これまで,情報の非対称性等の観点から,保険契約者の属性をもとに保険契約の特性や区別を認める考え方(個人保険 対 企業保険など)は存在したが,本論文は,対象とするリスクの特性(マスリスクか,非マスリスクか)をもとに契約理論を探究する執筆者の仮説をもとに,その考え方が適合するかをex gratia payment(任意の支払い)方式を取り上げて検討するものである。イギリスにおけるex gratia paymentに関係する法的論点(定義,合法性,エストッペル,代位,再保険)を確認したうえで,わが国においてこの方式をいかに理解できるかを考察し,その法的位置づけは,マスリスクの保険と非マスリスクの保険で同一とみてよいか疑問があることを示す。