損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
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79 巻 , 3 号
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<論文>
  • 長谷川 直哉
    2017 年 79 巻 3 号 p. 1-52
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本稿は,損害保険会社の社会戦略を分析することを目的としている。本業の品質向上を通じて社会課題の解決に貢献するという姿勢は,三社に共通する要素であった。損害保険事業は,多様なリスクに対するソリューションを提供することで,経済損失の抑制と社会価値の創出に貢献してきた。損害保険事業は本質的にCSV的な側面を持った産業である。本稿で取り上げた三大損害保険グループに共通する社会戦略上の課題は,ビジネス・オポチュニティと結びつくプロセスについての説明が希薄なことである。責任(ESG)投資は,オポチュニティとリスクを評価するが,損害保険会社の開示内容は,CSV先進企業のNestle社に見劣りすると言わざるを得ない。現代は産業社会からリスク社会への移行期にある。リスク社会とは,これまでの人間の行為が自らの存在を脅かすリスクを生み出している状況を指している。損害保険会社には,複雑化するリスク社会を生き抜くためのソリューションの提供が求められている。「アウトサイド・イン」アプローチによって,外部環境の変化とシンクロさせた社会戦略を構想していくことが,損害保険事業のビジネス・オポチュニティを広げていくことになるといえよう。

  • 鴻上 喜芳
    2017 年 79 巻 3 号 p. 53-74
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     請負業者賠償責任保険において,被保険者が管理する財物(管理財物)の損害は免責とされている。本稿では,日本における管理財物免責の現状を整理したうえで,日本への賠償責任保険導入以降の米国約款の推移と米国約款になお残る問題点を参考にして,日本における管理財物免責の課題を考察する。結論として,作業対象物以外の財物に関しては,約款文言整理がなお必要であること,ビジネスリスクであるにもかかわらず特約により幅広い補償が提供されていることには一定の妥当性があること,作業対象物に関しては,不備特定部位免責が必要であることを指摘する。さらに,米国約款になお残る問題点のうち,客体誤りと周辺財物損害について一部の会社には取扱方針の公表が期待されることを指摘する。

  • 焼田 紗
    2017 年 79 巻 3 号 p. 75-89
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     本稿では,自然災害によって損害が生じる経済において,損害保険が存在する経済と存在しない経済の2つのケースを想定し,両ケースのもとで達成される経済成長率の比較を行った。分析は,世代重複モデルを用いて,人的資本が経済成長の源泉となるような経済モデルに基づいておこなった。本稿の分析から得られた結果は以下のとおりである。損害保険が存在しない経済においては,将来の自然災害による損害に備えて予備的貯蓄の動機が存在するため,家計は子どもに対する教育時間を減らすことを通じて,所得を高めようとする。それに対して,損害保険が存在する経済においては,予備的貯蓄の動機がなくなるために,損害保険が存在しない経済と比べて,子どもに対する教育時間が長くなる。その結果,損害保険が存在する経済においては,人的資本蓄積が促されるために損害保険が存在しないケースと比べて経済成長率が高くなることが示された。

  • 木村 健登
    2017 年 79 巻 3 号 p. 91-125
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     D&O保険は,個々の取締役らを被保険者とするSide A coverageと,企業自身を被保険者とするSide B,Side C coverageから構成されるが,このうちの後者については,被保険者のリスク選好を根拠としてその購入を正当化することは困難である。そこで本研究では,米国・カナダの議論を参考に3つの仮説を提示し,それらによってSide B,Side C coverageの購入を正当化できるかの検討を行った(本号は仮説③から)。その結果,Side B coverage(会社補償の実施に伴う費用を填補する部分)についてはいかなる立場からもその購入を正当化できないことが明らかとなった。

     他方,Side A,Side C coverageについても,一切の制約なしにその購入を認めることは「エージェンシー問題」の観点からの懸念を生じさせる。そこで本研究では,このような懸念にいかに対処すべきかについても検討を行った。その結果,D&O保険の塡補限度額および保険料に係る情報開示を法律で義務付けることが有益であるとの結論に達した。

<研究ノート>
  • 竹井 直樹
    2017 年 79 巻 3 号 p. 127-144
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     日本損害保険協会(以下「損保協会」という。)の百年史が2017年5月に刊行された。その前は七十年史なので30年の歩みが新たに追加されたことになる。本稿では,この30年の最初の10年,すなわち1985年から1995年ごろまでに損保業界にどのような動きがあって,どのような評価ができるかを考察する。それはまさに保険自由化前夜に該当する。護送船団行政と言われた時期であったが,商品開発競争は非常に活発であった。そして,金融自由化の流れに呼応して規制緩和を目指した保険業法抜本改正の論議が始まり,損保協会内にも専任組織が立ち上がった。1995年にはその改正内容が確定したが,論点のなかには実現には至らなかったが業界団体の自主規制機関化も俎上に上がった。また,この時期は公正取引委員会が損保業界の活動について監視を強めた時でもあった。これに対し損保業界は業界一丸となって独占禁止法コンプライアンスにまい進した。さらに,IT社会の先駆けもこの時代であった。損保協会を窓口にして保険会社間をネットワークで結び,利便性と効率性を高める共同システムが誕生した。

     こうしてみると,業界団体の価値観が大きく変貌を遂げようとするなか,損保協会のあらたな役割が萌芽した時期であったことがわかる。ただし,当時損保協会が主導していた代理店制度については,この時期には見直しが行われなかったことは興味深い。

  • 山越 誠司
    2017 年 79 巻 3 号 p. 145-176
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

     わが国で雇用慣行賠償責任保険(EPL保険)は,それほど普及していると思えない。しかし,働き方改革など雇用形態が多様化し,外国人労働者も増加傾向にある。また,多くの日本企業は海外進出を果たし,現地の従業員を現地の法令や実務に基づいて人事労務管理する必要がある。そのように考えると,わが国の企業が抱える雇用慣行賠償責任リスクを小さく見積もることはできない。EPL保険は,その雇用慣行に関するトラブルに焦点を当てた特殊な保険であり,実用的な価値を保険者による防御義務に見出すこともできる。

     本稿においては,EPL保険の射程とする不当解雇,雇用差別,ハラスメントの各国の状況を概観し,CGL保険やD&O保険では対応しきれないEPLリスクに対するEPL保険の必要性を確認するとともに,保険者の防御義務の実用的価値を再確認することにしたい。

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<損害保険判例研究>
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