物資の流動パターンは地域の社会・経済活動に関係しており,地域の特徴が誘因となって物資の流動が生じ,また逆に,その流動が原因となって地域の特徴をさらに変化させる.しかし,物資の流動パターンはどのような社会・経済的特性と関連しているかについては十分に明らかになっているとはいい難い.
本論では,アメリカ合衆国の主要な大都市地域間の物資流動パターンとそれらの地域の社会・経済構造の関係を明らかにするため, 43の社会・経済的変数と25の大都市地域間の物資流動(OD行列)にそれぞれ因子分析を適用して, 8つの社会・経済的因子, 6つの消費地域(着地域群), 7つの生産地域(発地域群)を抽出し,これらの社会・経済的因子と消費地域・生産地域との関係を正準相関分析によって考察した.
8つの社会・経済的因子と6つの消費地域との関係の中では,統計的に3つの関係が有意であった.それらの関係はそれぞれ次のことを示唆している.すなわち,(1)アメリカ合衆国北東部メガロポリス南部への物資の供給は,人口密度・都市成長率の高い大都市地域から行なわれている.しかし,これらの供給地は消費地域自体かあるいはその周辺の大都市地域である.(2)太平洋岸の消費地域への物資の供給は,この消費地域内部で相互に行なわれており,さらに,この消費地域は失業率が比較的高いのが特徴である.(3)アメリカ合衆国北東部メガロポリス北部への物資の供給は,低所得・家族規模の小さい大都市地域から行なわれている.これは石油を供給するヒューストン地域の影響が大きい.
8つの社会・経済的因子と7つの生産地域との関係の中では,統計的に5つの関係が有意であった.それらの関係はそれぞれ次のことを示唆している・すなわち,(1)太平洋岸生産地域からの物資は失業率の比較的低い大都市地域(アメリカ合衆国北東部)に向かう.(2)アメリカ合衆国北東部生産地域からの物資は規模の大きな大都市地域(アメリカ合衆国北東部)に向かう.(3)五大湖南部生産地域からの物資は黒人人口率が高く,その上サービス業の比較的少ない大都市地域に向かう.(4)アメリカ合衆国北東部メガロポリス南部の生産地域からの物資は居住密度の高い大都市地域に向かう.(5)サンフランシスコ・ロスアンジェルスからの物資はサービス業の多い大都市地域に向かう.
以上のことから,消費地域・生産地域はともに近接した大都市地域から形成される傾向にあるが,ある地域の社会・経済的特性の違いによって,物資の流動パターンが形成されることもあるといえる.
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