日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
8 巻, 1 号
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  • 佐藤 勤, 沓沢 尚之
    1971 年 8 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 1971/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    36才から71才までの脳卒中患者73名と, 対照として11才から75才までの非脳卒中患者75名について視覚誘発反応 (VER) が記録された.
    光刺激は3秒に1回の頻度で行い, ランプは閉眼した被検者の眼前20cmに置かれた. 活性電位は耳朶を不関電極とし両側の後頭部に置かれた頭皮上電極から記録され, ジギタル電子計算機 (日本光電社製ATAC501-20) によって50回平均加算された.
    本研究における各頂点の名称は Cigánek の呼称が採用された. 頂点潜時の再現性は満足されるように思われたが, 振幅の再現性は不満足なものであった. それぞれの頂点潜時は両群とも加令に従って次第に遅延する傾向にあった. さらに各年代層における脳卒中の潜時の平均値は対照に比し大であった. 40, 50才代に関する限り対照群と脳卒中群のW2, W3, W4, W5の差は推計学的にも有意 (P<0.01) であった.
    異常VERは148例中18例 (5例は対照, 13例は脳卒中) にみられ, そしてこれらは次のように3型に分類され得た. 1) 潜時の非対称のみを示したもの. 2) 潜時, 波型とも非対称を示したもの. 3) 波型のみ非対称を示したもの. 潜時の遅延は主にW2, W3に, 波型の非対称はW4, W5において認められるのが特徴的であった. 視野欠損のある患者5例中2例は正常, 残り3例は異常所見を示した. しかしこの異常は一次反応においてでなく, むしろ二次反応の異常であった. 異常VERと脳卒中の病巣とには特異な関係がない様に思われた. 脳卒中における異常VERを呈した13例中10例は発症より1ヵ月以内の急性期に検査されたものであった. それゆえにこの異常所見は半球性, びまん性脳浮腫による脳機能低下と神経シナップスの伝導障害に原因したのではないかと思われた. しかしまた異常VERは慢性期の患者で, たとえば内頸動脈閉塞, あるいは中大脳動脈閉塞のごとき広範な脳障害によってもまた惹起されるように思われた.
  • 血栓形成を中心として
    飯塚 健次郎
    1971 年 8 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 1971/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Duguid が動脈硬化の血栓原性説を再提唱して以来, これに関する報告が多数なされてきた. 動脈壁には各種のムコ多糖が存在し, その生理活性が動脈硬化の発生, 進展に重要な関連を有すると考えられている. ここでは Chandler 法を用いて, chondroitin sulfate A (CS-A), chondroitin sulfate B (CS-B), chondroitin sulfate C (CS-C), chondroitin polysulfate (CPS), heparan sulfate (HS) の血栓形成に及ぼす影響をしらべ次の結果を得た.
    1) CS-A, CS-Cの静注投与により血栓形成抑制効果を認め, 血中 hexosamine, galactosamine の上昇, triglycerides の低下をみ, CS-AおよびCS-Cには脂血清澄作用があると考えられた. 2)高分子CS-Cは in vitro で低分子CS-Cを上回わる血栓形成抑制効果を示した. 3) CS-CはCS-Aを上回わる血栓形成抑制効果をみたが, この結果は二異性体の活性の相違というより両者の硫黄含量, 分子量の相違によると考えられた. 4) 硫黄含量15.6%のCPS 30mg/体重kgを家兎に静注したところ, 60分後TFT (thrombus formation time) は有意に延長し, 血中 triglycerides は有意に減少した. このためCPSに lipoprotein lipase activity があると考えられた. またCPS 5mg~30mg/kg投与でのTFTはその濃度に比例して延長した. 5) 硫黄含量15.6%と9.2%のCPSについて, その抗血栓形成能をみたところ, この活性は硫黄含量の大きいCPSにより顕著であった. 6) CS-BおよびHSに in vitro で著明な血栓形成抑制能がみられた. 7) リハビリテーション中の心筋硬塞, 脳出血, 脳血栓各疾患群の間には, とくにTFTの差はみられなかった.
    以上の結果より動脈壁に存在することが知られている硫酸ムコ多糖には, Chandler 法による実験的血栓形成を抑制する効果があることが示された.
  • とくに頭蓋内動脈硬化との比較
    上田 一雄, 木元 克治
    1971 年 8 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 1971/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳硬塞の成因の一つとして, 欧米ではとくに, 頭蓋外頸部動脈の閉塞ないしは狭窄病変が注目されている. 他方剖検例の頸部動脈硬化の検索は, 主として内膜病変の表面積法によったものが多く, 狭窄病変の程度による比較検討は少ないようである.
    私たちは40才以上の剖検例84例 (脳硬塞23例, 対照61例) の椎骨動脈, 内頸動脈, 総頸動脈の硬化性病変を, Gore らの方法による表面積法と, 狭窄病変の程度による方法とを用いて検索し, とくにこれらの狭窄病変の程度を脳底部動脈硬化の狭窄病変と比較してみた.
    頸部動脈硬化の程度は総頸動脈, 内頸動脈, 椎骨動脈の順に高度にみられた.
    頸部動脈硬化の高度狭窄病変は, 脳硬塞例に対照例と比べて高頻度に存在したが, 同時に脳底部動脈硬化の高度狭窄病変も, 脳硬塞例に高頻度にみられた. すなわち頸部動脈硬化が顕著な症例においては, 脳底部動脈硬化もまた著明であった.
    狭窄病変の程度により, 頸部動脈硬化と脳底動脈硬化を比較すると, 私たちの84例では脳底部動脈硬化が強い傾向がみられた. 以上の結果を綜合すると, 本邦においては, 脳硬塞成因における頸部動脈硬化の意義は, 欧米ほど明らかにし得なかった.
    頸部動脈硬化の狭窄および閉塞病変を組織学的に検索すると, 分岐部における内膜深層の粥状物質の集積, それに基づく内膜出血, また内頸動脈サイフォン部における石灰沈着が重要であると思われる. 遊離血栓による塞栓症をある程度示唆する所見も得られたが, 剖検後の検索のみからでは, それを証明するのは困難であった.
  • 杉浦 昌也, 林 輝美, 飯塚 啓, 嶋田 裕之, 片山 宗一
    1971 年 8 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 1971/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳卒中再発作の比較的早期に失外套症候群を呈し, 剖検の結果, 右内頸動脈サイフォン部のほぼ完全閉塞により, 大脳および脳幹に広汎な軟化巣を認めた老年女子例について, 臨床病理学的検討を加えた. また本症候群の本邦報告例について病因と病変部位に関する若干の検討を行った.
    症例は77才の女性で, 4年前に高血圧を指摘され, 2年前に左不全片麻痺, 高血圧で6ヵ月入院した. 昭和44年4月, 食欲不振, 腰痛を主訴として再入院した. 5日目, 言語不明瞭となり, 左顔面筋麻痺をきたし, 次いで左完全片麻痺: 無言となり, 呼びかけに対して開眼し, 物を追うような眼球運動があった. 痛覚刺激に対する逃避反応, 強制把握, 上下肢の無目的な運動が右側に存在した. 嚥下は不能. 睡眠覚醒の区別は明瞭. 意識水準が次第に低下し, 入院後52日目に死亡した.
    脳波所見は, 本症候群出現前は8~9c/s, 50~70μVのα波が頭頂, 後頭部に優位に出現, 本症候群出現3週後は6~7c/s, 50~70μVのθ波の基礎律動に, 3c/s前後のδ波が少量混在し, 軽度の左右差を認めた. 死亡15日前には1~3c/sの大徐波が連続的に出現し, 右半球に電気的活動の減弱が著明にみられた.
    剖検所見では, 右内頸動脈サイフォン部が器質化した血栓によりほぼ完全に閉塞され, 右中心前回, 前頭葉の帯状回, 脳梁を含む右大脳半球皮質, 白質および海馬回, 視床, 視床下部を中心とした脳幹網様体に新, 旧の融解壊死と脱髄が血管病変に合致してみられた. 本症候群ないし無動性無言の脳の障害部位は 1) 広汎な大脳皮質, 白質. 2) 前頭葉 (帯状回, 脳梁), 3) 視床, 視床下部, 脳幹の三大領域に分類されているが, 本症例は3者にまたがる複雑な病変を示した. 本邦報告例44例において脳腫瘍は単独部位の障害が多く, 各種中毒, 脳血管障害, 頭部外傷では2者ないし3者の領域にまたがる例が11例をしめた.
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