損害保険研究
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77 巻, 4 号
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<保険教育特集/論文>
  • —米国リスク保険学会(ARIA)の苦悩と挑戦—
    柳瀬 典由
    2016 年 77 巻 4 号 p. 1-31
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,リスクと保険分野を研究対象とする米国最大級の学術団体であるARIAが,1980年代半ば以降,具体的に行ってきた諸施策の軌跡を探ることを通じて,米国の保険関連の諸学会及び大学・研究機関がいかにして,厳しい講座間競争に対峙しようとしてきたかを明らかにすることにある。考察を通じて浮き彫りになったことは,ARIAがその戦略的目標として,経済学とファイナンス分野における学術的評価を高めることを明確に設定し,そのために,外部の潜在的な経営資源-他の研究分野と海外の研究者-を積極的に取り込む努力を継続的かつ組織的に行ってきたという点である。そして,その背景には,1960年代以降の隣接分野の急速な発展という環境要因に加えて,そうした変化を積極的に取り入れようとする80年代以降のARIAの強い危機感とリーダーシップの両面があると思われる。

  • 大塚 忠義, 藤澤 陽介, 佐藤 政洋
    2016 年 77 巻 4 号 p. 33-56
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     現在、アクチュアリー科目を設けている大学・大学院は増加している。しかしながら、我が国のアクチュアリー専門職団体と大学の関係は限られた大学への教員の派遣にとどまっており、欧米では資格試験に際し大学になんらかのクレジットを与えていることと比較すると著しく希薄である。

     一方、アクチュアリー志望者のアクチュアリー教育を行う機関に対する評価には大きな差はないものの、大学が最も高い。今後大学で教育を受けたアクチュアリー志望者は増加していき、大学がアクチュアリー教育に関する主要な教育機関になっていくと予想される。

     アクチュアリー志望者が得られる教育機会は限られており、アクチュアリー職への就職を希望する学生にとって、大学でのアクチュアリー関連講座は重要である。また、大学での質の高い講座は、学生のアクチュアリー学への興味の喚起につながり、アクチュアリー志望者の増加に寄与する。

     今後、若年人口が減少していくなかで、会計士など他の専門職と競合しながら、アクチュアリーの増加ひいてはアクチュアリー学の発展のために、大学における教育機会の拡大は必要条件といえる。

<保険教育特集/研究ノート>
  • —大分大学での経験を踏まえて—
    佐藤 大介
    2016 年 77 巻 4 号 p. 57-79
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     実務家が大学で保険教育を実施する事例はこれまでも多くある。教育を行うこと自体が本来の職務ではない実務家が大学で何をどう教えるべきかについては定まった基準がある訳ではない。しかし,今後も保険業界と大学との連携は続くものと考えるため,実務家が教員として保険の何をどう教えるべきかを考察した。こうした考察は先行研究が少ないため,今後,教壇に立つ実務家にとっては参考になるものと考える。

     最も重要な結論は,大学生に教えるべき内容は,保険の商品内容などの実用的知識よりも保険の本質的,根源的な理論であり,それを深いレベルまで掘り下げて教えることが必要である,という点である。そして実用的知識はむしろ,大学生に自ら学ばせることでより記憶に残る学習を促すべきである。なぜなら,そうした自ら調べる,考える,議論する,という学習が,社会で求められる自分で考え行動する能力やコミュニケーション能力の養成に繋がるからである。

  • —保険学教育の観点から—
    千々松 愛子, 内藤 和美
    2016 年 77 巻 4 号 p. 81-116
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     複雑化する現代社会において,社会的に自立した消費者を育成するための消費者教育は,国内外を問わず喫緊の課題となっている。わが国では,近年,消費者教育の一環として,金融経済教育および法教育の両分野で,保険教育の重要性がますます高まっており,大学における保険教育のあり方について改めて考察することは大きな意義を有する。

     本稿は,大学の学部教育または教養教育における保険教育について,総合科学としての保険学という立場に基づき,伝統的保険学および保険法学の観点から検討している。

     筆者らは,大学の保険教育において,今後,リテラシー教育の必要性が社会に広く認識されるにつれ,総合科学としての保険学が,一層の広がりを持って,また,相互の連携を深めながら,その重要性を増していくものと考えている。したがって,こうした保険学の理念を次世代を担う学生に受け継いでいくことも大きな課題の一つであると考えている。

<論文>
  • —その批判的検討—
    二木 雄策
    2016 年 77 巻 4 号 p. 117-147
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     交通事故による損害賠償の一環である逸失利益は,通常,被害者の平均年収(=基礎収入)に5%のライプニッツ係数を乗じて求められている。このような算定方式は果たして公正な結果をもたらすものなのだろうか。

     第一に,この方式は計算を簡略にするための近似法によるものなので,得られた金額の多寡は必ずしも正確なものではない。そればかりか,この方式では逸失利益の男女間格差が実態以上に拡大されるなど,無視できない質的な誤差をも含んでいる。

     第二に,この方式では逸失利益が,金銭の貸借や手形割引などと同じように,将来の「カネ」と現在の「カネ」との関係として捉えられている。しかし逸失利益というのは被害者が生産できるはずだった将来の「モノ」を現在の「カネ」で評価した金額なのだから,それを算定するためには,利子率だけではなく,「モノ」の価格(=物価)の変化をも考慮しなければならない。まして両者の値は,過去の統計が示すように,密接な関係にある。それにも拘わらず現行の算定方式では利子率だけが採り上げられ生産物の価格変化という視点は抜け落ちていて,その結果,被害者は大きな不利益を蒙ることになっている。

     逸失利益は公正なものでなければならないのだから,現行の算定方式は,少なくともこれらの点については,修正されなければならない。

  • —日照補償デリバティブ—
    辰巳 憲一, 范 玲玲
    2016 年 77 巻 4 号 p. 149-170
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     異常気象,電力小売完全自由化,資本増強を要求する規制などに対して,電力,太陽光発電,損害保険などの業界は早急な対応が求められている。本稿は太陽光発電において日照時間が得られない事態を補償する,日照補償サービスやデリバティブに係わる問題をファイナンス経済学で分析する。特に,気象庁の日照時間データを統計分析した辰巳・范[2014]1)がオプション・モデルを適用できるという基本的データを示したので,実際にそれを応用した計算結果を示して市場構造などについて多面的に考察する。

  • 山越 誠司
    2016 年 77 巻 4 号 p. 171-201
    発行日: 2016/02/25
    公開日: 2019/05/17
    ジャーナル フリー

     純粋経済損失に対応する保険として専門業務賠償責任保険(PI保険)があるが,弁護士・税理士・医師・建築士等の国家資格に関するもの以外,わが国ではほとんど普及していないと言ってよい。そもそも,20世紀前半までイギリスやアメリカにおいても純粋経済損失に起因する賠償責任は認められない傾向にあったが,その後,裁判例の積み重なりで認められることが増え,それに伴って保険も普及してきた経緯がある。

     一方,わが国においても企業活動の国際化に伴い,取引契約書にPI保険の付保を条件とされたり,インターネットを活用する事業活動により著作権・意匠権・商標権などが容易に国境を越えて権利を侵害するような状況が生じており,俄かにPI保険の必要性が認識され始めている。

     以上のような背景を踏まえてPI保険の輪郭を明らかにし,今後,複雑化するビジネスの現場でこの保険が必要とされる展開を模索してみたいと思う。

<損害保険判例研究>
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