降車時の転倒,車内での熱中症,車内からの物の投棄のように自動車の走行とは直接関連しない出来事に伴う損害に関しても自動車保険による保護を及ぼすべきかという問題がある(運行・運行起因性の問題)。本稿では,主にイギリス法との比較を通じ,これらの問題を検討した。
その前提として,まず,イギリスの交通事故補償制度を概観し,それが日本の制度と通底していることを確認した。
次いで,裁判例を比較した。運行概念に関しては,日本の伝統的な理論が抱える問題点を克服するためには,イギリスの判例理論を参照することが有用であると主張した上で,実際,日本の裁判例もそのようなスタンスをとりつつあると指摘した。運行起因性概念に関しては,平成28年に日本の最高裁が示した解釈がイギリスで構築されてきた判例理論に近似していると指摘しつつ,イギリスの裁判例を踏まえた上で,より広く運行起因性を認める解釈の方向性を示した。
抄録全体を表示