イギリス最初の火災保険会社The Fire Officeは,1680年,ロンドンに設立された。
この保険会社の誕生については,サムエル・ハートリブ(1600―1662)とそのサークルが与えた影響を看過できない。まずそこでは,「1枚の紙片(支払約束証)も,支払履行を裏付ける十分な保障があれば,金銀貨幣と同じものとなる」という近代信用思想が生まれたが,この見識はThe Fire Office に継承され,ここに保険が信用論の上に構成されたのである。また,そこからは,漁業近代化策の1つとして,漁業者の収益安定を目的とする保険会社(an Office of Insurance)の計画(1645年)が提案されたが,この保険構想は,The Fire Officeが会社形態で保険引受けを開始するための示唆となった。おしなべてこの系譜の保険会社は,貨幣の役割を社会的成長の促進(成長的貨幣観)の中に求めた。
一方,保険会社の系譜には,上記とは全く異なり,保険加入者間の平等と安定を目指すものがあった。この系譜は,伝統的な共済的結合を継承するもので,Hand-in-Handがその代表である。ここでは貨幣の役割は,社会的不均衡の是正(均衡的貨幣観)の中に求められた。
近代保険はこの2つのタイプの貨幣観が並立する場である。
抄録全体を表示