濁水渓(台湾),チャオ,ピヤ(タイ),イラワジ(ビルマ),ガンジス(インドおよび東パキスタン)の各平野には地形および洪水上に著しい地域差がある。 (1) 濁水渓には半径13kmに達する大きな扇状地が発達するが自然堤防やデルタは小さい.これに対し,チャオ・ピヤやイラワジ平野には扇状地はほとんどみられないが,自然堤防やデルタは大きい. (2) チャオ・ピヤ,イラワジおよびガンジス平野の土じょうは大部分粘土であるが,濁水渓平野は砂質である. (3) チャオ・ピヤ,イラワジおよびガンジスの平野は自然堤防と後背湿地地域,高位デルタ地域,低位デルタ地域の三つの地域に分けることができる.雨季と乾季の水位の変化は,自然堤防,後背湿地地域が最大である.高位デルタ地域は洪水はおだやかである.低位デルタ地域では海からの洪水(高潮,洪水など)が卓越する。 (4) 自然堤防地域はたん水期間も短かく,たん水深も浅い.しかし,後背湿地ではたん水期間も長く,たん水深も深い.とくに,チャオ,ピヤ,イラワジおよびガンジス平野の後背湿地ではたん水期間は,数ヶ月に達する.後背湿地でのたん水深は自然堤防の比高に応じて深くなる.したがって,平野の上流側に位置している後背湿地の方が,平野の下流側に位置しているものよりたん水深は深くなる.もっとも深い所はチャオ・ピヤ平野にみられ,そこでは4.5mに達する.これらの地域では浮稲がつくられている. (5) 濁水渓デルタを除き,デルタの勾配はきわめて緩やかである.たとえば,チャオ,ピヤデルタの勾配は0.02/1000にすぎない。 (6) ガンジスとイラワジの下位デルタは,マングローブなどの大森林におおわれている,濁水渓の下位デルタは干拓地となっている.デルタの海側への前進速度は,濁水渓デルタがもっとも速い. (7) 濁水渓をのぞき他の河川では,洪水が上流から下流まで下ってくるのに1~3ヵ月を要する。平野における降雨量は,稲作には不充分なものである..したがって,この上流から下ってくる洪水は稲作にとって極めて大切なものである. (8) 濁水渓では洪水は住民にとって危険なものである.これに反して,他の河川流域では洪水は住民にとって天恵のかんがい用水なのである. (9) 濁水渓デルタの海岸は時々台風によってひきおこされる高潮におそわれる.しかし,地盤高が高いからそれほど被害は大きくない,チャオ・ピヤデルタの海岸は高潮におそわれることはない。ガンジスおよびイラワジデルタの海岸は時々サイクロンによる高潮におそわれる。
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