損害保険研究
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79 巻, 2 号
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<論文>
  • 吉澤 卓哉
    2017 年 79 巻 2 号 p. 1-63
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本稿は,直接請求権のない示談代行商品の意義を確認したうえで,直接請求権のない示談代行商品が弁護士法72条に抵触しないかどうかを検討するものである。検討の結果,たとえ直接請求権が存在しなくても,保険者が実施する示談代行は同条に抵触しないことが明らかになった。なぜなら,賠償責任保険における責任関係と保険関係との強い牽連性があり,たとえ責任関係の拘束力が認められないとしても,保険法で賠償保険金に対する先取特権が被害者に付与されたことからすると,同条における他人性を排除する程度に強い本人性が保険者に認められると考えられる。また,仮に本人性が認められないとしても,正当業務行為として違法性が阻却されると考えられるからである。

     わが国において,保険者による示談代行は,自動車保険から個人向け賠償責任保険全般へと拡がり始めたが,未だ企業向け賠償責任保険では導入されていない。示談代行制度が保険契約者にとっても被害者にとっても有用だとすると,直接請求権の存否にかかわらず,必要に応じて事業者向け賠償責任保険にも導入していくべきであるが,直接請求権を設けないで示談代行制度を導入することは,法的にも実務的にも可能だと考えられる。

  • —アメリカ法を参考にして—
    桜沢 隆哉
    2017 年 79 巻 2 号 p. 65-100
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     損害保険において,保険者の保険給付義務の発生と同一の事由に基づき保険金請求者が第三者に対する損害賠償請求権等を取得する場合に,保険給付義務を履行した保険者は第三者に対する損害賠償請求権を取得する。この請求権代位は,被保険者の利息禁止および有責第三者の免責阻止をその趣旨としているが,保険契約者から保険料という対価を得て保険契約を引き受けている保険者が,自己の債務を履行しただけであるにもかかわらず,なぜ被保険者の第三者に対する損害賠償請求権をも取得するのかということについては,根拠を見いだすことは難しい。また,近年自動車保険の一種目である人身傷害補償保険をめぐる問題が取り上げられてきた。同保険は,実損塡補型の傷害保険(人保険)として構成されていることから請求権代位の範囲および約款の解釈等をめぐって議論がなされてきた。このような議論はアメリカにおいてもみられ,実損塡補型の人保険に保険者による代位が認められるか,認められるとすれば,何を根拠にどの範囲で認められるかということが,人身損害保険において問題とされてきた。

     そこで本稿では,アメリカ法を参考にして,保険代位の根拠とそれに基づき,いかなる類型の保険契約に保険代位が適用されるのか(適用基準)を明らかにし,アメリカの状況から示唆を得て,保険代位にかかる問題について解決の方向性を探ることを目的としている。

  • —新潟県南魚沼市及び魚沼市のスキー場における実現可能性の検証—
    伊藤 晴祥
    2017 年 79 巻 2 号 p. 101-127
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     小論では,積雪がある閾値以下となる日数を指数とする雪デリバティブを利用することによりどの程度企業価値が高まるかを検証した。まず,新潟県南魚沼市及び魚沼市の全16か所のスキー場入込数を利用して,15か所のスキー場で積雪リスクと入込数との相関係数の絶対値が0.4以上であり,殆どのスキー場でも積雪がリスク要因であることを示した。雪デリバティブの評価にあたり,その非完備性を考慮し,意思決定者のリスク回避性を価値評価に織り込むためにWang変換を利用した。シャトー塩沢のデータを利用した分析の結果,λが0.5以上の中程度リスク回避的な意思決定者である場合,雪デリバティブの安全割増が20%以下であれば,雪デリバティブの利用により企業価値が高まることを示した。現在保険会社から提供をされている天候デリバティブの安全割増は60%以上であると推計されており,このことが天候デリバティブの利用が進まない一因であるとも考えられる。

  • —「エージェンシー問題への対処」という観点から—
    木村 健登
    2017 年 79 巻 2 号 p. 129-170
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    近時,わが国でもD&O保険(会社役員賠償責任保険)に大きな注目が集まりつつあるが,このような保険について,わが国ではこれまで十分な検討がなされてきたとは言いがたい。本研究は,そもそも企業がD&O保険を購入することが「望ましい」といえるかについて,個々の取締役らを被保険者とするSide A coverageと,企業自身を被保険者とするSide B,Side C coverageとを区別したうえで,分析を行うものである。

     本研究ではまず,被保険者のリスク選好に着目する伝統的理論に基づいて,D&O保険の購入を正当化できるかの検討を行った。その結果,後者(Side B,Side C coverage)については,そのような立場からの正当化は困難であることが明らかになった。次に,それらの購入を正当化し得る別個の根拠として,米国・カナダの議論を参考に3つの仮説を提示したうえで,それぞれについて具体的な検討を行った(本号は仮説②まで)。

<研究ノート>
  • 新開 由香理
    2017 年 79 巻 2 号 p. 171-193
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     高次脳機能障害者の就労支援や自動車運転技能の判定に神経心理学的検査を用いた国内論文を収集し,高次脳機能障害者の社会適応能力を推測するにあたって神経心理学的検査をどのように捉えるべきかについて専門諸家の意見をまとめた。 高次脳機能障害者の就労群と非就労群の比較や自動車運転再開判定に用いられる神経心理学的検査は,Trail Making Test Part A(TMT-A),Trail Making Test Part B(TMT-B)を有意とする報告が共通して多かった。自動車運転再開判定においては,机上の神経心理学的検査を用いた評価から実車評価へ進む際の明確な基準は未だないが目安となる値を示す報告が散見された。

     高次脳機能障害者の社会生活適応にあたり,その障害度を評価するには,運動機能障害や発語に関する問題,基本的な生活習慣の確立や対人技能,自分の障害を認知することなどが重要で,神経心理学的検査だけで障害度を推定することはできないが,神経心理学的検査は,認知機能障害を数値化する点が有用であると考える。そして自動車運転再開判定における実車前のスクリーニングとしての目安値は,自動車運転が高度な認知機能を必要とすることや社会復帰をする上で重要な移動手段となる点などから,高次脳機能障害者の社会生活の適応を推定するための一つの参考になるものと考える。しかし,神経心理学的検査だけでは,高次脳機能障害の全体像を捉えることはできないことに留意する必要がある。

<寄稿(RIS 2016優秀論文)>
  • 関西大学 石田成則ゼミナール
    2017 年 79 巻 2 号 p. 195-212
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     日本は地震が多い国であることから,私たちは震災時にどのような支援が行われているかに興味を持った。

     そこで,実際に熊本県に足を運び,熊本地震の発生した時の状況や取組みなどの話を聞かせて頂いた。熊本調査の結果を踏まえて,私たちは災害時の効率的支援には,熊本地震の際に組織された「火の国会議」のような情報の一元化や共有ができる組織が必要であること,また多くの人を救助し,円滑な支援を行うには地域コミュニティの成立が不可欠であることを学んだ。これらを踏まえて,私たちは震災時の官民ネットワークの構築のために,情報を一元化,共有する組織を提案し,併せてその基盤となる地域コミュニティのあり方について提言する。

  • 上智大学 竹内明香ゼミナール
    2017 年 79 巻 2 号 p. 213-227
    発行日: 2017/08/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     日本では,2005年のライブドアとニッポン放送の経営権問題を皮切りに敵対的買収防衛策の導入社数が増大し,同時に防衛策導入に関する研究が多岐にわたって行われてきた。しかし,近年日本において買収防衛策の導入は珍しいものとなり,逆に買収防衛策を廃止する企業が増加している。この廃止の決定はどのような意味を持つのだろうか。買収防衛策の廃止が行われる要因の分析と,それに伴う市場評価の分析により,業績の良い企業は買収防衛策を廃止する傾向にあり,市場はそれに対して廃止を決定した翌日のみ肯定的な反応を示すこと,また,廃止した企業の当該事業年度の売上は低下し,その発表により株価が下がる傾向があることが分かった。

<損害保険判例研究>
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