トウモロコシを始めダイズ,エン麦など家畜飼料原料に利用されている穀実に存在するリン酸(P)の内50%以上がフィチン態リン酸(フィチン態P)である。フィチン態Pは,鶏,豚などの非反芻家畜では分解・吸収できないために大量のリン酸が糞尿として排泄されている。排泄されたフィチン態Pは,土壌の微生物によって容易に無機態Pに分解され,この無機態Pが雨水により流され,河川や湖のリン酸の汚染の原囚となっている。このような理由から最近,フィチン態P割合の低い飼料原料の開発が進められている。そこで,本報告では,フィチンの蓄積がP施肥などの環境条件によって変動を受けるのかを明らかにするために,リン酸施与条件を変えたポットでトウモロコシを栽培し,植物の生育や子実のリン酸,フィチン態P濃度などを測定した。植物の採取は播種後110日目の完熟期に行った。植物の生育量および子実重ともにP施与量の上昇にともなって増加したが,その増加量は子実で高かった。子実の全P濃度は,稈,葉,苞葉などを含んだ地上部全P濃度に比べて3.5倍高かった。子実の全P濃度およびフィチン態P濃度ともにP施与量の上昇にともなって増加した。吸収したPの子実への分配率は低P区で53%,高P区で65%であり,植物のPの吸収状態により,Pの子実への分配状況が異なった。さらに,子実全Pに対するフィチン態P濃度の割合は,低P区で38%,高P区で58%であった。一方,植物体Ca濃度は,P施与量の上昇にともなって増加したが,子実以外の植物体Ca濃度は子実Ca濃度に比べて40-50倍高かった。以上の結果,トウモロコシ子実のフィチンの蓄積は植物体のリン酸の状態により影響され,Pの吸収が悪い条件では子実以外の植物体器官の成長にPが利用されるのに対して,Pが大量に吸収できる条件では子実へのPの移行量が多く,フィチンの合成が促進されることが明らかなった。
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