遺伝・環境条件が同じ時,子実が着粒しなくてもホールクロップの乾物及びエネルギー収量は着粒したものに対して有意差が認められない場合があるが,そのサイレージの成分,発酵品質,消化率や栄養価にも差が無いとすれば,飼料用トウモロコシの育種目標に関係する重要な現象である。そこで,これらの点について検討するため,黄熟期にサイレージ調製し,山羊を用いた全糞採取法による消化試験を行った。供試材料は,細胞質雄性不稔を利用した稔性回復の見られない単交雑種2系統(N28 CmsHt×A257とB37 CmsHt×Pa91)で,1987年に長野県塩尻において栽植密度556本/aで栽培した。不稔区は放任し,稔実区は人工受粉により着粒させたもので,収穫時のホールクロップの乾物中の子実含量は稔実区で平均44.6%,不稔区で平均7.1%である。不稔区のサイレージは稔実区に比べ,硝酸態窒素の含量で差が無く,乾物率,粗脂肪,デンプン,可溶性無窒素物(NFE),可溶無窒素・無繊維物(NCWFE),細胞内容物(OCC)の含量は相対値でそれぞれ75,61,51,87,72,77%に低下した。逆に粗蛋白質,粗繊維,細胞壁物質(OCW),NFE中の繊維は相対値で122,145,143,145%に増加した。不稔がサイレージの成分に及ぼす影響は,ステージの遅延と類似していた。発酵品質について,pH,有機酸組成,FLIEG評点,総窒素中の揮発性塩基態窒素の含量率を見ると,区間に明らかな差は認められなかった。不稔区の消化率は,乾物,有機物,粗脂肪,NFE,OCC,NCWFEで稔実区に比べ有意に低く,相対値でそれぞれ89,90,84,87,85,94%になった。逆に,粗蛋白質,粗繊維,OCW,NFE中の繊維ではそれぞれ106,105,110,118%と上昇した。この結果,不稔区の可消化有機物(DOM)とTDNは,稔実区に比べ有意に低下し,DCPでは高くなった。不稔区のDOM,TDN,DCPは相対値で89,87,128%となり,凍結・真空乾燥法を用いて評価しても同様の傾向になった。これらのことから計算すると,遺伝・環境条件が同じ場合,子実含有率の1%の低下により,ホールクロップの乾物中のDOM含量は平均0.179%,TDN含量は平均0.216%(いずれも凍結・真空乾燥法による)低下することとなる。子実含量の低下に伴ったホールクロップのTDNの減少が小幅だったのは,子実不稔に対して茎葉部の栄養価が高まる代替的な現象によるものと考えられる。
抄録全体を表示