損害保険研究
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79 巻, 1 号
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<論文>
  • 山野 嘉朗
    2017 年 79 巻 1 号 p. 1-30
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     フランスでは,2016年4月に民事責任法の改正草案が公表され,現在,立法に向けて検討作業が行われている。交通事故被害者は,1985年7月5日の法律(交通事故法)という特別法が構築したシステムによって手厚い補償を受けているが,本草案は,交通事故法の基本的枠組みを維持しつつも,複数の修正を加えた上で,同法の賠償規定を一般法である民法典に組み込んでいる。

     特に注目すべき改正点は,①交通事故補償制度が義務的自動車保険制度に裏付けられた特別な民事責任制度であることを明確にしたこと,②法の適用範囲を鉄道や専用軌道を運行する路面電車による交通事故にも拡大したこと,③被害者が運転者の場合にも,歩行者等の被害者と同様の保護を与えたことである。

     以上の改正は,これまで交通事故法に対して加えられてきた批判に応えるものと評価できるが,既に固まった判例理論が取り込まれていないなどの問題点も指摘されている。今後の国会における議論と最終的な立法内容が注目されるところである。

  • 菅野 正泰
    2017 年 79 巻 1 号 p. 31-58
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本研究は,グローバルな損害保険市場において,保険引受リスク削減のため使用される再保険取引によって形成される再保険ネットワークが,連鎖破綻の可能性を内在するかどうか分析し,主要保険会社のシステム上の重要性を評価する。現状,損害保険市場におけるシステミック・リスクのメカニズムは良く知られておらず,特に,国際保険規制上,「グローバルなシステム上重要な保険会社」(G-SIIs)の評価上重視されている相互連関性の分析は,リスクマネジメントの主要課題である。本研究では,まず,ネットワーク理論に基づく幾つかの中心性指標を使い,再保険ネットワークの構造を分析した上,各指標に基づき,システム上重要な保険会社を特定する。次に,金融工学のデフォルトモデルと連鎖デフォルト理論を用いた理論分析を行い,2006~2014年間の連鎖デフォルトの可能性について検討する。モデル理論上は,連鎖デフォルトの可能性があったと考えられる。

  • —近因原則の展開と方向性をめぐって—
    平澤 敦
    2017 年 79 巻 1 号 p. 59-104
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本稿は,イギリス海上保険法における因果関係論につき,改めて整理し,再考したものである。

     イギリス海上保険法における様々な問題は,過去から現在に至る膨大な判例の蓄積の中で1つ1つクリアされてきた。その中でも争点の大半は,保険者のてん補責任を巡る問題であって,その有無を画定する際に海上危険と損害の因果関係がきわめて重要となる。イギリス海上保険法における因果関係の問題は,複雑多岐にわたるが,因果関係においては近因原則が適用され,損害に対して,効果においてもっとも近接な原因を近因とすることについてはコンセンサスが得られている。ただし,近因の検証については,未だに決着しておらず,common senseを適用することが現時点でのベストとなっている。

     近因原則とは何か。本稿では,同時協働的近因の問題,因果関係を表す様々な表現,さらにはcommon senseの功罪という点を中心として,この問題を明らかにしていく。

<研究ノート>
  • 大羽 宏一
    2017 年 79 巻 1 号 p. 105-134
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     人工知能(AI)の驚異的進展に伴って,自動車の自動運転は単なる運転支援システムに留まらず,AIが人間に代わり運転する時代を迎えようとしている。同時に,自動車産業界はパリ協定の採択に影響を受け,CO2の発生削減のため化石燃料以外の動力への移行を求められているといえる。このため自動車が発明されてから130年以上を経ている現在は,自動車産業の大きなパラダイムシフトの時期ということができるだろう。

     本稿では,自動車産業の発展段階を振り返りながら,現在の置かれている状況を確認し,運転者のいない完全な自動運転車が市街地を走行することが実現した場合,人間が運転をすることを前提としている現行の道路交通法などの法体系はどのように改められるべきか,また自動車損害賠償保障法による被害者救済策はどのように再構築すべきであるか,を考察することとしたい。

  • 大井 暁
    2017 年 79 巻 1 号 p. 135-158
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     逸失利益を一時金賠償方式で算定する場合,将来取得する逸失利益を現在価額に換算する中間利息控除が行われる。民法(債権法)改正案では,中間利息控除に関する規定が新設され,中間利息控除は法定利率により行い,法定利率が当初3%から変動する案とされている。裁判実務上,若年者の逸失利益の算定方式として全年齢平均賃金にライプニッツ方式を用いる東京方式が定着しているが,この方式に従い改正案による3%の法定利率(変動制)で中間利息を控除すると,改正前後の逸失利益の格差や男女間格差が拡大する懸念がある。法改正を機に逸失利益の算定方法を再考する必要があると考える。具体的には従来あまり用いられて来なかった「表計算方式」ないし「個別割引方式」が再評価されて然るべきと考える。また,中間利息の控除割合の変更で損害額が大幅に増加することから,適用利率の基準日,現価計算の基準日は明確に決定される必要がある。

  • —工学的知見に対する再評価として—
    日野 一成
    2017 年 79 巻 1 号 p. 159-186
    発行日: 2017/05/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     交通事故におけるむち打ち損傷に対する工学的問題については,一時期,加害者側(主に保険会社)から,いわゆる無傷限界値(閾値)論により,被害者の受傷を否定する工学鑑定(私鑑定)が乱発され,訴訟内外において大きな社会問題となった。とりわけ,東京三弁護士会交通事故処理委員会むちうち症特別研究部会等は,この工学鑑定等の手法に対する問題指摘を行った。そこで,社団法人日本損害保険協会の委託で組織された事故解析共同研究会が実施した実車衝突実験や模擬衝突実験の結果,無傷限界値(閾値)論には,「すみやかに終止符がうたれるべきである」との報告書がまとめられた。これを受けて,日本賠償科学会においても,「少なくとも現在の工学的問題状況としては,低速度追突事案ではむち打ち症は発生しないという一般的法則性は否定されているといってよい」との見解を肯定し,この問題は一旦,議論としては収束したように思われる。最近では,古笛恵子弁護士が,損害賠償とは全く無関係の場面で,むちうち損傷を低減するための世界的研究の進展を踏まえ,「一時の工学的意見書に対する不信感があまりにも拡大解釈され,工学的知見すべてを排斥する姿勢をとっているのでないか,立ち止まって反省すべき時期にあるのではないかとも思われる」として,「新しい問題意識」を示している。一方,保険実務に目をむけると,人身傷害補償保険の普及に伴い,被保険者による恣意的な症状の訴えによる,受傷疑義事案が依然散見される状況である。そこで,本稿は超低速度事案におけるむち打ち損傷受傷疑義事案に対する考察を通じて,工学的知見に対する再評価を試みるものである

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