損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
85 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
<研究論文>
  • 潘 阿憲
    2023 年 85 巻 1 号 p. 1-40
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    自賠法72条1項の政府保障事業に基づくてん補金支払請求権は,異論はあるものの,一般に,自動車事故の被害者の救済を目的として創設された権利であり,不法行為に基づく損害賠償請求権とは法的性質が異なるものと解される。このため,同規定に基づく政府のてん補金の支払は,加害者の被害者に対する損害賠償債務の弁済としてなされるものではないから,法定充当に関する民法の規定を適用することはできず,てん補金の遅延損害金への充当を認めることは困難である。また,自賠法72条1項に基づいててん補されるべき「損害」は,同規定の文言解釈のみならず,政府保障事業の目的および趣旨に照らしても,自賠法3条にいう「運行によって」「生じた損害」それ自体,すなわち,被害者が自動車の運行によって直接に受けた損害それ自体であり,遅延損害金の損害は含まれないと解するのが妥当であることなどから,自賠法72条1項による損害のてん補額を遅延損害金と損益相殺的な調整を行うことも困難ではないかと考えられる。

  • ―ドイツにおける近時の議論を参考として―
    陳 亮
    2023 年 85 巻 1 号 p. 41-81
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    損害保険事故が人為的に発生した場合において,いかなる者のいかなる帰責事由による事故招致がいかなる理由でいかなる法的効果を生じさせるかは,保険法学上,絶えず議論されている重要な理論的・実際的問題の1つである。日本においては,従来,この問題を解明するための手がかりとしてドイツにおける議論を参考とした多くの先行研究がなされてきた。一方,ドイツにおいては,同国保険契約法の2008年改正に際し事故招致に関する規律について重要な変更が行われたことを契機として,上述の問題について種々の新しい議論が展開されている。本稿は,ドイツにおける近時の議論を参考としつつ,事故招致に関連する諸問題のうち事故招致に関する規律の理論的根拠について考察を行うものである。

  • ―海上保険実務家の視点から―(2完)
    久保 治郎
    2023 年 85 巻 1 号 p. 83-114
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    海事私法には陸上の企業活動に適用される規律とは性質を異にする,言わば海的色彩を帯びたものがある。本稿では,代表例として航海過失免責,船主責任制限,共同海損,不成功無報酬の原則に基づく成功報酬型救助契約を取り上げて,本来の趣旨を確認し規律と実務の現状を分析した上で今後のあり方を検討した。その結果,これらの制度は現在も維持されているが,利害関係人の意識を含めた社会環境の変化に伴う規律の改正や新規律の成立,判例や実務の変化によって変質していることが理解できた。特に,不成功無報酬の原則は既に実質的に廃止に至っていると評価できる。制度間の関連性の観点から,今後,既存条約の発効によって航海過失免責が廃止されると共同海損制度は機能不全に至る事態が予想される。海上保険による機能代替の観点から考察すれば,他の制度は廃止があり得るが,成功報酬型救助契約は機能代替が不能であり,今後も維持されるべきものである。

<研究ノート>
  • 須長 翔
    2023 年 85 巻 1 号 p. 115-140
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    柔道整復師は,交通事故で受傷した被害者の社会復帰に向けた施術を有資格で行っており,その施術費についても損害賠償の費目に含まれていることから,交通事故における柔道整復師の地位および施術行為は社会的に確立された存在である。しかし,交通事故における施術にあたり,一部の柔道整復師による各種不正・違法行為が存在しており,本来救済されるべき被害者への不利益につながるおそれが生じている。本稿は,損害保険業界はもちろん,柔道整復業界を含むすべての関係者が発展し,もって被害者が適正に救済される社会を実現するよう,柔道整復業界の現況を把握のうえ,各種不正・違法行為にかかる課題および主に損害保険業界が採り得る施策を考察するものである。

  • 永井 治郎
    2023 年 85 巻 1 号 p. 141-161
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    イギリス最初の火災保険会社The Fire Officeの誕生については,久しく1666年のロンドン大火に,その直接的原因が求められてきた。が,本拙論は,このような旧来の見解に疑問を抱き,代わりに,創設者ニコラス・バーボンの手掛けた2つの事業−土地開発業と火災保険業−の相互補完関係の中に,The Fire Officeの誕生理由を見出そうとするものである。つまりN.バーボンが第1に,土地開発業に投入した資本の循環を維持するために保険の必要に迫られ,自ら家屋火災保険を構想したこと(保険の需要),そして第2に,開発事業の成果としての土地を累積し,これを保険金支払ファンドとして保険信用の創造を行ったこと(保険の供給)の2つの点に,照準があてられる。こうして企業家N.バーボンの手で,保険の需要・供給の両側面が合一し,The Fire Officeの創設となったのである。

<損害保険判例研究>
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