損害保険研究
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82 巻, 2 号
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<研究論文>
  • ―相互参入とその時代―
    大島 道雄
    2020 年 82 巻 2 号 p. 1-49
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    1995年の保険業法改正に伴う生・損保の相互参入については,生保系損保に関しては肯定的な評価は聞かれず,一方,損保系生保は順調に成長しているといった評価が一般的である。しかしこれらの評価のほとんどは生・損保子会社の動きにのみ焦点を当てたものであり,当時の生・損保両市場の動向や同時期に新たに市場に参入した保険会社の動き等にはほとんど触れていないため,相互参入について全体像を対象にしたものではない。本稿は,相互参入時期の生・損両保険市場の状況を確認の上,生・損保両事業の新規企業の戦略,料率水準および販売網について比較・考察を行なった。この結果,これらの要素が相互参入時期の生・損保両事業に対し極めて大きな影響を与えていたことを指摘するとともに,相互参入とは「生・損保の市場および経営の特性を同時進行的に同一評価基準で比較・考察できる最良の機会」と位置付けられることを論じたものである。

  • ―フィデューシャリー・最善の利益を踏まえた考察―
    西羽 真
    2020 年 82 巻 2 号 p. 51-78
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    顧客本位の業務運営に関する原則は,損害保険業界にとって,インベストメント・チェーンにおける役割がイメージしづらいことや,キーワードである「フィデューシャリー」という立場の捉え方が共通の認識となっていないことなどから,向き合い方の整理が難しい代物である。原則策定に至る経緯からは,フィデューシャリーの概念を広く捉え,金融事業者を信認する者の保護を図る規律を追求する中で,一貫して投資商品の販売・勧誘に関する業務に対する当該概念の導入が課題とされてきたことが確認できる。一方,原則策定の際に参照された販売・勧誘業務にフィデューシャリー・デューティーを課す米国の動向にはその後変化も生じており,その点も参照して原則の再定義が検討されている。損害保険取引はそうした動向の対象とされていないが,原則を採択する業界関係者は,そのような動向等も参考に,自身の状況により適合した対応をあらためて整理する必要もあろう。

<研究ノート>
  • ―サイバー攻撃対策との比較―
    辰巳 憲一
    2020 年 82 巻 2 号 p. 79-99
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    急速に増加する多種多様なサイバー攻撃などに対して,IT企業,損害保険などの関連業界だけでなく,広く一般の企業も早急な対応が求められている。サイバーセキュリティ保険はサイバー攻撃に起因して発生する様々な損害に対応するための保険で,サイバー事故によって企業に生じた第三者に対する損害賠償責任のほか,事故時に必要となる費用や自社の喪失利益を包括的に補償する保険である。防御ソフトの導入などで行うセキュリティ対策も一見して類似の効果をもたらす。そのためセキュリティ対策は保険機能を持つと言われる。どの位,どのように類似しているか,を解明することは興味あるだけでなく実務上必要で役立つ検討テーマであろう。本稿はオプション・モデルを用いて両者を定式化し,比較可能にした上で,サイバーセキュリティ保険の特徴を浮かびあがらせる。オプション理論においてはオプションのパフォーマンスとコストを分析するために損益線が用いられる。本稿ではこの手法を用いてサイバーセキュリティ保険を分析する試みを行う。

  • 清水 秀規
    2020 年 82 巻 2 号 p. 101-121
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    近時,交通事故により,歯牙破折等を受傷した者に対し,補てつ処置としての口腔インプラント治療が施行されているのが散見される。これは口腔インプラント治療の技術の進歩もあるが,被害者のインプラント埋入希望者の増加,自賠責保険(共済)での認定制度の変化等が考えられる。本稿では,交通事故判例の中から口腔インプラント治療が行われた判決ベースを抽出し,判決年が平成15年から平成29年までの40の裁判例から裁判上の損害賠償の範囲について分析した。また,口腔インプラント関連の論文,医学書,インターネット検索等から治療のメリット,デメリット,対象患者,医療費,適用範囲等の観点から,損害賠償上の妥当な範囲について考察した。

  • ―ブラックリストからスコアリングモデルへ―
    三村 雅彦
    2020 年 82 巻 2 号 p. 123-144
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    日本国内では,インターネットの浸透により保険金不正請求の手口に関する情報が一般消費者でも容易に触れられるようになったことや,社会全体のモラル意識の低下などにより不正請求事案は今後増加していく懸念がある。三村(2018)では日本損害保険協会が実施してきた不正請求対策の効果を検証し,諸外国での施策や昨今のIT環境の著しい進展を踏まえた情報交換制度の高度化について提言している。本稿ではその後に実施した取組みにより従来の「ブラックリスト」的発想から脱却し,ビッグデータ,人工知能(AI)をキーワードにした「スコアリングモデル」的発想に切り替え情報交換制度の高度化が進んだことを説明し,業界団体がスコアリングモデルに取り組んだ意義や本取組みを深化させるための今後の課題について述べる。

  • ―イギリスの取り組みを踏まえて―
    古橋 喜三郎
    2020 年 82 巻 2 号 p. 145-170
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    諸外国では保険金請求の5%~15%程度が詐欺によるものであると推定されており,保険金詐欺対策には世界中の保険業界等が多大なコストをかけているものの,巧妙化する保険金詐欺の前に撲滅には至っていない。わが国の損害保険業界も例外ではなく,保険金詐欺に関する情報交換制度や通報制度を設けるなど,業界をあげて保険金詐欺対策に取り組んでいるが,各国保険業界と同様その対策には苦慮しているのが実情である。本稿では,保険金詐欺の被害が多く,保険業界が政府や警察など官民と連携して対応を検討し,様々な対策が講じられているイギリスを事例として,わが国の損害保険業界に有効と思われる手法や考え方を考察し,具体的な提言を述べる。

<寄稿(RIS2019優秀論文)>
  • ―主要工場の被災地域内外の分布に注目して―
    庄司 瑞穂, 鈴木 俊太朗, 鈴木 典子
    2020 年 82 巻 2 号 p. 173-189
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    近年,わが国では東日本大震災や熊本地震など大規模な震災が多発しており,災害による損害額は上昇傾向にある。大規模震災は一般家計のみならず企業の活動にも甚大な被害をもたらし,時には企業活動の継続が困難になる場合もある。本論文は,リスクファイナンス手法の1つである負債による資金調達について,東日本大震災前後でそのコストを比較する。実証分析の結果,震災後,平均的に負債コストは急上昇するどころか,むしろ低下していたことが分かった。また,そうした負債コストの低下は,被災地域内に主要工場を有する企業であるかどうかの違いによって大きな差異が見られないことも確認された。このことから,事前の地震リスクファイナンス手法である企業地震保険は,その代替的手法に比して相対的に「割高」であると認識されてきた可能性が示唆される。

  • 大橋 拓真, 北川 恵太, 川上 遼大, 木内 智貴, 鈴木 初音, 横山 拓哉
    2020 年 82 巻 2 号 p. 191-201
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,企業業績における同族企業と非同族企業の違いに着目した。過去の同族企業についての先行研究を調べると収益性や事業リスクについての研究が多く,倒産リスクに焦点を置いた研究が少なかった為,過去の研究に新たな視点を加えることによって知見を得ようとするのが本研究の目的である。仮説は,「同族企業は家業を残すために保守的な経営を行い,倒産リスクは低くなる」とした。分析結果は,概ね同族企業の方が非同族企業に比べ倒産リスクが低いという仮説通りの結果が得られた。

<損害保険判例研究>
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