損害保険研究
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85 巻, 3 号
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巻頭言
回顧
記念論文
  • -マスリスクの保険と非マスリスクの保険の違い-
    中出 哲
    2023 年 85 巻 3 号 p. 17-45
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    これまで,情報の非対称性等の観点から,保険契約者の属性をもとに保険契約の特性や区別を認める考え方(個人保険 対 企業保険など)は存在したが,本論文は,対象とするリスクの特性(マスリスクか,非マスリスクか)をもとに契約理論を探究する執筆者の仮説をもとに,その考え方が適合するかをex gratia payment(任意の支払い)方式を取り上げて検討するものである。イギリスにおけるex gratia paymentに関係する法的論点(定義,合法性,エストッペル,代位,再保険)を確認したうえで,わが国においてこの方式をいかに理解できるかを考察し,その法的位置づけは,マスリスクの保険と非マスリスクの保険で同一とみてよいか疑問があることを示す。

  • 吉澤 卓哉
    2023 年 85 巻 3 号 p. 47-80
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    今日においては,現実空間とメタバースという仮想空間とが併存する。両世界の保険との関わり方,すなわち,保険カバーの対象と保険契約に関する一連の手続とで保険を分類すると,4類型に分類することができる。このうち,メタバースを保険カバーの対象とし,現実空間において保険契約に関する一連の手続を行う保険のうち,現実空間の法主体が負担するリスクをカバーするものを対象として,保険法上の法的論点を検討した。その結果,アバターは人ではないので,アバターを保険の対象とする「人保険」は存在し得ないこと,メタバース内での仮想戦争や仮想変乱について戦争危険免責は適用されないこと,メタバース内でのみ損害賠償責任が発生し,現実空間では損害賠償責任が発生しない場合には,責任保険に関する特則や請求権代位が適用されないであろうこと,メタバース内の財産に残存物代位が適用されないであろうこと等が明らかとなった。

  • -保険・共済の新しいパラダイム-
    河合 美宏
    2023 年 85 巻 3 号 p. 81-98
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    自然災害が増加・激甚化する中,保険における「プロテクション・ギャップ」が問題となっている。その背景には,保険や共済についての理解不足,リスク評価に必要なデータやモデルの未整備などが挙げられる。近年では,プロテクション・ギャップ是正のため,G7,OECDやASEAN+3をはじめ,国際機関,規制当局機関,民間団体などで議論が活発化している。プロテクション・ギャップの課題解決には,保険リテラシーの向上や,適切な規制の実施,保険基盤に遅れをとっている新興市場国への支援,官民での連携などが考えられる。今後は大災害がますます増加すると予測される中,政府は保険事業者や専門家とともに,そのリスクについて検討するとともに,より多くの人を救済できるよう,プロテクション・ギャップの是正に努めることが求められている。

  • 家森 信善, 上山 仁恵
    2023 年 85 巻 3 号 p. 91-128
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    本稿は,2022年8月に実施した3000人のアンケート調査から,金融・保険リテラシーが低いことで,リスク認知が不十分であったり,保険のカバー範囲を誤解するなどして,自然災害に対する保険加入が進まず,自然災害リスクに対して脆弱な状況にある人が多数いることを明らかにした。また,金融リテラシーと損害保険リテラシーの相関が低いことから,金融教育とは別に,保険教育を行うことが必要であることも明らかになった。金融リテラシーが低い場合,助言者の役割が重要になるが,例えば,地震保険加入において助言を受けたり参考にしたりしていない人が33%おり,その人たちのリテラシーがむしろ低かった。金融・保険リテラシーの低い人が安心して相談できる社会的なインフラの整備が求められている。本稿の結果は,金融経済教育,とくに保険に特化した教育の充実や中立的な助言者の育成の重要性を示唆している。

  • 八島 宏平
    2023 年 85 巻 3 号 p. 129-153
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は自賠責保険の損害調査に必要な各種立証資料作成に係る費用の認定方法を明らかにすることである。最初に不法行為による損害賠償の範囲と損害保険契約による保険給付の範囲の関連を整理する。そして損害立証資料電子化の進展に応じて原本主義とその根拠と思われる実損塡補の考え方を修正すべきことを述べる。具体的には,まず電磁的方法によって損害立証資料の提出を受けた場合は原本主義を修正し保険給付の対象とすることが妥当である旨を論証する。次に,損害立証資料作成費用の金銭的評価に当たり実損塡補の考え方を部分修正し定額評価すること(定額化)の適否を論じる,この際,定額化という認定手法と親和性のある立証資料作成費用とそれ以外の作成費用を区別すべきことを述べる。

  • -後悔理論を用いた検討-
    大倉 真人
    2023 年 85 巻 3 号 p. 155-171
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    本稿では,非期待効用理論の1つである後悔理論に基づいた経済モデル分析を展開することによって,地震保険加入にかかる検討を行う。なお,本稿における分析から得られる主たる結論は,以下の2つにまとめることができる。1つめは,後悔の観点を考慮した場合,考慮しなかった場合に比して,地震保険に加入する可能性が高まることである。ゆえに,「地震保険に入らないと後で後悔する」と広報するなどによって,後悔の存在を個人に認知させることが,地震保険の加入促進にとって有効な手法となる。2つめは,地震保険制度における上限付保率の引き上げが地震保険の加入促進に与える影響は一概に言えないことである。その中において,後悔の存在は,上限付保率の引き上げによる地震保険の加入促進を阻害する要因となる。

  • ~リスクと保険の経済学の系譜から~
    柳瀬 典由, 山﨑 尚志
    2023 年 85 巻 3 号 p. 173-210
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    リスクと保険の経済学は,リスクシェアリングとしての保険がリスクのパレート最適配分を達成するための効率的なツールであることを示す作業から始まり,最適保険契約・最適リスク予防に関する経済理論,非対称情報下の保険市場の均衡理論,保険業の産業組織的構造に関する研究といった領域で発展してきた。特に1980年代以降になると,ファイナンスの理論から強い影響を受ける形で,企業の保険需要に関する理論・実証研究が発展してきた。本稿では,このうち,ファイナンス理論を基礎とする保険研究,特に,コーポレートファイナンス理論から見た既存研究を体系的に整理する。その中心的な問いは,企業価値最大化の観点から企業の保険需要の動機を探ることにある。もちろん,保険はリスクマネジメント手法の一つとして位置づけられるので,リスク移転としてのデリバティブや,リスク保有としての企業の現金保有についても,考察の射程範囲とする。

  • 実験経済学の手法を用いたアプローチ
    藤井 陽一朗, 白川 竜太
    2023 年 85 巻 3 号 p. 211-229
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    規範的アプローチを用いた保険加入行動の分析では,確率分布と意思決定者の安定的な選好から最適な保険需要が導出されると仮定している。しかし,海外での洪水保険の加入行動についてみてみると,地域ごとに近隣住民の保険の加入状況にならって洪水保険に加入する家計が増減するという報告がなされている。このような行動は,意思決定者のリスクに対する選好だけでなく,他者と同調行動をとろうとしている可能性がある。そこで本研究では,実験経済学の手法を用いて保険の加入行動が同調行動をとりうるかを検証する。具体的には,まず確率分布が同一であるが文脈が異なるリスク下で,損失を補てんする保険への支払意思額から,被験者のリスク態度を推定する。次に,先行研究から得られた各リスクに対する保険への支払意思額の平均値を被験者に提示し,再度同じ設問に回答してもらいリスク態度を推定する。両者の差をみることで,同調行動の有無を検証する。結果として,文脈に応じてリスク態度が変わること,文脈に応じて同調行動が出やすいものとそうでないものがあることが明らかとなった。

  • 山下 徹哉
    2023 年 85 巻 3 号 p. 231-273
    発行日: 2023/11/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    本稿は,人傷一括払について判示した令和4年最判(最判令和4・3・24民集76巻3号350頁)に関して,理論的な検討を行うものである。令和4年最判(全額控除否定説)の判示内容と異なる全額控除肯定説に立つためには,人傷社が自賠責保険に対して精算請求する法的根拠が16条請求権の請求権代位であるという点を崩さなければならない。そのためには,アマウント範囲内の人傷一括払においても,自賠責支払額相当部分は人傷保険金として支払われたわけではないということを,①人傷保険の約款解釈として導くか,②人傷社と被害者との間で約款規定とは異なる処理をする旨の合意をしたと見ることにより導くかのいずれかのルートが考えられる。この2つのルートの是非について検討を行う。その結果,いずれのルートもうまくいかず,全額控除否定説を支持すべきことを示す。その上で,人傷一括払が今後たどる可能性のある方向性を4つ挙げて,それぞれ若干の検討を加える。

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