地理学評論 Ser. A
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66 巻, 12 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 榧根 勇
    1993 年 66 巻 12 号 p. 735-750
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    文部省科学研究費補助金の分科細目の大幅変更を機に,特定地域の自然と人間との関係を研究する地理学の存在理由について,自然地理学の側から考えてみた. 17世紀に西洋で始まった近代科学は,差異の捨象と法則性の追求を主目的とし,個別事例の説明は法則による演繹で可能としてきた.かって自然地理学を構成していた地形学・気候学・水文学などは,このような近代科学の枠組みのなかで,それぞれ独立したディシプリンとしての基礎をかためた.近代科学の目的は,均質で比較的単純な系については達成されたが,人間と直接かかわる自然,すなわち不均質で時間とともに進化する複雑な系については未だしの感がある.自然地理学の存在理由は,たぶん自然の一部である人間がよりよい生を送るために必要な知の提供にある.その目的は地域情報を総合して自然史を編み上げることで達成できると思う.一例として,ヒマラヤ・チベットの隆起が第四紀後期の氷期一間氷期出現の原因になったというHT効果仮説について説明した.現在地球上に展開している人文現象の地域的差異の理解にとっても,地域の自然史は不可欠の情報である.
  • 福岡 義隆
    1993 年 66 巻 12 号 p. 751-762
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    まず始あに,最も古典的で著名ないくつかの文献と筆者自身の考えに基づいて,気候学と気象学の違いを論考する.気象学が人間不在でも成り立つ大気の科学であるのに対して,気候学は必ず人間の存在と密着した大気の科学であるとする.気候学をも含め自然地理学は,隣接の理工学の手法を取り入れるが,解析・理論的解釈の段階で人間的要素を色濃くもった地理学独自の哲学・思想が必要である.
    それゆえに,気候学は自然地理学の一つ,あるいは地理学そのものとしての存在理由があるはずである.その存在理由は'Physical-Human Process.Response'と称するW. H. Terlungのシステム論における5番目のカテゴリーによって確信づけられる.筆者はそのようなcontrol systemの説明のために3っの具体的な気候学の研究例を紹介した.その一つはW. H. Terlungが論じているように“都市気候学”の研究である.ほかの一つは“災害気候学”に示され,そのうちの一つとして年輪に記録される干ばつの気候に関する研究を紹介した. 3つ目は“気候資源に関する研究”で,これも最も地理学的な気候学の一つと考えられる.というのは,それらの研究が自然エネルギー利用の伝統的方法における気候学的考えに拠るものであるからである.最後に,いつまでも他分野に仮住まいすべきではなく,気候学という現住所にいて地理学という本籍(本質)を全うすべきことを主張した.
  • 田村 俊和
    1993 年 66 巻 12 号 p. 763-770
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    地形学の研究とは,地表面の形態を一つの重要な手がかりとして,地表面各部分の性質およびその変化傾向を知るための,成因論的アプローチである.その対象としての地形には,「かたち」,「もの」,「うごき」,「とし」の,相互に関連した4つの属性がある.地形学研究は,主として「うごき」に着目した地形営力論あるいはプロセス研究も,主として「とし」に着目した地形発達史あるいは編年的研究も,それぞれ,地表面の環境にかかわるさまざまな学問分野と密接に関連している.それらから地形学をきわだたせている特徴は,大きさや形のある現実の地表空間としての地形を扱うことであり,また,対象とする地形が,地表面の複合的な諸性質を統合した可視的な指標となることである.これらの特徴こそ,地形学の自然地理学としての特性を如実に表わしたものではなかろうか.それは,環境とはその主体にとっては何よりも空間的実体であり,自然地理学は「自然環境を空間的に統合して捉えるたあの方法とその統合した知見の総体である」ことに存在理由をもち,その空間的統合にあたって地形の指標性とその認識を可能にする地形学の方法が大いに有効性を発揮するからである.
  • 研究手法の有効性について
    森 和紀
    1993 年 66 巻 12 号 p. 771-777
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    自然地理学(者)の科学(者)としての利点と欠点とを整理しなおすことにより,自然地理学の存在理由を水文学の立場から肯定的な意味で指摘することが本稿の目的である.自然地理学は,自然現象と人間活動との関係を常に主題とし,自然現象を地域的な視点から究明する科学であると広く考えられてきたが,「地域」は自然地理学にとって必要条件でこそあれ,もはや十分条件であるとはいいがたい.技術面のみでは解決が困難な環境と景観の分野には自然現象と人文特性の両面が深くかかわり合っており,時空間スケールを前提とする自然地理学が中心的な役割を演じる余地が残されている.自然地理学者は,人文地理学者が自然地理学に対して関心をもつ以上に,(人文)地理学的な考え方を常に意識して研究を進める必要がある.学際科学としての色彩が濃い自然地理学であるからこそ,データのとり方やその解釈に明確な独自性が要求されるのであり,比較水文学に代表されるように,研究対象がグローバルになればなるほど自然地理学的な手法の重要性と必要性は増すものと考えられる.
  • 小泉 武栄
    1993 年 66 巻 12 号 p. 778-797
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    学問の細分化の傾向は近年,あらゆる分野で強まりつつあり,自然地理学もその例外ではない.しかし現在,自然地理学に対しては,各部門の研究の深化だけではなく,細分化とは逆の方向,すなわち自然を総体として把握することが期待されていると考える.本稿ではそのための方法論として,植生を主体とし,その成立の場として地形・地質・土壌・水文条件を考えるという,地生態学(ジオエコロジー)の研究方法を提示した.これは,風化や侵食によってどのような斜面地形ができるかを地質ごとに検討し,さらに地形形成プロセスや土壌,水文条件,小気候などを考慮にいれながら,植生の成立条件を考察するというものである.この方法は,人が肉眼で認識できるスケールの「自然」を,地形・地質や植物などの要素に分解せず,そのまま把握できるという長所を備えており,今後,有効性を増すと考えられる.
  • 門村 浩
    1993 年 66 巻 12 号 p. 798-807
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    環境科学は, 1970年代初頭に,人類の生存を脅かす環境問題の解決への貢献を標榜して成立した総合的・学際的科学である.その性格は, 1980年代末以来,地球温暖化現象など環境問題のグローバル化に対応して,地球環境科学へと変容してきた.地球環境の構造とその自然的・人為的変動プロセスの階層的(多時空間・多尺度的)かつシステム的理解を中核とした自然地理学の方法論は,多様な時空間スケールで生じる環境現象解明の基礎として重要な役割を果たすべきであり,その重要性は地球環境研究時代に入ってますます高まった.こうした立場から,主として筆者の経験に基づいて,わが国における環境科学研究において自然地理学が果してきた役割を振り返り,その存在理由を検討した.また,地理学の内外に,自然地理学はもとより地理学の存在理由とそれらの将来を展望するたあの本格的な検討を行なうべき機が熟していることを指摘し,今後の検討のたあの枠組みを示した.
  • 1993 年 66 巻 12 号 p. 808-809,816_1
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
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