わが国の工業用水源のうち,回収水を除くと,地下水の占める割合は42% (1962年)と最も高い.とりわけ静岡県岳南地域は,工業用水源の80% (1965年)を地下水に依存しており,地下水の工業的な利用に関してわが国で最も典型的な地域である.本論では,岳南地域における地下水の工業的な利用の実態を具体的に考察し,その特徴を把握することに努めた.
考察の結果から,岳南地域における地下水利用の進展過程は,工業用井戸の増加とそれに伴う水利形態の変化とから,3期に分けられることが明らかになった.各段階の時期と特徴は次のようである.第1期は1949年以前で,地下水の自由な揚水可能期であり,第2期は1950~1960年で地下水が局地的に澗渇した期間であるが,なお自由な揚水可能期で,第3期は1961年以降で,地下水利用の混乱期である.
ことに第3期の具体的な特徴は,地下水資源の全域にわたる澗渇,廃止井戸の発生,構外井戸の新設という一連の現象と,この現象を媒介として生じた地下水コストの上昇とである.地下水資源が澗渇したことに直接起因しているこの悪循環は,開発の可能性が限界に達していることを意味している.
岳南地域にこのような現象をもたらした原因は,地下水には水利権が認められていないことと,しかもその豊富な賦存量とを条件として,用水型工業であるパルプ紙製造工業が無原則的に地下水資源に指向して集中したためである.
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