地理学評論 Series A
Online ISSN : 2185-1751
Print ISSN : 1883-4388
ISSN-L : 1883-4388
84 巻, 3 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論説
  • ——中国雲南省北西部のチベット族村落の事例——
    山口 哲由
    原稿種別: 論説
    2011 年 84 巻 3 号 p. 199-219
    発行日: 2011/05/01
    公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    近年,山地では環境保全に関心が集まっているが,本研究では,中国雲南省シャングリラ県の村落を対象に,山地の移動牧畜での家畜群の季節移動経路や日帰り放牧の範囲を把握することで,放牧地内部での負荷の分布状況を明らかにした.放牧負荷は,垂直的な環境変化に応じた季節移動により分散傾向にあり,過度の負荷が生じている部分はほとんどみられなかったが,一部の幹線道路沿いに負荷が集中する傾向もみられた.一方で県全体の放牧地に関する統計資料の分析からは,高山草原の希薄な放牧利用に対して標高が低い放牧地への負荷の偏りが推測された.山地の過放牧対策は,これら標高による負荷の偏りや移動牧畜での放牧地利用による負荷の偏りにも配慮する必要がある.その場合,生産様式の理解を目的とした垂直性の概念に基づく移動牧畜の分析だけではさまざまなスケールで生じる負荷の偏りを把握することは難しいため,水平的な家畜群の移動や分布状況も踏まえた負荷分布の把握が求められる.
総説
  • ——英語圏の研究を中心に——
    前田 洋介
    原稿種別: 総説
    2011 年 84 巻 3 号 p. 220-241
    発行日: 2011/05/01
    公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    本稿は,英語圏地理学で展開されてきたボランタリー・セクター(VS)研究の歩みと論点を整理することで,日本における研究の方向性を探ることを目的とする.1970年代後半から1980年代にかけ,Julian WolpertとJennifer Wolchを中心に,地理学でVSが本格的に研究されるようになった.先進資本主義国において,福祉国家の再編に伴い,VSが公共サービスの提供主体として期待されるようになる中,地理学は第1に,VSの空間的特徴を示してきた.また,Wolchにより「シャドー・ステート」が議論されてからは,公的資金を通じた政府とVSの関係性に最も焦点があてられ,その背景にある新自由主義の進展とともに批判的に検討されてきた.しかし,最近では,シャドー・ステート概念ではとらえられない両者のより複雑な関係性も示される中,新たな枠組が求められているといえる.その中で,近年のボランティア等の担い手をめぐる研究は,地理学のVS研究を前進させる一つの鍵になると思われる.
短報
  • 植村 円香
    原稿種別: 短報
    2011 年 84 巻 3 号 p. 242-257
    発行日: 2011/05/01
    公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    本稿では,生産者の高齢化が進んでいる東京都利島村のツバキ実生産を事例に,世代による経営形態の違いと,高齢者の生計維持における意義を検討した.ツバキ実生産は,粗放的で長期収穫が可能なので,高齢者でも生産しやすく,年間100万円程度の販売収入を得ることができる.しかし,若年者にとっては,ツバキ実生産のみで生計を維持することは難しく,ツバキ実生産への参入はみられない.このように経営形態が,世代によって異なることに注目し,農業者をコーホートに分けて比較分析を行った.その結果,ツバキ実生産は,高齢者によって長期的に維持されていること,高齢者の中でも上の世代ほど経営規模が大きく,より多くの収入を得て,安定した生計維持ができていることが判明した.しかし,世代間での農業資源の偏在を前提にすると,利島におけるツバキ実生産の維持には,世代間でどのようにツバキ林を受け継ぎ,ツバキ実の生産を調整していくかが課題となる.
  • 佐藤 善輝, 藤原 治, 小野 映介, 海津 正倫
    原稿種別: 短報
    2011 年 84 巻 3 号 p. 258-273
    発行日: 2011/05/01
    公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    浜名湖沿岸の六間川低地および都田川低地で掘削調査と既存ボーリングデータの収集を行い,沖積層の層相・貝化石・珪藻化石分析・電気伝導度測定の結果や14C年代測定値に基づいて,完新世中期から後期にかけての堆積環境の変遷を明らかにした.その結果,両低地に共通した環境変化が認められた.すなわち,6,000~7,000 calBP以降は低地の発達に伴って海水の影響が減少する傾向が見られるが,3,500~3,800 calBP頃に汽水~海水環境の再形成や内湾での水位上昇が認められた.このことは,一時的に浜名湖内へ海水が流入しやすくなったことを示す.その後,3,400~3,500 calBP頃に淡水池沼へと急速に変化した.この時期には浜名湖の湖心部でも急速な淡水化が知られており,浜名湖全体で淡水化が進んだことが示唆される.この環境変化は,浜名湖の湖口部を塞ぐように砂州が形成されたために引き起こされた可能性が高い.
  • 中窪 啓介
    原稿種別: 短報
    2011 年 84 巻 3 号 p. 274-289
    発行日: 2011/05/01
    公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    沖縄農業では産地の水平的組織化による農産物の安定供給の体制は十分に機能していない.本研究は農協共販における商品のロットの確保と安定供給という視点から,農協の販売体制の構築と農協合併による変容,農家の流通選択に注目し,豊見城市のマンゴー産地の供給体制を明らかにした.市ではマンゴー導入当初から農家と農協との密な関係が築かれ,農協は高い集荷率を背景に共選共販の実施や市場外の販路開拓など生産者価格の向上と安定に向けた販売体制を構築していった.だが農協合併後の販売事業の変容により農協共販離れが顕在化し安定供給の体制は揺らいだ.農協外出荷では高品質のマンゴーが高価格で取引されており,特に篤農家には農協外出荷への強い誘因が働いていた.農協は集荷率維持のため農家を囲い込む共選参加の条件を課した.産地の課題としては,より有利な条件を引き出すためにさらに市場外での販路開拓を進めること,脆弱な営農指導の充実を図ることが鍵といえる.
書評
記事
feedback
Top