国指定天然記念物である沖縄県の塩川は,水源で塩水が湧き出す特異な河川である.本研究では,その湧出機構を解明するための一助として,湧出量と水質の短期変動に焦点を当てた集中観測を行うとともに,降水・地下水・海水の混合と密度流を考慮した数理モデルを構築した.モデルによる湧出量および溶存イオン濃度の計算値は観測値とよく一致し,特に湧出量の日内変動に関しては潮汐の影響を加味することで良好に再現できた.以上の結果は,ドリーネのような直接浸透域に与えられた降水,石灰岩の亀裂などに存在する地下水,および海水とが地下洞穴内で混合して汽水を形成し,それと海水との密度差および湧水点と地下水面の高度差を駆動力として塩水が湧出するメカニズムを定量的に証明するものである.しかし,地下洞穴の大きさ・形状や水質の経年変化については不確定な部分もあり,今後長期間の観測データを用いてモデルの信頼性を向上させる必要がある.
能登半島南西岸地域の隆起の原因を明らかにするため,沿岸の変動地形調査を実施した.本地域の海成段丘面は,高位のものからH1面~H4面,M1面・M2面,A面に区分できる.また,岩石海岸には離水ベンチが認められる.M1面はMIS 5eに形成された海成段丘面である.それより古いH1面~H4面には赤色風化殻が認められる.A面は,11世紀以前に離水した完新世段丘面(ベンチ)であると考えられる.これらの段丘面の高度には,累積的な南への傾動が認められる.調査地域北部では,富来川南岸断層が海成段丘面を変位させており,MIS 5e以降の累積鉛直変位量は約30 mである.その活動性はMIS 5e以降に高まったと考えられる.複数のベンチは間欠的な隆起を意味しており,調査地域の隆起運動は,南東~東傾斜の逆断層運動によってもたらされたと考えられる.このため,富来川南岸断層は沿岸から3~4 km沖合にある海底活断層に連続する可能性がある.
本稿では,韓国密陽市山内面におけるリンゴ直売所の形成要因を明らかにし,直売所の存在意義を考察する.山内面は,慶尚南道の有名な観光地であるオルムゴルに隣接し,韓国内では後発のリンゴ産地である.1973年に栽培が始まり,新しい販売方法として個々の零細なリンゴ農家による直売が急速に成長した.当初はリンゴ農家の自宅で直売をしていたが,1980年代後半から国道24号線沿いに直売所を開設し,オルムゴルリンゴという名称で販売するようになった.リンゴ直売所での対面接触を通じて農家と訪問客との人間関係が形成され,特に常連客になると農家との「人情的な結びつき」による信頼関係が形成された.この信頼関係は,常連客を媒介とした新規客の増加をもたらした.このように,リンゴ直売所の存在が,リンゴ産地としての競争力強化に重要な役割を果たしていることが明らかになった.
本稿では,簡便かつ多面的に商業環境の評価を行う新たな手法の提案を行う.具体的には,1)総充足度,2)安定度,3)重要度,の三つの指標を用いて,地域における商業環境を複数の観点から評価する方法を提案する.仮想的な地域と実地域へ手法を適用し,各指標の性質を検討した結果,以下の知見が得られた.1)いずれの指標も,地域の店舗の立地・規模の差異を考慮した評価が可能である,2)総充足度は地区の店舗の充足性を評価し,店舗数の増加に対して指標値の増分には一定の逓減性がみられる,3)安定度は各地区の総充足度が少数の店舗に依存するか否かを判断する指標で,充足度と併用すると,地区の総充足度の特定の店舗への依存性を評価できる,4)重要度は各地区の総充足度の向上に大きく貢献する店舗が高く評価される指標で,充足度,安定度との併用により,地域の総充足度の向上に最も寄与している店舗の閉店が及ぼす影響を視覚化できる.
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