1.冬放牧(winter grazing)がササに与える影響を明らかにする目的で,長野県西筑摩郡王滝村の御岳第2牧場を調査した。この牧場は御岳の南面約1,600m(標高)にあり,ミズナラ,シラカンバ,カラマツ(天然生)を主林木とし,一部亜高山性樹種を含む放牧林地で,林床に密生ずるクマイザサ(Sasa senanensis)が冬季の主要な飼料源である。2.冬放牧は毎年約7カ月間(11〜5月)行なわれ,約50頭の黒毛和牛を中心として,1区約25haからなる第1〜第4牧区に輪換放牧される(表2)。調査は冬放牧4カ年を経た夏の1968年8月に行なった。調査地点の中には冬季重放牧,春先放牧それぞれ2カ年を経た地区も含まれている(表3)。調査方法は原則として第1報に準じ,草丈,密度,分岐状況,葉数,葉形,葉の分布,葉量比,現存量および生産構造について各牧区間の比較をするとともに,第1報の夏放牧(summer grazing)の場合と比較した。3.冬放牧の反復によって,ササは草丈の低下を来たすとともに,その不揃いの程度を増す。その程度はいずれも放牧の強さに比例する。すなわち,普通の冬放牧では草丈の低下は対照区(禁牧区)の約70%,重放牧では20〜30%に達する。一方,その変異係数は前者で約14〜16%,後者では30%前後である。春先の放牧はササの草丈に対して,普通の冬放牧よりも大きい影響を与える。密度は冬放牧区では対照区の60%前後にまで低下するが,放牧強度が増してもそれ以上には低下せず,かえって増加の傾向を示す。冬放牧によってササは分枝を増す。分枝はある放牧密度までは稈の中央部付近に多く生ずるが,さらに放牧密度が増すと,短くなった稈のほとんど全長にわたって分岐するに至る。4.冬放牧の影響は,ササの葉数増加に現われる。この形質は調査した諸形質のうちで,最も変異の幅が大きい。放牧の影響はまた,葉の大きさ,形にも現われる。対照区のササの葉面積(葉長×葉幅)についての頻度分布は,ほぼ210cm^2および150cm^2の2カ所にピークをもつ。これは生長しきった比較的老令の葉および生長途上の若令の葉の存在を示す。冬放牧によって,小さい方のピークはほぼ70cm^2に,大きい方は150cm^2の位置にまで低下する。これに対して,重放牧区でもやはり70cm^2の位置にピークを示すが,もはや大きい方のピークは見られなくなる(図1)。放牧によって葉が小形化すると同時に,葉形が細長くなる傾向を示す。1桿あたり葉数を草丈で割って求めた指数(葉のこみぐあい)は,現地での診断の指標になり得よう。5.対照区におけるササの葉の現存量は500g/m^2(乾)であり,葉量比はほぼ30%である。冬放牧4カ年後の現存量は対照区の50〜60%に低下し,葉量比は20%前後を示す。重放牧2カ年後では,現存量は対照区の30〜40%にまで低下するが,葉量比は逆に増大し,約35%に達する。この様相は,生産構造図(図3)の比較によって理解されるが,重放牧区におけるこの葉量比の増加は,ササの生存に対する危険信号と解釈される。6.以上に述べた各形質について,第1報の滝上牧場の場合と比較すると,冬放牧によってササが受ける損傷の程度は,夏放牧に比べるとはるかに少なく,今回の調査地では,かなりの重放牧とみられるd区のササの被害程度が,ほぼ滝上における夏放牧のそれに相当するものと考えられる。
抄録全体を表示