高冷開拓地には耕境地帯に位置する農業地帯として固有の地域性がある.日本農業の中に位置づけられるその社会経済的意義は必ずしも特筆しうる程大きくはない.しかしその存在自体はすぐれて地理的な課題を内包している.
本論は高冷開拓地における自然的および社会的条件の総和としての地域性を究め,その現代的意義を明らかにせんとするものである.またそれと同時に同一の立地条件が時の流れの中で,いかにその役割をかえていくかという点を併せ留意した.本論と直接の関連をもたぬ開拓地一般について,その現況を述べたのは高冷開拓地を位置づけるための素材整理という意味からである.高冷地,適正規模,営農類型等の一般概念についても,また本論にかかわりあいをもつ限りにおいてふれておいた.
立論の裏づけとしてとりあげた地域は,東山地方を中心とする典型的な高冷地帯であり,具体例としてあげた8つの事例は,すべてこれを火山麓に限定した.
わが国の高冷開拓地は関東西北部から中部山岳地帯にかけて集中し,その恵まれざる自然的,社会的条件は,経営規模の広さによって補われる.しかし既存集落に距たること遠い分離型開拓地では,特に社会経済的条件の制約を蒙ること大である.高冷開拓地において,商品生産に基礎を置く営農形態は酪農,疏菜およびこれら両者の混合タイプである.収益は低いが価格の安定した酪農型(富士,那須大谷)には,経営面積の制約があり,その集約性の故に収益の高い疏菜型(鶏頂山,戦場ヶ原)には,労働力不足,価格の不安定,地力の減退等の問題があり,これら両形態の矛盾の中に,広く混合型(仙之入,野辺山,富士豊茂,大日向)が成立する基盤がある.酪農型ならびに酪農型を指向する混合型の発展は,経営規模の拡大を前提とし,その具体策としては未利用地の耕地化,反収の増大等各地域内での充実策のほか,国有林,公有林の解放を通じての外延的拡大等の諸施策が講ぜられている.
抄録全体を表示