フランスでは,2016年4月に民事責任法の改正草案が公表され,現在,立法に向けて検討作業が行われている。交通事故被害者は,1985年7月5日の法律(交通事故法)という特別法が構築したシステムによって手厚い補償を受けているが,本草案は,交通事故法の基本的枠組みを維持しつつも,複数の修正を加えた上で,同法の賠償規定を一般法である民法典に組み込んでいる。
特に注目すべき改正点は,①交通事故補償制度が義務的自動車保険制度に裏付けられた特別な民事責任制度であることを明確にしたこと,②法の適用範囲を鉄道や専用軌道を運行する路面電車による交通事故にも拡大したこと,③被害者が運転者の場合にも,歩行者等の被害者と同様の保護を与えたことである。
以上の改正は,これまで交通事故法に対して加えられてきた批判に応えるものと評価できるが,既に固まった判例理論が取り込まれていないなどの問題点も指摘されている。今後の国会における議論と最終的な立法内容が注目されるところである。
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