損害保険研究
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76 巻, 1 号
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<研究論文>
  • 二木 雄策
    2014 年 76 巻 1 号 p. 1-25
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     交通事故における死亡慰謝料は金額で表示されるが,被害者の被った精神的・肉体的苦痛というのはもともと金銭で評価できるものではない。そこで実際には裁判所がその額を決定しているのだが,それがどのような根拠で算定されたかは不分明のままである。しかし損害賠償金は公平かつ適正なものでなければならないのだから,慰謝料額の背後には何らかの論理があってしかるべきだろう。

     本稿では被害者が死亡した交通事故についての過去の判例(44年間に亘る1962例)を資料として,それらに統計学的な方法,とりわけ回帰分析を適用することで,慰謝料の「計量分析」を試みる。それによって,交通事故の損害賠償ではその重点が逸失利益から慰謝料に徐々に移って来たこと,慰謝料の額が平準化してきたこと,その決定要因が規則性を持ち始め,とりわけ近時では加害者の言動や責任の度合いが重要な決定要因となっていること,等が示される。

  • -賭博行為論との関係を中心に-
    𡈽岐 孝宏
    2014 年 76 巻 1 号 p. 27-60
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     損害保険の領域には,「不文の強行法規としての利得禁止原則」が存在する,というのがこれまでの通説の考え方である。しかし,これに反対する見方もある(私見)。通説がいう法原則を観念しようとする場合,民法90条の抽象的公序良俗論が,その法律上の正体になる。さて,通説により,保険法上に行われようとしている,「利得禁止原則」という概念を借りた公序良俗論の展開は,その法律上の正体としての「民法90条」の議論に照らして,どのような評価をうけうるであろうか。端的に言えば,民法90条の議論と整合性を保ちうるであろうか。これは,通説の説得力の検証の問題である。

     とりわけ,損害保険の賭博化ゆえに利得禁止原則が強行法規でなければならないとする議論は,民法90条の「著しく射倖的な行為」ないし「犯罪行為としての賭博行為」の議論に照らして,それとの整合性の観点から,公序良俗論としての正当性を認めうるであろうか。本稿は,主に,「保険と賭博との関係」を整理し,実は,損害保険の賭博化阻止という要請は,強行法規としての利得禁止原則の存在を肯定(是認)するところの要因にはなれない,ということ(見方を変えれば,損害保険が賭博化するので強行法規によりそれを阻止しなければならないという法律論に,実は,理由ないし正当性がないこと)を明らかする。

  • 大倉 真人
    2014 年 76 巻 1 号 p. 61-79
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     本論文は,小規模保険市場において,新規参入阻止を理由に保険会社の広告宣伝投資が消極的になることをモデルによって示すことを目的としたものである。具体的には,簡単な新規参入阻止モデルを構築することによって,新規参入阻止戦略を採用する場合における広告宣伝投資額が,独占市場の場合におけるそれに比して小さくなることを明らかにする。

  • 菅野 正泰
    2014 年 76 巻 1 号 p. 81-108
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     本論文は,アジア・パシフィック地域の保険セクターにおけるシステミック・リスクを計量分析したものである。2013年7月には,金融安定理事会より,「グローバルにシステム上重要な保険会社」(G-SIIs)のリストが公表され,世界で全9社が名を連ねた。アジア・パシフィック地域では,中国平安保険(集団)のみが選定され,わが国の損害保険会社は選外となったが,G-SIIsは毎年定期的に見直しが行われる。GSIIsの評価は,規模等をベースとした母集団の特定,指標ベースの定量評価,その後,監督上の判断・検証による最終的な決定という3段階のプロセスを経て行われる。本論文では,定量評価としてファクター・モデルアプローチを採用し,各国の保険契約者保護制度による保険金支払等の補償割合を反映した破綻保険料により,規模の他,相互連関性などの重要な要素を定量化し,G-SIIs選定の妥当性を検証する。

<研究ノート>
  • -銀行業務と保険業務の業際的手法-
    西口 博之
    2014 年 76 巻 1 号 p. 109-132
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     我が国の貿易取引における代金決済方法は,従来その大半が信用状決済であったが,昨今貿易取引の形態・内容がグループ内取引の増加などにより変化するに伴い,その代金決済方法も送金・相殺などが多くなり,信用状の使用比率が20%見当と低下している。

     また,その物流面でもコンテナ船の普及により中国など近距離航路ではB/Lの買主への到着が銀行経由では本船の到着よりも遅れ,その回避策として,信用状決済のもとでもB/Lの保証渡し,サレンダーB/Lなどが商慣習となり法的問題を残す結果となっている。

     このため,B/Lを買主宛てに直送できる国際ファクタリング・銀行支払保証・輸出取引信用保険など新しい代金決済方法が注目を浴びている。

     これらの新しい債権リスク回避策は,いずれも従来の信用状に取って替わることのできる代金回収策であり,かつ従来の銀行業務になかった保険業務の分野にまで踏み込んだ業際的な債権リスク回避策ともいえる。

  • -論点の提起と賠償実務の実態についての私見-
    高野 義則
    2014 年 76 巻 1 号 p. 133-147
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     自動車事故の治療費で,第三者行為災害として扱われ,保険会社・共済が社会保険から求償を受ける事案が少なからず存在する。社会保険の求償の内容,求償対象期間は個別の事案ごとに交渉,決定されているが,歴史的には人身傷害補償保険,介護保険の登場により量的,質的な影響を受けてきたと考えられる。更には昨今の超高齢社会の進行による疾病構造の変化や,社会保険の保険財源の逼迫の影響も受ける中で,損害賠償用語として用いられている「症状固定」と「求償対象期間」の考え方についても従来慣行のままとすることが難しくなってきている。

  • -二重の「被害者保護」の観点からの一考察-
    日野 一成
    2014 年 76 巻 1 号 p. 149-165
    発行日: 2014/05/25
    公開日: 2019/07/21
    ジャーナル フリー

     最判平成元年4月11日は,労災保険給付の控除と過失相殺の順序について,いわゆる「相殺後控除説」を採用した。しかし,この説は「控除後相殺説」に比して,労災交通事故の被害者にとって不利な取り扱いであることは明らかであり,同判決において,伊藤裁判長は,控除後相殺説の反対意見を付している。

     特に,この説に従えば,被害者過失の大きなケースで労災保険を使用すれば,加害者に請求しうる賠償額は,零というケースも出現する。また,被害者が労災保険を使用することによって,加害者の損害賠償額が本来の額よりも縮減されるという事象が見られ,被害者にはメリットが生じない。

     このような問題意識から,本稿では最判平成元年が採った相殺後控除説に対し,批判的に考察を行うとともに,同判例が依拠した最判昭和55年12月18日の事案と労災交通事故の構造上の相違点を明らかにし,その対抗説としての控除後相殺説の合理性について考察するものである。

<講演録>
<損害保険判例研究>
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