牛群の最も基本的な性質の1つである集合性を解析するため,日本短角種雌牛(N種)12頭,種雄牛1頭,黒毛和種去勢牛(B種)6頭,およびホルスタイン種去勢牛(H種)6頭の計25頭を,東北大学付属農場の野草放牧地(約90ha)に昼夜放牧し,6月から8月にかけて計20日間,放牧牛群の行動を調査した。放牧牛群は,1群で行動せず,いくつかのサブ・グループに分離した。そこで調査は,まず,観察されたサプ・グループごとに構成個体を調べ,すべてのサブ・グループの構成員を明らかにし,次に,採食形におけるサブグループについて,各個体の体軸の向きと相対的位置を10分間隔で図にとり,各個体のサブ・グループ内での位置と役割を見出すことを試みた。主な結果は次のとおりである。1.H種は,同品種だけでサブ・グループをつくる傾向が極めて強かった。B種でも,同品種で集まる傾向を示した。それに対し,N種では,B種を区別せずサブ・グループをつくる傾向がみられた。2.採食形におけるサブ・グループにおいて,各個体の位置と役割に,品種によって特徴的な行動が見出された。すなわち,N種は他の牛に追随する傾向(フォロアーシップ)が少ないし,H種は他の牛と全くかけはなれたような行動が少なく,B種は採食移動の先頭をきる傾向が少なかった。3.採食移動のなかで,集合性の強度の低い個体が先頭をきったり,他個体から離れて行動する傾向がみられた。4.種雄牛は,採食移動の方向性を支配していなかった。5.採食フォーメイションは,採食移動方向が一方向だけで,先頭をきる個体がいる,いわゆるpear-shaped grazing formationが全体の半数を占め,典型的なフォーメイションと考えられた。6.群れの分離をうながす要因である採食移動方向の多方向化を示す採食フォーメイションは,全体の33%を占め,採食移動中に常に群れの分離徴候が内包されていることが明らかとなった。
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