の24時間内45Ca摂取, 血清45Caおよび血清 specific activity は無処置のものに比して増加した.
    iv) 高 cholesterol 食および結合型 estrogen 投与の影響: 高 cholesterol 食飼育 (SAT投与前4週間) とPremarin 100r/100g体重の注射 (SAT投与前2週間) を実験終了当日まで受けたラットでは, SATによる大動脈・心の病変とCa代謝異常は防止されたが, 腎のみは間質性腎炎, 腎内Ca含量の増加および24時間内45Ca摂取の増加を示した. 血清総コレステロール値は高コレステロール食および Premarin 投与で増加した.
  • 杉浦 昌也, 飯塚 啓, 飯塚 楯夫, 久保 富美子, 平岡 啓佑, 大川 真一郎, 林 輝美, 上野 邦弘, 嶋田 裕之
    1970 年 7 巻 5 号 p. 313-321
    発行日: 1970/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高令者の死因の特異性を明らかにするため臨床病理学的調査研究を行った. 対象は東京都養育院および同付属病院にて死亡した昭和42年1月から昭和44年12月までの連続剖検592例 (男244例, 女348例) で, 剖検所見を基にして主要病変と直接死因の二大観点から調査分類した. また急死を発症1時間以内に死亡した突然死と24時間以内に死亡した予期しない死との2群に分類して検討した.
    直接死因が単一原因だったのは456例 (77%) で,残り136例 (23%) では複合病変を呈した. 直接死因の順位は呼吸器疾患 (49.2%), 中枢神経系疾患 (27.7%), 循環器疾患 (15.3%), 悪性新生物 (9.6%), 消化器疾患 (9.6%), 泌尿器疾患 (8.6%) であった. 主病変が直接死因に一致したものは383例 (64.7%), 両者不一致は209例 (35.3%) に達した. 主病変が単一原因のもの463例 (78.2%), 複合病変のもの129例(21.8%) であった. その順位は中枢神経系(38.2%), 呼吸器系 (24.5%), 循環器系 (23.6%), 悪性新生物 (15.5%), 消化器系 (8.4%), 泌尿器系 (5.9%) の順であった. 本邦死因順位と比較すると剖検による死因分類には老衰はほとんどなく, 高令者の直接死因としての呼吸器疾患は極めて重要と考えられた.
    急死は突然死38例, 予期しない死65例, 計103例 (17.4%) にみられた (男58, 女45). 循環器疾患の急死率は40.4%ともっとも高く, 以下呼吸器疾患12.9%, 中枢神経系疾患12.8%が主要である. 循環器疾患の中, 心破裂5, 大動脈破裂7, 高度房室ブロックを呈する心筋硬塞3は特有, 呼吸器疾患では突然死は窒息が多く, 予期しない死は肺炎の潜在性進行が本体であった. 中枢神経系では突然死は少なく, 大部分は予期しない死に含まれ大脳, 脳幹, 橋, 小脳の出血である. 心電図544枚を検討し, とくに高度房室ブロック, 左軸偏位, 右脚ブロック, 心筋硬塞, 心室性期外収縮が急性心臓死に高頻度にみられることを指摘した.
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