本稿では,カゴメ(株)を事例に,大企業が広域的な農業参入をどのように進め,それが地域にいかなる影響を与えるのかを,地理学的な視点から検討した.カゴメは1990年代の早い時期から生鮮トマト栽培に参入し,リスク分散や周年生産を重視しながら多元的・広域的に生産拠点の形成を進めてきた.特にカゴメは,西日本の中山間地域に多くの直営農場を設立したが,これらは過疎に悩む自治体からの誘致によるものである.実際,高知県三原村では,村が多額の予算を投じてカゴメの農場建設を支援していた.カゴメの進出によって,三原村では農業生産額が大きく伸び,若年層が従業員として周年雇用されるなどの効果が認められる.しかし三原村の事例からは,農場立地に伴う地域農業への波及効果は乏しく,また農場の従業員は大半が村外から雇用されるなど,カゴメ誘致の効果が必ずしも自治体や地域農業に還元されていないという問題点も明らかになった.
本研究は,東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容を,経営者のエスニック戦略の分析から明らかにした.大久保地区では,韓国人ニューカマーの増加に伴い韓国系ビジネスが集積し始め,その後一般市場へ進出していった.その背景には,韓流ブームによって開かれたホスト社会の機会構造の下,経営者が用いたエスニック戦略の役割があった.韓国系ビジネスでは,ホスト社会の需要を事前に把握した経営者が,豊富な人的資源を用いて韓国飲食店のほか,韓流グッズ店や韓国コスメ店など韓国文化の商品化を通じた娯楽性の高い新業種を展開する多角経営を行うと同時に,日本人顧客の確保に重点を置いた立地戦略をとっていた.その結果,大久保地区の韓国系ビジネスは,従来の同胞顧客に向けた財やサービスの提供機能に加え,広域なホスト社会の日本人顧客に向けてエスニック財やサービスを提供する娯楽機能を有するようになったといえる.
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