(1) 野生大形哺乳類ばかりでなく,一般に動物の分布・増減および地区内の棲息許容量などを定める地域的な主因の検討は,その地域がもつ諸条件を明らかにし,また,これを地域の1要素とみなした場合,その人類活動に及ぼす作用を知る上で,地理学上有効な研究と考えられる.しかし,これまで動物学者が行なってきたいわゆる生物地理学的研究は,そのような目的を意図していなかったように思われる.
(2) 人類の干渉がほとんど及ばない状態での,猪および鹿の,ある地域内での単位棲息許容量を求める目的で,第2次大戦直後まで禁猟であった伊勢神宮宮域林の野獣害防除成績を検討し,その概数として猪は2.5頭/km
2, 鹿は4.5頭/km
2を得た.
(3) 人類の活動以外に,日本列島における猪および鹿の広域分布を定める自然的主要因として,(+) 因子としての常緑広葉灌木林の分布,(-) 因子として,最深積雪(より詳しくは,猪および鹿の行動困難な積雪の頻度)があることを明らかにした.
(4) 今後の問題として,野獣の季節的移動その他に多くの課題があることを指摘した.
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