和泉山脈南麓域の地形・地質調査を行ない,中央構造線沿いの断層変位地形を検証した.さらに,それらを作りだした主として第四紀以降における断層運動の諸性格について考察した.中央構造線にほぼ平行ないし一部で雁行状に配列する活断層系があり,それは少なくとも第四紀後期において右ずれ運動が卓越している.また,それは内帯(北側)の和泉山脈側が概して隆起する垂直変位成分(右ずれ成分の約1/10)を有している.とくに,根来断層と五条谷断層が延長距離の長い活断層であるが,前者は各種の段丘面を切断し,後者は山麓南斜面を縦断して大小の右ずれ変位河谷を形成している.
根来断層の右ずれ変位速度は,断層の変位基準である段丘面や段丘崖・河谷や尾根筋の食い違い量とそれらの形成年代の想定から, 0.9~3.1m/10
3年,北側の相対的隆起速度は0.11~0.40m/10
3年と推算された.根来断層と五条谷断層について,活断層より上流の河谷長と河谷の屈曲量との関係式を求めると,両者の間には正の相関がある.これは右ずれの断層変位が累進的に継続していること,さらにA級の活断層の範疇に入ることを示唆するが,四国の中央構造線で求められた値より小さい.このことは中央構造線活断層系の東端部であり,東方に変位量が減少していくこと,同時に内帯側の他の多くの活断層にひずみが分散していることなどによるものであろう.
いわゆる菖蒲谷時階の変動として知られてきた北からの逆断層は,第四紀前期における活動であり,これは紀ノ川断層角盆地の発生をうながしたが,第四紀後期にはほとんど変位を停止している.この断層の北側にほぼ並走して高角度の活断層系があり,右ずれの卓越した運動が第四紀後期の少なくとも50万年前以降に認められる.このように,断層の位置と変位様式に大きな変化が第四紀中頃に生じたことが判明した.
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