地理学評論 Series A
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82 巻, 6 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
論説
  • ──地域新生コンソーシアム研究開発事業を事例として──
    與倉 豊
    原稿種別: 論説
    2009 年 82 巻 6 号 p. 521-547
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,産(企業)・学(大学,高等専門学校)・公(公設試験研究機関など)の連携の事例として,経済産業省が実施する「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げ,共同研究開発ネットワークの構造とイノベーションに関する計量的な分析を行った.研究テーマの共有に基づく組織間ネットワーク構造の可視化と指標化を行った結果,次のような知見を得た.まず,地域ブロックごとにネットワーク構造が,共同研究開発先を多く有するコアが複数存在する「分散型」と,コアが限られている「集中型」とに分かれることを確認した.また,共同研究に参加する組織の中心性の高さが,事業化の達成と密接に関わることを明らかにした.さらに,共同研究開発の空間的拡がりの違いを,研究分野別・組織属性別に検討した結果,「ものづくり型」の研究分野ではローカルなアクターが指向されているのに対して,「サイエンス型」の研究分野では,より広域的なネットワークが形成されていること,大学や高等専門学校が遠距離との共同研究開発において中心的役割を担っていることが明らかとなった.
  • 宇根 義己
    原稿種別: 論説
    2009 年 82 巻 6 号 p. 548-570
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    タイで最も多くの日系自動車部品企業が立地するアマタナコン工業団地を取り上げ,企業集積のプロセスとリンケージの特性を明らかにした.まず,当団地の立地戦略において,バンコク都心部から通勤可能である上,政府機関の地域別税制恩典制度においてバンコク大都市圏よりも厚い恩典が享受できる点が企業に評価された.当団地には量産型車種を生産する自動車工場が立地していない.だが,1990年代以降の自動車工業地域の拡大に伴い,当団地がその中央部に位置するようになり,物流コストの低減を重視する部品企業の立地が促進した.さらにアジア通貨危機後は,団地内のエンジン工場の生産拡大に対応してエンジン部品企業が立地した.また,日本人・商社の関与による大規模開発が当団地に安心感と知名度をもたらし,農村地域からの労働力と日系企業を引きつけた.以上のプロセスにより当団地に企業集積が形成された.国内のリンケージは,複数の自動車企業や垂直的・水平的関係にある企業との間に形成されている.リンケージを空間的にみると,日系企業が集中する特定の工業団地間を中心としており,団地内リンケージは限定的である.
  • ――1950年代から1970年代の地理学の貢献を中心に──
    佐藤 仁
    原稿種別: 論説
    2009 年 82 巻 6 号 p. 571-587
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は戦前から戦後にかけての日本の資源論をレビューした上で,そこに通底する考え方を明らかにし,資源論の独自性を確認することである.資源論のサーベイは過去20年以上行われておらず,地理学においても資源論という分野名称は 1990年代にはほぼ消滅した.しかし,かつての資源論には,今なお評価すべき貢献が多く残っている.本稿では,特に資源論が盛んであった1950年代から1970年代にかけての議論,特に石井素介,石光 亨,黒岩俊郎,黒澤一清といった資源調査会と関わりの深かった論者の総論部分を中心に取り上げ,そこに共通する考え方や志向性を紡ぎだす.筆者が同定した共通項は,1)資源問題を社会問題として位置づける努力,2)現場の特殊性を重視する方法論,3)国家よりも人間を中心におき,国民に語りかける民衆重視の思想,である.経済開発と環境保護の調和がますます切実になっている今日,かつての資源論に体現された総合的な視点を新たな文脈の中で学び直すべきときが来ている.
短報
  • 寺床 幸雄
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 6 号 p. 588-603
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,中山間地域の限界集落における耕作放棄地の拡大とその要因について,各農家の農業経営における意思決定に注目し,背景となる社会変化を踏まえて明らかにした.さらに,中山間地域等直接支払制度の有効性についても検討した.農業経営と土地利用の変化に注目すると,対象地域の農業は二つの時期に区分できた.第1期の1980年代までは,生産調整や機械化にともない,耕地跡への植林が進行した.第2期の1990年代以降においては,主たる農業従事者の引退が発生し,それにともなって耕作放棄地が急速に拡大した.耕地の貸借が行われるようになったものの,耕作放棄を十分に抑制するまでには至っていない.中山間地域等直接支払制度は,農業の持続にある程度の役割を果たしていたが,指定基準の問題など,改善すべき課題も明らかとなった.
  • 小島 大輔
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 6 号 p. 604-617
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,日本人のカナダ旅行の発展に伴う日本人向け現地旅行業者の活動の展開に着目し,旅行目的地とその供給体系との関係について分析を行った.1970年代まで,日本人のカナダ旅行の供給体系はアメリカ旅行の供給体系のサブシステムだった.カナダでは主に現地の日系人が設立した旅行業者が媒介部門の役割を担い,日本人の旅行目的地においてカナダ西部と東部は,それぞれアメリカ西部と東部のそれに統合されていた.1980年代になると,東西両地域を含んだ旅行商品の大量供給や夏季以外の旅行商品の開発が行われた.また,日本人カナダ旅行者の急増に伴い,柔軟な催行体制を用いた日本系旅行業者の進出によって,アメリカ旅行の供給体系から独立したカナダ旅行の供給体系が構築された.1990年代後半の日本人カナダ旅行者数のピーク以降,日本から進出した日本系旅行業者は,季節変動に対し労働力の数量的・機能的柔軟さを高め,その存続を図っている.
  • 上杉 昌也
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 6 号 p. 618-629
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,現在の市街地の原型が形成された高度経済成長期の大阪東北部に注目し,セル・オートマトン(CA)を用いて市街地の面的拡大過程が適切に説明できるかを検証するとともに,その視点から当該地域の市街地拡大の特徴について考察した.CAシミュレーションによって,既成市街地を核とした拡大の過程や膨張した市街地どうしが連坦しさらに大きなかたまりになっていく過程から,局所的な相互作用の集積がマクロなスプロール現象を導いたことが確認された.一方でモデルの限界も見られ,東部丘陵地域および門真市南部などの飛地的な大規模集合住宅については現実に近いパターンを再現できなかった.以上のことから,現在の大阪東北部の市街地は,周囲の市街地とは連坦しない大規模集合住宅地に先導された市街地拡大過程と,既成市街地を基盤にして小規模な土地利用転換が累積した市街地拡大過程によって特徴付けられることが示された.
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