本研究は,トゥールーズ・カルカソンヌ廊下地帯に位置するヴィルヌーヴェルVillenouvelle村を,フィールドワークの対象にとり,南西フランスにおける農村集落の構造を,明らかにしようとしたものである.
1) フランス南西部,とくにガスコーニュ地方にあつては,テルフォールと呼ばれるモラッセの丘陵と,ガロンヌ河本支流の段丘および氾濫原とが,集落の上でも,土地利用の上でも,対照的である.しかも,ガスコーニュの特色ある地形とミディ的な夏季乾燥冬季湿潤気候とが,田園景観の上に充分反映されている.もつとも広い面積を占めるテルフォールにおいては,一般に畑の耕作は,小麦・とうもろこしの輪作に一時的牧草地を挿入するタイプで,集落は散居型をとるが,西部のごとく囲われてはいない.これに対し,段丘では集居が多く,また牧草地に宛てられる氾濫原では,新しい散居農家が点在している.
2) ヴィルヌーヴェル村の歴史を辿ると,テルフォール中の谷に定着したアモーが始まりらしく,その後15世紀末から16世紀初頭にかけてのころ,地中海域と大西洋域とを結ぶ歴史的交通路が通じていたため,丘陵麓の段丘上に,計画的なプランをもつ市場町が建設された.しかし,その後これは隣町との競合に打ち克ちえず,充分な発展を成し遂げえないままに,再び丘陵地の開拓へと向つた.つまり,場所を異にした小村→市場町→散居農場の継時的出現が,今日のごとく,散居とそれらの中心的機能を持つヴィラージュVillageとから成る農村集落の二重的構造を,もたらしたものである.
3) 散居農場の住民は,自作農・小作農・分益小作農・農業労働者など,いろいろな階層の農民に限られるのに対し,行政上は同じコミューンに属する集居部のヴィラージュには,数種の商人・職人が居住し,それはまた散居部に対して宗教的・政治的・教育的・交通通信的中心ともなつている.そのうえ若干の地主がここにおり,彼らは土地所有を通じて,分散する農場を把握している.
4) このような集落の構造は,個々の農家の経営地の分布形態を規定し,一部は耕地の形状にも関係をもつてくる.ブロック型耕地と矩冊型耕地との相違は,農法よりも居住様式のちがいに由来すると考えた方が,この揚合は穏当であろう.
5) 近年において,散居部は一般に停滞的であるのに対し,集居部には発展の兆しがみうけられる.人口も後者は漸増の傾向にある.それは,この村が,一次的には隣町のヴィルフランシュとバジェージュとに従属し,二次的にはトゥールーズの発展に伴い,その郊村化しつつある現象と関連を持つている.アーバニゼーションの進行に伴う都市網réseau urbainの形成が,この地方においても,農村集落の構造を複雑化しつつある次第である.
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