保険契約に基づく詐欺的な保険金請求が増加しており,如何なる詐欺防止対策をとるべきかが課題となっている。そこで,本稿は,比較法的視点から,詐欺請求の法的効果,特に不実申告ないし詐欺請求による保険者の給付免責の可否を明らかにするとともに,詐欺請求による保険者の解除権の行使や給付免責の適切性を確保するために,詐欺請求の判断基準とはどのようなものであるかを検討する。検討にあたり,英国法における保険金の詐欺請求に対する法的規律を概観する。その結果,詐欺請求に対する私法的規律のあり方については,約款上の詐欺請求条項による保険者の給付免責のほか,約款の規定がなくとも,公序に由来するコモン・ローの原則に基づく保険金の給付請求権自体の失効法理も適用されてきたことがわかった。詐欺請求の判断基準については,過大請求と「詐欺的手段」の利用という類型に分けて論じられ,特に如何なる程度の過大請求が詐欺的な過大請求と認められるかに関しては,「デ・ミニミス」ルールとよばれる客観的な「量的」基準により,「実質性」の要件が満たされると詐欺請求として判断され,保険者の給付免責が認められてきていることを明らかにする。英国法における詐欺請求による保険者の給付免責を認める法的根拠や詐欺請求の判断基準は,現在の日本の詐欺請求対策を検証する上で,重要な素材となる。
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