本報に於ては長崎縣島原半島に位置する雲仙嶽の植物景觀の概要を記した。先づ從來の關係文獻を概観し,地質地形氣候を概記し,植物景觀の記述に及ぼしたが,それを要約すると,
1. 島原半島の植物帶は下部は暖帶林であるが,海抜約700-900米以上には温帶林の發達がある。
2. 雲仙嶽の植物景観はこれを便宜上喬木林,灌木林,草原,岩石地,地獄地帶,造林地及地の6類とした。
3. 喬木林の内カシ,シヒ,クス,タブ等を主とする常緑濶葉樹林の發達は概して不良であるけれども,高地に於ける温帶性の落葉濶葉樹林は普賢岳を中心として,可成美事であり秋季紅葉の美觀を現出する。その樹林では喬木種に伍して灌木種が同列に發育するのが見られ,ブナが少なく,又ミヅナラ,ツクシシヤクナゲを缺くこと等著しい特色がある。又モミは局部的にしか見られず,ツガは極めて少ないが,針葉樹中最も優勢なのはアカマツである。
4. 灌木林は高所に發達しミヤマキリシマ及びイヌツゲの群落が著しいが山頂部には往々落葉濶葉樹の混淆群落が見られる。
5. 中生草原は人爲的に形成されたもので處々に現出しスヽキ,トダシバ群叢が見られる。濕原では原生沼の高層沼野が著しく,ミヅゴケ床のカキツバタの群生は珍らしい。
6. 岩石地の植物群落では歴史時代に流出した古焼及び新焼の二熔岩の植物群落が著しい。又地獄地帶の裸出景觀は異彩である。
7. 火山活動の新奮による植物景觀の差は少なくとも,普賢岳を中心とせる一帶と,その他の部分とでは可成な差があり,前者を幼成型とし,後者を老成型とした。幼成型の植物景觀中,古焼と新焼とでは流出年代が135年を距てゝ居るのに應ずる差異がある。
8. 寛政4年に眉山の東側に起つた大山崩れ跡は今に至るも斷えず崩壊して,既存の植物群落を破壌埋没し,そこに新らしい遷移相が繰り返えされて居る(1938年9月20日稿)。
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