損害保険研究
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80 巻, 1 号
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<論文>
  • 岡田 豊基
    2018 年 80 巻 1 号 p. 1-31
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    車両保険において,車両の損傷事故・盗難事故の立証に関しては,間接事実の積み重ねで判断するほかはなく,ⅰ事故の客観的状況,ⅱ被保険者等の事故発生前後の行動,ⅲ被保険者等の属性・動機等,ⅳ保険契約に関する事情に大別して,主要な下級審判決を概観し,立証すべき事実について検討した。

    立証事実として,損傷事故においては,ⅰについて,車両の状況・損傷,現場の状況等が,ⅱについて,事故発見時の状況,被保険者・関係者の供述等が,ⅲについて,事故歴・保険金の受領歴,経済状況等が,ⅳについて,保険契約の内容等がある。盗難事故においては,ⅰについて,盗難の状況,事故現場の状況,鍵の保管状況等が,ⅱについて,供述の信用性,被保険者等の供述,被保険者等の行動等が,ⅲについて,事故当時の経済状況,偽装経験・保険金受領の有無,偽装動機等が,ⅳについて,保険契約の内容等がある。

  • ―損害保険事業総合研究所の本科講座受講生へのアンケート調査に基づいて―
    家森 信善
    2018 年 80 巻 1 号 p. 33-60
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    一般消費者の金融リテラシーの向上は重要な政策課題となっているが,損害保険会社や損保代理店の社員の金融リテラシーに関する調査はほとんど行われていない。本稿は,損害保険事業総合研究所の本科講座の受講生に対して2015年から2017年にかけて実施したアンケート調査の結果に基づいて,損害保険会社等の社員の金融知識の水準,学校での金融教育の経験,必要と考える金融知識の内容,日常的な金融知識の入手方法などについての実態を明らかにしている。

    金融業の重要な一角を占める損害保険事業に従事する社員でも金融知識に自信を持っていない人が多く,学校時代に金融について十分に勉強したことのない人が少なくない。その結果,社員の間の金融知識の水準にはバラツキがあり,本アンケートの回答者の約9割が新聞の経済ニュースを読む際に知識不足を感じている。入社してから間もない若手社員に対して金融の基礎知識を教育する必要性は高いと言えよう。

  • 菅野 正泰
    2018 年 80 巻 1 号 p. 61-86
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,米国クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場におけるシステミックリスクを評価する。最初に,この研究は集計された公正価値データを使って,バイラテラルな(双方向な)エクスポージャー行列を推定し,米国CDSネットワークの相互連関性を,各種のネットワーク中心性指標を使って理論分析した。次に,連鎖デフォルトの発生の有無についてデフォルト分析を行った。その結果,グローバル金融危機中に,米国CDSネットワーク経由で多数の単独のデフォルトと1件の連鎖デフォルトの発生が理論的に確認できた。かくして,ネッティングや中央清算など,各種リスク削減策が導入されている現在,米国CDSネットワーク経由のリスク連鎖は生じる可能性が少ないといえよう。

  • ―無保険車傷害保険の性質を踏まえて―
    上田 昌嗣
    2018 年 80 巻 1 号 p. 87-107
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    人身傷害保険における死亡保険金請求権の帰属に関しては,下級審裁判例が法定相続人に固有の請求権を認めたことを踏まえ,学説は人身傷害保険の法的性質及び死亡損害における相続構成の可否を中心に論じられてきた。有力な学説は,人身傷害保険が傷害疾病損害保険と位置付けられることにより,損害保険である前提から民事法の基本原則である相続構成を妥当としている。しかし相続構成と考えると,人身傷害保険の死亡保険金は被保険者の相続債権者の引当財産となってしまい,遺族である保険金請求権者にとって不利益な結果となる。そこで反対する学説は,人身傷害保険を非典型契約に位置付けるか,傷害定額保険に類似するもののように分類して,相続構成そのものを免れるようにできないか検討している。しかし,人身傷害保険が損害保険ではないとする考え方は,人身傷害保険の開発経緯や現実に果たしている役割からも疑問に思われる。

    一方,人身傷害保険が損害保険であることを前提としながら,人身傷害保険の前身とも考えられる無保険車傷害保険を検討し,不法行為における損害賠償の考え方において判例でも認められている扶養構成を導入してみれば,遺族である保険金請求権者に固有の損害の発生を認めることができ,人身傷害保険における死亡保険金請求権の帰属を固有の請求権として位置付けることが可能であると考える。

  • 新谷 哲之介
    2018 年 80 巻 1 号 p. 109-135
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    貿易取引において売買当事者間で譲渡される貨物海上保険証券について,これをブロックチェーン技術によってデータ化することが,現在日本で試みられている。本稿では,その実用化に向けた検討の一環として,ブロックチェーン上における証券の譲渡に関する規律について考えるとともに,これを踏まえてシステム上に求められる構造上の要件などに論及する。また,新たな電子技術を用いた貿易システム上に生じた事件にかかわる最近の英国法上の判例にも触れ,裁判上の争点を通じて保険証券のデータ化に通底する問題点を検討していく。

    貿易書類のブロックチェーンを用いたデータ化は,日本のみならず海外においても試みられているなか,こうした新技術と法規整の両者を融合した検討が国際的に必要とされている。本稿はそうした背景に基づいている。

<研究ノート>
  • ―諸外国での施策や昨今のIT環境を踏まえて―
    三村 雅彦
    2018 年 80 巻 1 号 p. 137-163
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    クレジットカードの偽造やインターネット・バンキングの悪用など,金融業界は不正行為に悩まされている。水増し請求,偽装事故など保険金不正請求を抱える損保業界にとっても対岸の火事ではない。本稿では,日本損害保険協会が2013年に専門組織を立ち上げ取り組んできた不正請求対策を考察した上で,諸外国での施策やデータ分析などの進展を踏まえ,新たな視点での保険金不正請求対策を提言する。

    具体的には,情報交換制度の高度化として①個人・法人を確実に識別するためにマイナンバーの利用や情報項目の拡充,②スコア化システムの導入,③種目横断の情報交換制度にすること,不正請求の抑止効果を狙った施策として①請求歴調査の本人への通知,②自賠責保険への罰則規定の新設,③保険引き受け時の不正請求情報の利用,④不正請求金額の公表である。

  • ―17世紀イングランドにおける近代保険生成の一齣―
    永井 治郎
    2018 年 80 巻 1 号 p. 165-189
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    イギリス最初の火災保険会社The Fire Officeは,1680年,ロンドンに設立された。

    この保険会社の誕生については,サムエル・ハートリブ(1600―1662)とそのサークルが与えた影響を看過できない。まずそこでは,「1枚の紙片(支払約束証)も,支払履行を裏付ける十分な保障があれば,金銀貨幣と同じものとなる」という近代信用思想が生まれたが,この見識はThe Fire Office に継承され,ここに保険が信用論の上に構成されたのである。また,そこからは,漁業近代化策の1つとして,漁業者の収益安定を目的とする保険会社(an Office of Insurance)の計画(1645年)が提案されたが,この保険構想は,The Fire Officeが会社形態で保険引受けを開始するための示唆となった。おしなべてこの系譜の保険会社は,貨幣の役割を社会的成長の促進(成長的貨幣観)の中に求めた。

    一方,保険会社の系譜には,上記とは全く異なり,保険加入者間の平等と安定を目指すものがあった。この系譜は,伝統的な共済的結合を継承するもので,Hand-in-Handがその代表である。ここでは貨幣の役割は,社会的不均衡の是正(均衡的貨幣観)の中に求められた。

    近代保険はこの2つのタイプの貨幣観が並立する場である。

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