イギリス最初の火災保険会社The Fire Officeの誕生については,久しく1666年のロンドン大火に,その直接的原因が求められてきた。が,本拙論は,このような旧来の見解に疑問を抱き,代わりに,創設者ニコラス・バーボンの手掛けた2つの事業−土地開発業と火災保険業−の相互補完関係の中に,The Fire Officeの誕生理由を見出そうとするものである。つまりN.バーボンが第1に,土地開発業に投入した資本の循環を維持するために保険の必要に迫られ,自ら家屋火災保険を構想したこと(保険の需要),そして第2に,開発事業の成果としての土地を累積し,これを保険金支払ファンドとして保険信用の創造を行ったこと(保険の供給)の2つの点に,照準があてられる。こうして企業家N.バーボンの手で,保険の需要・供給の両側面が合一し,The Fire Officeの創設となったのである。