本研究は,工業の発達を基軸とするわが国の経済発展の中で,エネルギーの転換によって崩壊した石炭産業に代わって,地域が見い出さんとする活路の一つとしての工業化を考察する.具体的には,常磐炭田地域を事例研究の対象に選んで,工業化への変容過程,工業化の性格とそれを規定する要因を労働力の側面より明らかにしようとするものである.
産炭地域における工業は,内陸立地型の労働集約的工業である.工業化の性格は,危機に対応しなければならない産炭地域側と,ここに進出してきた京浜地方の中小資本が,双方とも国の行政策に依存して形成したものである.そして全体としては,京浜工業圏の一部に組み込まれた工業化であった.炭鉱資本・進出企業の合弁会社に代表される木材・家具工業と京浜地方から進出した電気機械工業に特色がある.前者は,主として炭鉱労働者が工業労働者に転換したものであり,特に採炭従事者はその適応に困難をきたした.後者は,若年労働者および炭鉱離職者の主婦が中心である.主婦の労働市場への流出は,炭鉱離職者の再就職に伴う賃金低下に起因する.工業化の性格を規定する要因の一つは,炭鉱労働力が工業労働力に変質した共通性である,肉体労働プラス単純機械の組み合わされた作業形態である.
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