わが国の山地集落では, 1950年代後半から著しい人口減少がみられた.そこでは挙家離村などによって集落が消滅した例もあり,この面についての研究は数多い.こうした中にあって,積雪高冷地にあっては,スキー場の開発によって,既存の集落が観光集落として著しく発展したり,また従来の非居住空間であったところに新しく集落が形成された場合も少なくない.しかし,これらについての実証的研究はきわめて少ない.そこで筆者は,スキー場の開発が,その集落の形成と発展において,中心的役割を演じた場合を「スキー集落」と規定し,研究を進めてきた.
スキー場とその立地集落についての地理学的研究には,自然条件や開発過程にとどまらず,集落の従来からの産業構造,スキー場開発対象地の土地所有形態,開発資本と村落共同体の性格,労働力の供給などの諸問題を複合構造体としてとらえる必要がある.
本稿では,従来,集落のなかった非居住空間におけるスキー場の開発に伴う新しい集落の形成について,長野県栂池高原をとりあげて研究を進めた.その結果,栂池高原では,スキー場の開発によって,既存集落の伝統的生業が大きく変貌し,集落の立地にまでも変化がおこり,それまでの非居住空間に,観光集落としての新しいスキー集落が,主として地元住民の移住によって形成された.このような積雪高冷地においては,冬季における就業機会の存在が重要な集落発展の要因であり,また,農林業的土地利用と競合のみられない共有林野の存在が,大規模なスキー場の開発およびそれに伴う新しいスキー集落形成と大きく関連していることが明らかとなった.
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