D&O保険は,個々の取締役らを被保険者とするSide A coverageと,企業自身を被保険者とするSide B,Side C coverageから構成されるが,このうちの後者については,被保険者のリスク選好を根拠としてその購入を正当化することは困難である。そこで本研究では,米国・カナダの議論を参考に3つの仮説を提示し,それらによってSide B,Side C coverageの購入を正当化できるかの検討を行った(本号は仮説③から)。その結果,Side B coverage(会社補償の実施に伴う費用を填補する部分)についてはいかなる立場からもその購入を正当化できないことが明らかとなった。
他方,Side A,Side C coverageについても,一切の制約なしにその購入を認めることは「エージェンシー問題」の観点からの懸念を生じさせる。そこで本研究では,このような懸念にいかに対処すべきかについても検討を行った。その結果,D&O保険の塡補限度額および保険料に係る情報開示を法律で義務付けることが有益であるとの結論に達した。
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