吉野川下流域の中央構造線に沿う地帯の断層変位地形と地質を記載し,中央構造線の第四紀後半における断層運動様式・変位速度を中心に述べ,現段階での資料をもとに一応の総括を試みた.その結果,中央構造線は平行ないし雁行状に配列するいくつかの断層群よりなり(中央構造線断層系と提唱),少くとも第四紀後半においては右ずれ運動が卓越している.それに属する断層が段丘面を切断する3ケ所で,地形面・地形線を指標として変位量を求め,C
14法による年代の測定結果の考察から断層運動の平均変位速度を推定した.それによれば,中央構造線は6~gm/10
3年(少し広く見積って5~10m/10
3年)のオーダーで変位していることになる.断層を挾む河谷の屈曲現象は最大1.5~2kmに達し,この量はほぼ第四紀後半における右ずれの断層変位量を反映していると思われる.上述の平均変位速度は河谷の屈曲の累進的増加現象へも適用され,少くとも第四紀中期末頃以来,ほぼ同じ値で行われてきたものであろう.中央構造線が右ずれ運動をしていることは,地形的特徴のみならず,断層破砕帯に残されている諸現象や中国・四国東部地方の共役関係にある他の活断層の変位方向などからも支持される.中央構造線に沿って有史時代に大地震やそれに伴う断層変位が記録されていないらしいこと,また,クリープ性の断層変位の存在も確認されていないことは,上述の変位速度からみると,中央構造線が活動の予期される不気味な存在であると考える.
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