奈良盆地における部落の用水源構成を検討した.この場合部落の全領域が,いかなる用水源によって灌漑されているかであって,領域観念の強い盆地では,部落と全く一体的なものと考えられている.
今回は部落的側面からみた奈良盆地の灌漑構造の研究である.この結果用水源構成は,単一的用水源部落と,重層的用水源部落に大別される,前者は部落総数中42%,後者は58%である.前者の用水源は,溜池が最も多く,これについで河川や地下水などである.重層的用水源部落では溜池,河川,地下水などの組合せによっており,地域や部落によって異る.これらの分布は盆地北部は主に単一用水源部落が多く,南部には重層的なものが多い.小河川や小規模溜池の多い南部地域では,部落の用水構成も非常に複雑なものが多い.こうした複雑な用水源の構成は,長い歴史を通しての特性であるが,明治中期以後綿作地の水田化に伴い,各種用水源の構築や開発が行われたことが,一層部落の用水構成を複雑化し,これに伴って用水管理も一層強化された.用水管理はほとんど部落行政と一体的に行われ,管理形態においてやや近代性を欠いている所に,奈良盆地の部落性があらわれている.多数の用水源に依存することは,隣接部落との水利交渉も多く,水利権の強弱に基づく部落階層を,形成している場合が多い.戦争前後より深井戸の掘さく,大規模溜池の構築が行われた.この結果一部の部落では,用水源の単一化がみられたが,大部分の部落では構成にあまり大きい変化はなかった.最近は政治的社会的要因も加わって用水がやや豊富になり,稲作が一段と安定化した.
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