損害保険研究
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77 巻, 2 号
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<研究論文>
  • 松島 惠
    2015 年 77 巻 2 号 p. 1-29
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     貨物保険における性質損害が担保危険または固有の瑕疵(免責危険)のいずれの危険によって生じたのかという問題につき,これまで多数の判例で審理の対象とされ,学説上も論究が続けられてきた。それは,一つに,固有の瑕疵をいかに認識すべきかという概念に関わる問題があり,他方で,性質損害の原因が担保危険または固有の瑕疵のいずれの危険を原因とするのか,それともこれら両種の複数危険の協力関係を認めたうえで,保険者のてん補責任の有無を決するのか,という因果関係の問題と関わりがあるからである。

     本稿においては,The Cendor Mopu事件の控訴院・最高裁判所の判決(2009年,2011年)において判示された固有の瑕疵の概念についての新しい解釈および性質損害の原因につき,固有の瑕疵ではなく,担保危険にあると判断されたその背景を手掛かりとして,標記テーマについての論考を展開したものである。

  • 大塚 英明
    2015 年 77 巻 2 号 p. 31-72
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     前稿で,アメリカの傷害保険事故概念論争における「セルボニアの沼」について概観した。それに続き本稿では,偶然の手段という語句の解釈論が,保険契約のその他の規定との関係でどのように位置づけられるのかを見ることにする。とくに疾病免責規定と事故原因の因果関係規定は,事故定義そのものと表裏の関係にあり,それぞれを切り離して考察することは困難である。これらを総合的に検討するアメリカの判例は,かなり早い段階から,傷害保険の事故に多面的に光をあてていたことがわかる。その上で,「偶然の手段」という要素がわが国の「偶然の事故」と同義であるという前提の下,アメリカ判例の体系的論理から導き出される理論的な示唆について,若干の考察を行いたい。

<研究ノート>
  • —神経症状12級・14級を中心として—
    加藤 久道
    2015 年 77 巻 2 号 p. 73-105
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     交通事故の被害者などに生ずる後遺障害は,障害の程度に応じて1級から14級までの後遺障害等級によって認定される。

     本稿は,後遺障害における認定の要件と関連する諸問題を,神経症状12級・14級を中心に検討するものである。

     まず,基礎知識の整理として,後遺障害の意義と要件,関連する問題と神経症状12級・14級の認定基準について検討し,認定の要件である他覚所見の意義と評価について医学的見解,判例,保険約款の各視点から検討を加えた。

     次いで,認定に対する異議申立について,異議申立の方法を述べ,認否の事由について論じた。

     異議申立において検討される問題点は,実際に判断が示された事例を詳細に見ることにより,判断基準などを理解できると考えるところから,事例に基づき認否の要点等について具体的検討を行った。

  • —銀行業の事例を想定して—
    山越 誠司
    2015 年 77 巻 2 号 p. 107-137
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     わが国において,銀行のオペレーショナル・リスク管理の枠組みで,金融機関専門業務賠償責任保険(FIPI保険)の有効性が話題になることもなく,議論が下火になっている感は否めない。しかし,リスク管理の実務において,その必要性はもっと強調されてよい。わが国以外の保険市場,特にアメリカやヨーロッパにおいてFIPI保険の市場は非常に大きく重要と言われている。

     一方,特にアメリカにおいて1990年代後半から2000年代前半に発生した,投資銀行業務に起因する巨額で複雑な損害賠償請求は,保険市場に投資銀行業務免責による補償範囲の限定をもたらした。そのような背景があるものの,銀行の固有業務である融資に起因する事故や付随業務である投信販売に起因する事故に対しては,依然として有効なリスク移転策と言える。

     以上を踏まえて,FIPI保険の具体的な補償範囲や免責条項が銀行実務においてどのように機能するのかを明らかにし,わが国実務への応用を模索したいと思う。

<講演録>
<寄稿(RIS 2014優秀論文)>
  • —改正の意義,重要論点及び今後の保険実務—
    明治大学 中林真理子ゼミナール
    2015 年 77 巻 2 号 p. 187-202
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     2014年2月に格安航空会社(以下「LCC」と表記)を対象とした我が国初の航空券代金補償保険の販売が開始された。この保険では,搭乗者が一定の理由で航空機への搭乗をキャンセルせざるをえない場合,航空券代金が全額返還される。しかし,LCCの航空券代金は低価格であり,それに比べて支払う保険料を考慮した場合,この保険の補償内容では保険購入につながりにくいのではないか,という問題意識が生じた。

     そこで,この航空券代金補償保険の補償内容を基に大学生を対象とした保険加入意向についてのアンケートを行い,その結果を国内航空会社の遅延率と欠航率の現状に関連付けながら保険料の妥当性について検討し,さらに保険会社と航空会社そして顧客にとって,どのような補償内容の保険の販売が有効であるかを考察した。

  • —「経営者リスク」とエントレンチメントコストの観点からの検証—
    東京経済大学 柳瀬典由ゼミナール
    2015 年 77 巻 2 号 p. 203-224
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,経営者のエントレンチメントコストという観点から,経営者の在任期間が企業業績に与える影響を実証的に明らかにすることである。ここで,エントレンチメントコストとは,「経営トップが自らの地位に固執し適正な交代が阻害された場合に,当該企業に生じるコストの総称」と定義される。実証分析の結果,経営者の在任期間が一定水準を超えて長期化することで,経営者自身が不祥事等の企業業績の悪化を引きおこす要因となり得るリスク,すなわち,「経営者リスク」の存在を確認することができた。これは,経営者の在任期間のあり方を検討することが,企業のリスクマネジメントの観点からも重要である点を示唆するものである。

<損害保険判例研究>
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