都市圏の全体的開発を達成しようとする場合,歴史的遺産として規定されている農業用水の存在を無視することはできない.今日,都市化による新しい水利用が農業水利と交渉して,根づよい反発におどろかされるのは,それが単に技術的調整の問題にとどまるものでなく,複雑な社会・経済的性質をおびるからである.本報告は,このような観点から,研究対象地域を広島市郊外の太田川水系八木用水(祇園町以外二ケ町土地改良区)と江の川水系下土師ダム下流農業用水(八千代町・吉田町)の受益地域をとり,農業用水が都市化の影響によって,どのようにきわだった特色をもって変化しているかを研究したものである.現地調査のうえ考察した結果,次のようなことがわかった.
都市化の進行が著しい地域にある八木用水の農業用水機能をみると,まず農業用水以外の水利用との接触,交渉にはじまり,用水路ヘ工作物の使用・農地転用などによってその解体化が漸次的に進行している.このように農業用水が徐々にしか消滅しない理由は,小農生産のもとでの「分散耕地」農家の兼業化,地価騰貴による「荒し作り」により市街地の間に小面積の耕地が虫喰い状態で残存するからである.水田の農外転用は,農業用水に直接の影響を与える.水田の縮小は反別水利費の減収につながり,住宅化・工場化により用水の汚濁が顕著になり,用水の管理や機能に支障をきたしている.農業用水路はやがて市街地排水路の様相を呈するにいたるであろう.この農業用水の下水化は,両者の水路断面の施設構造がちがうので,下流で排水不良をまねている.これは都市計画の点から検討すべき重要な問題であるという知見をえた.
都市化の縁辺地域にある下土師ダム下流の農業用水では,新しい水配分が要求されている.広島市の都市化が進展し,太田川に水量的な余裕がなくなると,水需要の増大に応ずるものは江の川(=流域変更導水)以外にない.この下流農業用水には,慣行水利権があり,現在では非能率的なかんがい形態が残存し,より高度な農業の再生産構造をつくろうとする場合,いまや障害となっている点も少なくないことがわかった.従ってこ農業用水の受益地域において,「農業基盤整備」,と「農業用水・都市用水の一体化」を実施するという2つの基本的条件を前提として,新しい水配分秩序の方向にむかって,広域的水利調整が行なわれるように留意することが必要である.
以上の2つの実態調査をふまえて,都市化地域の水資源の再配分の必要と手法を展開する.
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