損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
82 巻, 1 号
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<研究論文>
  • 後藤 元
    2020 年 82 巻 1 号 p. 1-30
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    本論文では,自動車をめぐる技術革新として近年注目が集まっている自動運転車とライドシェアによる人身事故についての民事責任のあり方を検討する。まず,完全自動運転車による事故については,現行法の下では自動運転システムにエラーがあった場合であっても所有者に運行供用者責任が成立するため,自動運転車メーカーに安全な自動運転システムを開発するインセンティブをどのように与えるかが問題となる。次に,通常の自動車を用いたライドシェアサービスにおける事故については,契約上の建付けと現行法を前提とした場合には,ライドシェアサービス事業者は旅行業者としての責任を負うにとどまる可能性が高く,賠償資力や安全性をどのように確保するかが課題となる。以上を前提に,完全自動運転車を用いたライドシェアサービスにおける事故についての民事責任について,完全自動運転車が実現した際の自動車の保有形態がどのようになるかを考えつつ,検討する。

  • 藤澤 尚江
    2020 年 82 巻 1 号 p. 31-55
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    近年,自動運転技術の実用化のため,日本でも法的な議論が活発化している。本稿は,自動運転車の事故による責任に,いずれの国の法が適用されるべきかという,国際私法の問題について,EUのローマⅡ規則との比較により検討するものである。そして,本稿の検討から次を示す。第一に,事故の責任主体が自動運転システムの供給者へと移ることから,適用通則法18条について従来指摘されてきた問題,すなわち,被害者保護よりも生産者保護に資するという問題や予見可能性の不明確さ,バイスタンダーへの適用の困難さという問題等がより大きな意味を持つようになる。第二に,自動車がソフトウェアに制御されるようになることから,従来自動車については指摘されてこなかった問題,すなわち,自動運転車とソフトウェアの引渡しとが異なる地で行われた場合の準拠法決定の問題や使用許諾契約の準拠法への連結による問題が新たに生じる可能性があるということである。

  • 白井 正和
    2020 年 82 巻 1 号 p. 57-88
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    傷害保険における外来性要件に関する伝統的な理解は,最判平成19年7月6日民集61巻5号1955頁が示されたことで,現在では根本的な方向転換が求められており,既存の学説・実務は大きな変更を迫られている。本稿では,同最判の判示内容を前提とした上で,傷害保険における外来性要件をめぐる今後の争点となりそうな問題を整理・検討するとともに,今日において外来性要件が果たしうる機能および同要件と疾病免責条項との関係についても考察する。本稿で取り上げる問題として,具体的には,最判平成19年に従い,外来の事故とは被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうとしても,(a)どの範囲の事実を基礎として身体の外部からの作用の有無を判断することが適切かという問題,および(b)身体の外部からの作用の有無を判断すること自体が容易ではない場面における外来性要件の認定に関する問題を扱う。

  • 山下 徹哉
    2020 年 82 巻 1 号 p. 89-147
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    傷害保険における外来性要件の判断枠組みは,近年の最高裁判決を契機に大きな争点となった。議論は深まりつつあるが,なお理論面で克服すべき課題が指摘されている。本稿では,従前の議論を深めることを目的に,平成19年の最高裁判決の判断枠組みの源流といえるドイツ法の解釈をリサーチし,日本法の解釈に与える示唆について検討を行う。まず,ドイツ法では,身体外部から作用する傷害事故として,健康障害をもたらす因果の連鎖の端緒となる出来事が考慮されることや,身体外部からの作用が直接健康障害を引き起こす必要はなく,間接的作用でも足りる場合があることなどが明らかになる。次いで,これらのリサーチ結果を参考にして,平成19年の最高裁判決の判断枠組みが外来性判断に因果関係の要素を持ち込まないことを論理必然に要求するわけではないことを示した上で,因果関係の要素を持ち込んだ場合の判断基準等について検討を行う。

  • ―英国法からの示唆を踏まえて―(2完)
    王 学士
    2020 年 82 巻 1 号 p. 149-235
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    保険契約に基づく詐欺的な保険金請求が増加しており,如何なる詐欺防止対策をとるべきかが課題となっている。そこで,本稿は,比較法的視点から,詐欺請求の法的効果,特に不実申告ないし詐欺請求による保険者の給付免責の可否を明らかにするとともに,詐欺請求による保険者の解除権の行使や給付免責の適切性を確保するために,詐欺請求の判断基準とはどのようなものであるかを検討する。検討にあたり,英国法における保険金の詐欺請求に対する法的規律を概観する。その結果,詐欺請求に対する私法的規律のあり方については,約款上の詐欺請求条項による保険者の給付免責のほか,約款の規定がなくとも,公序に由来するコモン・ローの原則に基づく保険金の給付請求権自体の失効法理も適用されてきたことがわかった。詐欺請求の判断基準については,過大請求と「詐欺的手段」の利用という類型に分けて論じられ,特に如何なる程度の過大請求が詐欺的な過大請求と認められるかに関しては,「デ・ミニミス」ルールとよばれる客観的な「量的」基準により,「実質性」の要件が満たされると詐欺請求として判断され,保険者の給付免責が認められてきていることを明らかにする。英国法における詐欺請求による保険者の給付免責を認める法的根拠や詐欺請求の判断基準は,現在の日本の詐欺請求対策を検証する上で,重要な素材となる。

<研究ノート>
  • ―17世紀イングランドにおける近代保険生成の一齣―
    永井 治郎
    2020 年 82 巻 1 号 p. 237-260
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    近代火災保険は,17世紀イングランドに広く浸透した信用観の下に,1つの信用制度として誕生した。そのため黎明期のいずれの保険会社も保険信用を確実強固なものにする対策を講じたが,その方法には大別して,物的保証を設けるものと人的保証に拠るものとがあった。いずれの方法をとるかは,創業時の資本蓄積の有無によって決められた。そして物的保証を採用したThe Fire Officeは,商品世界の物神性がもたらす「擬制利子」を得て,保険業務自体から利益を収得したが,人的保証を採用したFriendly Societyは,その余地がなく,保険業務外に利益を求めねばならなかった。こうして営利保険(proprietary)と相互保険(mutual)という2つの企業形態が誕生するのであって,そこには中世ギルド共済の影は全く見当たらないのである。

<寄稿>
<損害保険判例研究>
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