大規模な自然災害が世界的に頻発し,損害保険の役割はますます重要となる一方,民間の力だけでは限界があり,多くの国で保険における官民連携(PPP)が進められている。風水災に対しては,わが国では損害保険と共済で対応しているが,将来,何らかの形の PPPが必要となる可能性はないか。イギリスでは,度重なる大洪水が生じ,保険に入れない人や保険料が高くなりすぎる人が多く生じた。自由な市場取引を守りたい保険業界と消費者が保険を利用できるようにしたいが財政負担はしたくない政府との間で半世紀を超える協議がなされ,その結果,2014年に誕生したのが洪水再保険(Flood Re)である。この制度は,保険者の自由な行動は維持しつつも,市場に一定の影響力を与えるために,再保険という仕組みを利用するもので,世界的にもユニークな PPPである。本稿は,洪水再保険の創設に至る経過を詳しく追いながら,この制度が関係当事者の交渉上の妥協点でありつつ,様々な価値の均衡点としての合理性も有していることを示す。
急増しているサイバー攻撃に対抗するために行われる企業のサイバーセキュリティ投資について,その資産化の意義を議論し,資産化の方法を提案する。資産の可視化が企業のパフォーマンス指標に及ぼす影響も考察し,可視化された資産の公開が損害保険業に及ぼす影響と対策を議論する。損害保険業においては,サイバー保険はそれ自体の商品開発・販売と基幹部門である自動車保険との係わりの2点が重要になることが注目される。そして,サイバー保険が自動車保険や製造物責任(PL)保険などその他の損害保険商品とどのような関連を持つか等が研究テーマの1つになる。 また,サイバーセキュリティ投資は非財務情報の1つであり,非財務情報開示の視点から大きな影響を及ぼす証券市場への効果についても言及する。
本稿の主題は,歴史的観点から,我が国,普通火災保険約款の系譜を辿り,普通火災保険約款において不実申告にいかなる約款上の対処が図られてきたのか,また,それにいかなる理論的説明が与えられてきたのかを概観・考察することである。そして,沿革的考察の結論として,「被保険者失権」条項が「保険者免責」条項に置き換わる過程において,約款条項と失権法理との理論的連続性が失われてしまったことを明らかにし,重大事由解除と失権法理との理論的関連・異同についての検討が必要であることを主張する。最後に,不実申告免責の問題が,そもそも約款自治の及ぶ領分の問題であるのか否かについて若干の考察を行った上で,私見として,約款自治の及ぶ領分の問題として今後の約款改善の検討の余地があることを論ずる。
コロナ禍でインターネットがさらに普及するのに伴い企業も職場出勤から在宅勤務に移行している。それに伴い,国内に向けられたサイバー攻撃件数も急増していることから,情報セキュリティインシデントへの対策の必要性が増している。本研究ではランダム比較化試験(RCT)により,情報セキュリティインシデントへの対策としてリスク認知に関する介入が有効であることを明らかにし,社員教育・社員還元を取り入れた新しいサイバー保険を提言する。
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