実験1と2では,チモシーおよびオーチャードグラスから作製された牧草付着乳酸菌発酵液(FJLB)を供試して,発酵日数と希釈倍率による成分変動を調べた。実験3と4では,FJLBの添加がチモシーサイレージおよびオーチャードグラスサイレージの発酵品質に及ぼす影響を調べるために,希釈倍率を変えて作製したFJLBと異なる添加量のFJLBを供試した。FJLBは両草種ともに,発酵1日目ですでに乳酸や酢酸が生成され,pHは3.6まで低下した。酪酸は生成しないか,生成されても微量であった。乳酸菌の増殖は著しく,1日目に10^8cfu ml^<-1>以上に達した。FJLBは4日目を経過しても,安定的であったが,好気性細菌と酵母菌の増殖経過から判断すると,発酵2日目をめどに使用するのが望ましいと考えられた。FJLBの量を確保し,多量の添加に備えたいと考え,希釈倍率を変えてFJLBの作製を行った。両草種ともに,希釈倍率を高くしてもpHが低く,乳酸菌数の多いFJLBが作製された。FJLBは材料草に付着する微生物群のうち,乳酸菌種が材料草の糖や培養時に添加したグルコースを基質として,優勢に増殖したものであり,その発酵生産物として乳酸や酢酸を含んでいることが明らかとなった。サイレージ調製時に添加されたFJLB量から,新鮮物1g当たり9.8×10^5-1.5×10^7cfuの乳酸菌が添加されたことになる。無添加区のサイレージの発酵品質は,チモシーとオーチャードグラスともに劣質であった。FJLBを添加すると,サイレージの発酵品質が改善された。希釈倍率を高めたFJLB(FJLB×10)を添加しても,添加量を少なくしても(1mlkg-1),Vスコアーが高かった。すなわち,FJLBの希釈倍率や添加量にかかわらず改善効果が認められた。このような添加効果は,FJLB中の乳酸菌がサイレージ発酵過程で増殖し,多量の乳酸生成をもたらし,酪酸発酵が抑制されたことにより発現されたものと考えられた。
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