日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
9 巻, 6 号
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  • 池田 憲彰
    1972 年 9 巻 6 号 p. 345-356
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    心筋局所血流分布の詳細を知る目的で, 水素ガスクリアランス法により麻酔犬における左心室前壁血流量を測定した. 心筋に固定しやすく, かつ心筋内水素分圧を定常的に記録せしめるため, 凹状白金電極を考案し, 実験に供した. 本法で測定した左心室前壁中層血流量は同時に記録した冠静脈洞水素曲線から算出した血流量とほぼ一致した値を示した.
    次に左心室内層および外層血流量を測定すべく, 各層に上記の針電極を刺入し, さらにカテーテル電極を大動脈に挿入した. これら三つの水素曲線を別個に同時記録させ, その洗い出し曲線から血流量を算出した. さらに低酸素呼吸, 心拍数および血圧の変化, β-受容体刺激および遮断物質さらに noradrenaline 投与時の左室心筋内, 外層血流量に及ぼす影響を検討し, 次の結果を得た.
    1) 左心室前壁内層血流量は外層に比して有意に高く, 内・外層血流量比 (I/O値) は1.21±0.04であった.
    2) 6.7%低酸素呼吸により, 左心室内, 外層血流量はともに増大するが, 外層のほうが増加率が著しい.
    3) 右房ペーシングによる心拍数の増大はI/O値を低下せしめ, 6.7%低酸素呼吸時と同程度の昇圧をきたす Angiotensin IIの投与では内, 外層ともに有意な変化は認められなかった.
    4) Isoproterenol (0.3μg/kg/min), Propranolol (0.3mg/kg) 投与により内層血流量は著変なく, 外層血流量は前者で増加, 後者で減少し, いずれも有意の変化であった. Noradrenaline (1μg/kg/min) 投与時には内層血流量は著明に増大し, 外層においてはわずかの増加を示すのみであった.
    以上得られた成績にかんがみ, 虚血性心疾患にみられる病態生理につき若干の考察を加えた.
  • 第1編 微計測的・酵素組織化学的検索
    佐藤 秩子, 田内 久
    1972 年 9 巻 6 号 p. 357-363
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老性変化研究の一環として, 年令の異なった (若年群-生後70日, 中年群-1年, 老年群-2年) SMA雌マウス合計103匹を用い, 処置前ならびにコーチゾン投与 (1mg/1日/体重25g, 6日間連続筋注) 後の変化, 回復過程の肝細胞の変化を比較検討した. 処置前, 投与終了後2日, 9日, 16日の肝組織について, 本編では光顕レベルにおける肝細胞数, 肝細胞体, ならびに核の大きさの微計測的検討と, コハク酸脱水素酵素活性, glucose-6-phosphatase 活性の組織化学的検索の成績を報告した.
    肝細胞数は処置前には中年群にもっとも多く次いで老年, 若年群の順で, 処置後, 中, 老年群ことに老年群では明らかな減少を示し16日後にも回復しない. 若年群では処置後とくに減少せずむしろ増加の傾向を示す.
    肝細胞体・核の大きさは処置前では老年群にもっとも大きく次いで中年, 若年の順で, 処置後, 中, 老年群では減少し, 16日後にも回復はみられず, 老年群では減少をつづける. それに対して若年群では処置後もとくに変化せず, その後増容の傾向を示す. コハク酸脱水素酵素, glucose-6-phosphatase の活性は処置前には中年, 老年群では若年群に比して高い. 処置後すべて低下するが, 若年, 老年群に比して中年群では軽く, 回復は速やかであった.
    以上の所見から, コーチゾン処置による経過の様相において, 若年群が示した老, 中年群との差は, 成長途中にあるためと解せられる. 一方処置後の経過過程において老, 中年群の間に微計測的にはとくに顕著な差を見出すことができなかったが, 酵素組織化学的には老年群において, 私どもがすでに指摘した老性特徴をうかがうことができた. このような点から細胞内小器官レベルでの検討が必要である.
  • 土屋 雅之, 川崎 英, 升谷 一宏, 松井 忍, 石瀬 昌三, 原 重樹, 舟津 敏朗, 竹内 伸夫, 前田 正博, 小野江 為久, 金 ...
    1972 年 9 巻 6 号 p. 364-369
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    循環機能に対する生理的老化の影響を明らかにするため, 臨床的に正常な健康人とみなしえてかつ過去高血圧を指摘されたことなく日常の血圧が常に150/90mmHg未満の14才から87才にいたる94人 (男73人, 女21人) につき, 安静仰臥位にて指示薬稀釈法を用い血行動態的検索を試みた.
    1回拍出量, 分時拍出量, 左室仕事量は加令とともに減少するが, 心拍数と年令との間に有意な相関は認めなかった. 一方全末梢血管抵抗は加令とともに増加した.
    脈圧は青年期より年令とともにいったん減少し, 45才前後から再び増大する傾向が認められた. 以上の成績は循環系においては生理的な老化現象が持続的に進行しているが, 日本人では45才前後においてとくに強く循環機能異常が発生することを示唆するものと考えられる.
  • 林 宏海
    1972 年 9 巻 6 号 p. 370-378
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    従来 hyperlipidemia, とりわけ hypertriglyceridemia の原因として生体内における内因性トリグリセライド(TG) 合成の増加とともにTG処理障害の存在が重要視されている. 著者は後者を追求する目的で, 人工脂肪乳剤静注後の外因性TGの clearance の状態を観察した.
    Intralipid 0.15g/kg注入後の外因性TGの fractional turnover rate (K2) を測定したところ, 空腹時血清TG濃度と有意の負の相関関係を示し, hypertriglyceridemia ではK2値は低かった. 血清 cholesterol (ch) 濃度とK2値の間には有意の相関関係を認めなかったが, TG濃度が100mg/dl未満の non-hypertriglyceridemia の症例においては, chが180mg/dl以上の症例のK2値はch 180mg/dl以下の症例に比べて有意に低かった. すなわち, TG濃度が低くても hypercholesterolemia のあるものでは潜在性のTG処理障害が存在する可能性も考えられた. 肥満度とK2値についてみると, 肥満者でK2値の低いものが多く, さらにTG濃度が100mg/dl未満の症例においても, 明らかに肥満者にK2値が低く, 肥満と末梢におけるTG処理障害の関連を思わせた. Ch, TG濃度の高い症例に多くみられる ischemic heart disease の症例ではK2値が低下しているものが多く, TG 100mg/dl未満の症例についてみても ischemic heart disease の患者では有意にK2値が低かった.
    以上の点から, 血清TG濃度とK2値の間にはTG処理能の面において密接な関連があり, 肥満, ischemicheart disease などTG代謝異常と関連が深い疾患ではたとえ一時的に血清脂質濃度が正常であっても, K2値の低下している症例においては hypertriglyceridemia への潜在的代謝障害 (末梢における外因性TG処理障害が存在すること) が予想される.
  • 伊藤 敬一, 岩渕 貴之, 古徳 利光, 渡辺 勝宏, 小山 恵子, 沓沢 尚之, 中村 隆
    1972 年 9 巻 6 号 p. 379-386
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    秋田県はわが国でももっとも脳卒中死亡率の高い県の一つであるが, この多発の要因を分析する目的で, 秋田県でもとくに脳卒中の多い雄和町と, これに近接しながら, 比較的低い死亡率を示す天王町から, 各一部落を選び30才以上の全住民を対象として, 血圧, 尿蛋白, 尿糖, 血清総蛋白, 血清尿酸, 血清コレステロール, 中性脂肪, 燐脂質, 脂酸分画とくにリノール酸とオレイン酸 (L/O比), 頭蓋内血管壁石灰化, 眼底, 心電図の諸検査を全例に施行し, さらに各人の食餌内容をアンケート調査した.
    その結果, 血圧は脳卒中の多い雄和で各年令別の平均の血圧値は, より高く, また高血圧者の頻度も多いことが認められた. 心電図の高血圧性変化の有所見者も雄和町により多く存在した.
    このことは, 雄和における脳卒中多発と高血圧との関連性を強く示唆しているものと考えられた. さらにこの雄和町の住民の血圧が高値を示した原因についても2, 3の検討を行った.
    これまでも問題とされていた血清脂質値は, コレステロール, 燐脂質, 中性脂肪などについては脳卒中多発との関連性は見出されなかった. むしろ, 脳卒中の少ない天王町にL/O比の低下, 尿酸の高値傾向が認められ, これらの結果と脳卒中の発生との関係が注目された.
    脳動脈硬化症を示唆していると考えられる眼底有所見, 頭蓋内石灰化の頻度は多少雄和に多い傾向は認められたが, 推計学上明確な両地区間の差は見出されなかった.
  • 松尾 武文, 石浜 義民, 松永 公雄
    1972 年 9 巻 6 号 p. 387-393
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    糖尿病血管合併症における血清脂質と血漿フィブリノーゲンの役割について検討した.
    未治療糖尿病100例を対象として, 早朝空腹時にコレステロール・中性脂肪・遊離脂肪酸・フィブリノーゲンを測定した. また正常130例に同様の測定を行い対照とした. その結果, 糖尿病では正常者と比較して, 血清脂質とフィブリノーゲンは増加しており, 血清脂質の増加は統計的に有意であった.
    血管合併症の種類によってフィブリノーゲン量をみると, 非合併症の糖尿病よりも, 網膜症, 腎症を有する細小血管障害の合併ではフィブリノーゲンは増加しており, 高血圧とか心電図に虚血性変化のある粥状硬化の合併例ではさらに増加しており, この増加は統計的に有意であった. そして, 細小血管症と粥状硬化の両者の血管障害をもつ糖尿病では, フィブリノーゲンの増加は, きわめて著明であった. このように糖尿病に血管合併症が加わると, フィブリノーゲンの増加が認められ, その増加の程度は血管合併症の種類や重症度とよく関連していた.
    血清脂質と糖尿病血管合併症との関連をみると, 中性脂肪は細血管障害と粥状硬化の両者の合併する糖尿病でのみ, 有意の増加をみた. しかし, コレステロールは糖尿病では増加していたが, 血管合併症の有無や種類との関係はみられなかった. また遊離脂肪酸は, 糖尿病では増加していたが, 合併症の中でも細血管障害例では低下しており注目された. 以上糖尿病の血管合併症では, 血清脂質の増減よりも, むしろフィブリノーゲンの増加が密接に関係しており, 糖尿病の病態生理について興味ある結果であった. そして糖尿病でのフィブリノーゲンの測定は, 血清脂質の測定とならんで重要な検査であることをのべた.
  • 高瀬 靖広, 丸山 正隆, 山田 和毅, 山下 克子, 鈴木 茂, 市岡 四象, 遠藤 光夫, 竹本 忠良, 吉井 隆博
    1972 年 9 巻 6 号 p. 394-399
    発行日: 1972/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    慢性胃炎における腸上皮化生は, 萎縮性変化に伴って高率に出現することが知られており, 主要な慢性胃炎性変化の一つと考えられている. しかし, 腸上皮化生は診断技術の進歩した今日でも, 臨床的にとらえることは一般に困難であるために, なお不明の点を多く残しているといえよう.
    そこで我々は, 腸上皮化生という病態をとらえる手段として, 腸上皮化生が年令とともに出現頻度を増すと考えられていることから, 慢性胃炎における腸上皮化生の拡がりと加令との関係について, 慢性胃炎切除胃標本および“慢性胃炎の十二点生検法”による生検標本から検索した.
    その結果, 慢性胃炎に伴って現われる腸上皮化生は, 加令とともに拡がりを増すが, とくに31~40才および51才以上において著しく進行すると考えられる.
    また, 腸上皮化生は, 主に幽門輪から3~4cm口側の, さらに3~4cmの範囲の小彎でもっとも生じやすく, 上彎上を上行し, 同時に前壁, 後壁ならびに小彎上を幽門輪方向へと拡がり, かつその程度を増していくことが推測された.
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