本稿はカゴメ株式会社を事例に,食品企業が農産物流動の国際化にどのように関与しているのかを明らかにした。日本のトマト加工品輸入量は1972年以降急増し,早くから国際的な農産物流動を経験してきた.その輸入地域は,1980年代までは台湾に依存していたが,1990年代以降は著しく分散化し,空間的変化が顕著である.輸入地域の1980年代以降の変化は,基本的には原料のコスト要因に規定される傾向にある.しかし,輸入量の約50%を占めるカゴメの海外調達戦略が,輸入地域の空間的変化に大きな影響を与えていた.そこでカゴメを事例に,企業単位で海外調達のメカニズムを検討した.その結果,カゴメが1980年代以降に海外調達提携先の多元化を進め,調達地域を著しく分散化させてきたことが確認された.カゴメによる海外調達先の分散化は,調達用途の多様化,調達のリスク分散,調達の周年化を進める上で重要であり,低コスト調達のみを追求した結果ではない.事実,カゴメの調達組織では,海外産地に対し多面的な評価を行っている.一方,カゴメによる海外調達の進展は,国内調達にも大きな影響を与えた.カゴメは,自らの国内産地を輸入原料で代替困難なジュース専用産地に位置付ける必要があり,国産原料をジュース専用品種へ全面的に転換したのである.これは,カゴメが海外調達で進めてきた用途別調達,分散調達,周年調達が,国内調達と連動していることを端的に示している.
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