損害保険研究
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78 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
<論文>
  • 吉澤 卓哉
    2016 年 78 巻 2 号 p. 1-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     国際通信を利用した保険の越境取引は今後拡大する可能性があるが,国際取引であることを日本国内の顧客が認識しないまま保険募集や保険契約締結が行われ,監督当局の許可を受けないまま海外直接付保がなされてしまう惧れのある状況になりつつある。そこで,本研究では,まず,保険の通信による越境取引に関する現行保険業法の規制内容を確認した結果,上述の問題状況への適切な対応が困難であることが判明した。  次に,立法論としていかなる制度を採用すべきかを検討するが,検討にあたり,他の先進国における規制状況(前号はフランス,ドイツまで。本号は米国,英国から),および,保険の隣接業界である証券分野の規制状況を概観する。その結果,先進国の規制の方向性は,免許制の適用対象から外したうえで海外直接付保規制をもって規制する法制と,免許制の適用対象として規制する法制とに大別されることが判明する。無免許外国保険者への付保を認める根拠や意義で現在の日本の保険引受状況を検証したうえで,日本における今後の規制の在り方を検討すると,前者が適当であると考えられる。
  • 深澤 泰弘
    2016 年 78 巻 2 号 p. 33-64
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     アメリカ法律協会が現在作成作業中の責任保険法リステイトメントでは,責任保険者が一定の状況において合理的な解決の決定をなす義務を負う旨の規定がある。この,「合理的な解決の決定」とは「判決により下されるであろう損害賠償の全額に対して,単独で財産上の責任を引き受ける合理的な者であれば行うであろう決定」であると定義されている。そして,保険者は被保険者の利害と自身の利害とを平等に考慮し,解決するか否かを判断しなければならない。このようにリステイトメントでは合理性の判断基準を採用し,学説で有力に主張されている厳格責任ルールは採用しなかった。我が国においても,アメリカと同様の問題が生じた場合には,合理性の基準が用いられるであろうから,リステイトメントの議論は大いに参考になると思われる。しかし,裁判所による合理性の基準の運用に関しては,実質的に厳格責任ルールが適用されるのと同様の厳格な運用がなされることが望ましい。
  • —自動運転が損害保険事業に与える影響について—
    大島 道雄
    2016 年 78 巻 2 号 p. 65-111
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     本稿は,自動運転車の事故であっても,現行の「自動車+自賠責保険」の枠組み内において事故解決を行う場合,運転リスク低減に伴い顕在化する保険料率の低下が,自動車・自賠責保険および損害保険事業に与える影響について考察したものである。リスクと料率の関連については,長期にわたり料率低下を示してきた火災保険の経緯,および自動車保険の現在までの料率の推移から,各々のリスクの変遷を確認した。この結果,運転リスク低減の影響は,自動車・自賠責保険市場の縮小にとどまらず,現行の自動車保険,自賠責保険の料率決定方法に抜本的な改定を迫るものであることを指摘する。同時にこの改定は,消費者(契約者)が料率低下のメリットを最大限享受できる視点からなされるべきことを述べる。
<研究ノート>
  • 山越 誠司
    2016 年 78 巻 2 号 p. 113-137
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     被保険者が保険保護を確保できるかどうかの重要論点に免責の分離条項と告知の分離条項があるが,なぜかわが国の現場ではあまり議論されることがなかった。しかし「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書においてD & O保険の7つの提言ポイントのうちの一つとして問題提起されたことを端緒として,今後,より深い議論がなされると思われる。  そして,免責条項に関しては行為免責の分離条項の必要性と被保険者にとっての確定判決免責の有用性が確認されるべきである。また,告知の分離条項に関しては,アメリカの実務の運用とイギリスの複合保険の理論をわが国にも導入すべきと思われる。  このように,理論的整合性と現実的妥当性の狭間でD & O保険の実務を成熟させるためには,すでに,アメリカやイギリスで採用されている規定や解釈をわが国に適合する形で採用することが重要と思われることを確認する。
  • 永井 治郎
    2016 年 78 巻 2 号 p. 139-172
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     17世紀のイギリスに活躍したニコラス・バーボン(N. Barbon)は,今日,「The Fire officeの創設者」と「重商主義思想の代表者」という2つの側面をもつ。本稿はこの両側面を統一的に把握するものである。そのとき,特に2つの点に注目する。  1つは,バーボンがThe Fire Officeの設立過程で,火災の発生にある法則性を感知し,これを「事故の不変の成り行き」(the constant course of accidents)と呼んだことである。ヤコブ・ベルヌーイ(J. Bernoulli)に先立つこの「大数の法則」の感知は,その後のバーボンの経済思想に対し,方法論的・経済論的に重大な影響を及ぼした。  もう1つは,バーボンがThe Fire OfficeとFriendly Societyとの対立をとおして,「基金なければ保険なし」(There can be no Insurance, unless there be a Fund Setled)という結論に至ったことである。The Fire Officeは,自らの保険基金(支払準備金)を利子生み資本(Zinstragendes Kapital)(=広義の貸付資本)に転化することで,保険の近代化を達成するが,このことは,晩年のバーボン銀行(The Land-Bank established, Anno Dom. 1695)の信用形成にも多大な影響を与えた。  バーボンの人物像は,この2点に注目するとき,全体的に把握される。
<寄稿>
翻訳
<寄稿(RIS 2015優秀論文)>
  • 関西大学 石田成則ゼミナール
    2016 年 78 巻 2 号 p. 213-231
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     本稿では,地域コミュニティの現状を踏まえた上で,「地域住民の相互扶助は,暮らしやすさを向上させる」という仮説を立て研究を進めた。ヘドニック・アプローチを援用することで「地域の住み心地」に関するアンケート結果について,その統計的有意性の有無を検証した。また,実際に行われている住民参加型福祉サービス活動の事例を挙げて紹介しながら,こうした時間貯蓄や地域通貨の制度が地域コミュニティ再生に果たす役割を検証した。そのうえで,地域の絆を強める住民参加型福祉のあり方を提案する。
  • —リスク細分型保険の是非—
    明治大学 中林真理子ゼミナール
    2016 年 78 巻 2 号 p. 233-247
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
     近年,日本ではテレマティクス保険が注目を集めている。テレマティクス保険は保険料算出に運転技術や走行距離を用いることで,現状の自動車保険よりもさらに個々の運転者の事故リスクに見合った保険料の設定が可能となると考えられる。この保険が日本の自動車保険制度に加わった際には,有用性のあるものとなり得るのかについて,警察庁による事故統計や,実際にテレマティクス機器を用いた走行実験を基に検証した。そしてリスク細分型保険の是非と今後の技術的な発展可能性について考察した結果,テレマティクス機器の更なる発展的な活用に期待は持てないものの,統計をさらに多く取り,多くのデータを用いて妥当性のある制度設計を検討していくことは,自動車保険のより精緻化された制度設計の前提条件となるだろうという結論を得た。
<損害保険判例研究>
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