地理学評論 Series A
Online ISSN : 2185-1751
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ISSN-L : 1883-4388
93 巻, 4 号
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総説
  • 松岡 由佳
    2020 年 93 巻 4 号 p. 249-275
    発行日: 2020/07/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    英語圏の人文地理学では,1970年代からメンタルヘルスが研究テーマの一つとなってきた.本稿は,そうした研究の展開に注目し,研究の背景や論点,アプローチを整理するものである.戦後の欧米諸国における脱施設化に関心を寄せた地理学者たちは,近隣環境や公共サービス,福祉国家の再編の視点から,メンタルヘルスについての研究をスタートさせた.1990年代には,史資料や当事者の語りに依拠して,狂気の歴史や精神障がい者の「生きられた地理」を明らかにする研究が台頭した.それらの研究における精神障がい者のアイデンティティへの関心は,2000年前後になると,精神障がいというカテゴリーの内にある微細な差異を,感情や癒しの側面から検討する研究へと発展した.研究者の関心のシフトや,学際的な志向の強まりがみられる近年は,ジェンダーやエスニシティをはじめとする多様な差異との関連においてメンタルヘルスをとらえるアプローチが盛んとなりつつある.

短報
  • 加藤 秋人
    2020 年 93 巻 4 号 p. 276-296
    発行日: 2020/07/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    国内工業においては研究開発機能への資源集中が進み,それに応じて中小企業も試作・開発機能強化が進む.いくつかの集積地域では中小企業のネットワーク化による企業間連携の深化を通じ,試作・開発機能の強化を試みている.本稿は京都と四日市の2地域を事例に,中小企業ネットワーク参加企業を分析し,集積地域の質的変容,すなわち当該ネットワークが参加企業間の連携強化をいかにもたらしたか,比較により明らかにすることを目的とした.その結果,京都地域では100社以上が階層的な組織を構築し,各企業が緩やかにつながりさまざまな需要に対応していた.一方,四日市地域では参加16社が厚い信頼関係を構築して共同開発を行い,集積の深化につなげていた.その背景には,多様な受発注先が厚く集積する京都地域と,同地域に比べて集積の厚みに欠ける四日市地域という,両地域の特性が影響しており,それに応じた企業間連携と,試作・開発の取組みが行われていた.

  • 池田 千恵子
    2020 年 93 巻 4 号 p. 297-313
    発行日: 2020/07/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    本稿は,京都市で町家ゲストハウスが急速に増加したことを受け,その町家ゲストハウスの現状および地域に及ぼす影響について明らかにすることを目的とするものである.京都市内でも町家ゲストハウスの増加が顕著にみられる東山区六原を研究対象地域とし,統計データや聞取り調査などを基に,これまでその有効性が多く指摘されてきた町家再利用という現象の社会的インパクトについて,地域的視点からより具体的に検証した.その結果,細街路を有する住宅密集地域内に多く立地するという特徴,またそのために地域社会内では騒音やゴミ等の問題が発生していること,これらの問題に対し地域住民による積極的な働きかけが一定の成果を上げていること,さらに同地区内での地価高騰を誘発している状況が明らかにされた.そして,こうした地域社会への影響に,ツーリズムジェントリフィケーションの一端が見いだされることを指摘した.

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