宝石学会(日本)講演会要旨
平成14年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
  • 平田 辰夫, 山本 正博
    p. 1
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    ダイヤモンドへのレーザードリル処理は、結晶内にある黒色のインクルージョンの色を除去し、目立に難くする目的で施されるもので30年位前から行われている。現在、ダイヤモンド内部を改変させる目的で行われているレーザー処理は、以前より行われていたタイプと『KMプロセス』と呼ばれる新しいタイプの処理の2通りに分けられる。従来から行われている方法はレーザーでダイヤモンドの表面からインクルージョンに達するホールを形成させ強酸によって黒色部分を除去するというものである。従来法のレーザードリル処理は比較的容易に識別出来るよう思われるが、状態によっては判断が困難な場合も少なくない。今回は、このレーザードリル·ホールについての観察記録をまとめてみた。
  • 小池 淳史
    p. 2
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    放射線処理した天然ダイヤモンドを、熱処理して様々な色の改変が行われていることは、以前より知られておりますが、近年、その需要も増しているようです。放射線処理は、主にエレクトロン、ニュートロン等で行われています。鑑別をする上でも重要な要素にもなるため、あらためて実際に温度、時間、加熱回数、その他の条件を変えながら、放射線処理天然ダイヤモンドに加熱を試みてその石の、FT-IR、蛍光、CL像、可視分光等のデータ変化を追って見ました。
  • 矢野 晴也
    p. 3
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    本来無色であるダイヤモンドは、その内部に不純分元素(主として窒素)や塑性変形に由来する格子欠陥が含まれていると、それにより特定の波長の光(スペクトル)が吸収され、その余色の色に着色することになる。この欠陥部分は、必ずしも均等にダイヤモンド内部に分布している訳ではないけれども、ダイヤモンド中を通過する光の経路が長ければ長いほど、光がこれに遭遇する機会が多くなり、より吸収が起きることになる。逆に短かければそれだけこの機会が減り吸収が少なくなることになる。即ちダイヤモンド中を通過する光の経路に直接関連するカット形状、或いはプロポーションによりその示す色は変化することになる。色の濃い石は深さを薄くカットしその色の見え方を軽減したり、逆にピンクなどのファンシー·カラーでは厚めにカットして色を濃く見せたりする事が行われているのは端的なこの例であろう。この経路の長さと吸収量の関係は、ランバート·ベールの法則が示すとおり指数関係にある。入射光の強度をI0, 透過光の強度をI, 透過距離をLとすればI=I0exp(-KL)で求める事ができる。従って、石のサイズやプロポーションの差による色の変化の度合いは、石の吸収係数(数式のK)や光の経路長さLが分かればある程度予測できることになる。これらについても、報告する事としたい。以上のことから、結論として研磨済みダイヤモンドのカラー·グレードは、その石のイントリンシックな色とエクストリンシックなカット形状の合成効果であり、リ·カットによりカット形状が変化すれば、当然のこととしてそのカラー·グレードは変化することになる。生物の行動様式が、先天的なDNAによるものと、後天的な経験や教育による刷り込みに由来するものの合成であるのと軌を一にしているのではないかとも思われる。
  • アブドレイム アヒマデイジャン, 北村 雅夫
    p. 4
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    天然ダイヤモンドは主に{111}面を中心とした八面体の結晶として産する。この単結晶は、多くの場合八面体の形態を保って成長する。全ての{111}面の成長速度が等価であり、成長速度に差異が生じないため、結晶の成長形がほとんど変化しないので、成長環境の変動を推定することができない。これに対して双晶の場合は、{111}面には双晶境界に接する面と接しない面があり、これらの面の成長速度が異なるため、成長形も多様化する。したがって、スピネル双晶した天然ダイヤモンドを用い、天然ダイヤモンドの成長環境の変動を見積もる事にした。スピネル双晶したダイヤモンドは三角平板状の結晶として産する。従来、この平板状の形態は二個体単結晶が互いに接触して両個体の間に出来る凹入角部の優先成長によるものと強調され、凸出角での優先成長による成長形の変化を実際に観察した例はありません。本研究では、凸出角(salient corner)での優先成長をsalient corner効果と定義し、南アフリカ産のスピネル双晶した天然ダイヤモンドの外形と内部組織を観察することにより、凹入角効果とsalient corner効果を確かめることも本研究の目的の一つとした。外形の観察からスピネル双晶の形態は三角平板状の成長形を示すが、凹入角の形態を四つのタイプに分類し、双晶の平板性を求め、それと各面の法線成長速度比との関係を導いた結果は、明らかに凹入角での優先成長だけでなく、salient cornerでの優先成長が生じることを示している。双晶形態の違いを説明するには、結晶の{110}切断面を走査型電子顕微鏡の陰極線ルミネセンス(CL)でその累帯構造を観察した。各結晶の内部組織に成長段階を示す整合的な累帯と溶解作用を示す不整合的な累帯構造が観察され、この不整合累帯により各結晶の累帯構造は異なる領域に分けられる。そのうち中心領域の観察によって、成長初期から双晶が形成されていた事が分かった。その後、双晶が成長するにつれ平板性が増し、凹入角部が異なる形態を示す。成長段階を示す成長バンドの幅を測定し、双晶成長段階における各面の法線成長速度の比を見積もった結果、凹入角部にある二つの{111}面の法線成長速度とsalient cornerにある二つの{111}面の法線成長速度との両者間で成長速度比に有意な差が見られ、成長と共に各面の成長速度比は常に変動している事が分かった。そして成長形の変化及び平板性は、凹入角とsalient cornerでの優先成長によって形成されたことが確かめられた。またこの累体構造の成長バンドから成長速度の比を測定することによって、その成長条件を定性的に推定することができた。各結晶の成長過程において過飽和度が変動している事が明らかとなった。
  • 北脇 裕士, 岡野 誠
    p. 5
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    近年、ダイヤモンドの色の起源に関する鑑別の重要性はますます大きくなっている。一見、同様な色に見えるダイヤモンドにも、ナチュラル·カラー、放射線照射、HPHT、処理、合成などが存在する。特にHPHT処理によるカラー·ダイヤモンドは積極的にプロモートされ、国内の宝石市場における流通量が増加する傾向にある。本研究ではRENISHAW社製顕微ラマン装置RAMASCOPE SYSTEM 1000Bで励起用レーザーとして514nmArレーザーを用いて各種ダイヤモンドの測定を行い鑑別への有効性を探った。測定はすべて液体窒素を用いて零下150°Cで行った。
    鑑別上最も問題となるケースが多い黄色系のダイヤモンドを例にすると…
    ‹ナチュラル·カラー›
    ·Ibタイプでは特筆すべきピークは見られない
    ·H-richタイプでは761, 700, 694, 655, 640, 603のピークが見られる
    ·H3タイプ(いわゆるChartreuse)575<535
    ブラウン系の地色で強いH3蛍光を発するものは575〓535
    ‹処理›
    ·照射によるイエローには
    773, 741, 723, 703, 680, 637, 612, 587, 575, 561, 535が見られる。
    ·HPHT処理によるものは575<535で、あるものは強い637ピークが見られる。
    ‹合成›
    ·ロシア製などNiを溶媒に用いたと考えられるものには
    859, 844, 836, 822, 814, 808, 800, 793, 774, 747, 615, 598が見られる
    ·住友電工製(Fe, Ni?)には693, 691, 636が認められる。
    以上のようにカラー·センターの原因については不明確なものも多いが、フォト·ルミネッセンス分光分析はカラー·ダイヤモンドの鑑別にきわめて有効で、今後その応用が期待できる。
  • 神田 久生, 渡邊 賢司, Chung Jung In
    p. 6
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    3年前、ブラウンの天然ダイヤモンドを高圧下で熱処理することによって淡色化や緑色化させ、宝石としてのカラーグレードを向上させることが話題になった。このブラウンの着色は、結晶成長後、何らかの外圧で結晶がひずみ、そのとき生じた欠陥(カラーセンター)による着色であるといわれている。そして、そのカラーセンターは、熱処理により消失する不安定なものである。また、天然のピンクダイヤモンドも歪みが関係しているといわれている。このようなことから、結晶の色を考える場合、歪みも一つの考慮すべき評価要素といえよう。歪みに関しては、気相合成のダイヤモンド薄膜の研究においても良質の結晶の作製という観点から興味ある課題であり、薄膜内部の歪みの評価の研究も多い。今回は、カソード·ルミネッセンス(電子線照射によって発生する蛍光)測定において、歪みに関係する情報が得られたので、それを報告する。熱処理によって色が変化するブラウン結晶には、491nmの発光ピークがみられ、熱処理すると消失する。このピークはIaB型結晶を塑性変形することでも発生することが知られている。したがって、このピークは歪みと関係することが予想されるが、まだその欠陥構造など詳細は明らかでない。今回、ブラウン結晶内での491nmピークの分布を調べた。用いた試料は約2mmの八面体結晶で、これを(110)面に平行に研磨し、その断面についてカソード·ルミネッセンス測定を行った。測定にはトプコン製走査型電子顕微鏡にローパー製分光装置を接続したものを用いた。試料は、液体窒素で冷却して測定した。得られたデータは、発光の面内分布を示す発光像と、特定の位置での発光スペクトルである。今回は、とくにマッピング(試料上を直線に沿って数ミクロンおきにスペクトルを測定すること)で発光分布を調べた。カソード·ルミネッセンス像では、木の年輪のような成長縞の他に、それを横切る直線状の筋が何本もみられた。この分布からみて、この筋は、結晶が成長後、外圧を受けて生じた結晶歪みに関係し、結晶格子がずれたスリップラインといえる。この筋は500nm、400nmでの発光像においてみられたが、250nmではみられなかった。250nmでの発光像には成長縞のみがあり、これはN9とよばれる発光の分布を示していると思われる。発光像の観察ではシャープな発光ピークの分布は明瞭には観察されないので、マッピング測定により発光ピークの分布を調べた。ブラウン結晶の熱処理の実験においてN3, H3, 491nmという種類の発光に顕著な変化があることが知られているので、これらに注目してマッピング測定を行った。マッピングデータによると、スリップラインのところではN3, H3は強くなっていたが、491nmピークには変化はなかった。491nmピークは塑性変形で生じるといわれているので、スリップラインで強くなることを期待していたが、スリップライン内外で強度は一定であった。また、スペクトルを高分解能で測定すると、H3ピークに分裂と波長のシフトが認められた。この分裂やシフトは結晶の歪みによるものであるが、このピーク分裂やシフトはスリップライン上で大きくなるという傾向は認められなかった。以上のことから、この結晶に存在する歪みは、スリップラインだけにあるのではなく、全体的にも歪んでいるといえる。
  • 佐藤 友恵, 小松 博
    p. 7
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    真珠の「まき」について、その形成量と時期の相関については、これまで幾つかの実践的報告がされている。それらのデータを基に、昨年宇和海で起きた真珠の盗難事件について、その盗難時期を推定し、検察側のひとつの証拠となった事例を紹介する。次に漁場の影響が真珠の品質、とりわけ「てり」や「まき」に多大の影響を与えることを長崎県の複数のモデル漁場で行った実験から示す。
  • 報告1:真珠袋内での「てり」の形成プロセスについての仮説
    矢崎 純子, 小松 博
    p. 8
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    真珠の「てり」は真珠層表層で起きる光の干渉現象である。それは二つの成分、輝きと干渉色から成る。真珠層の構造分析から見ると、輝きは結晶層の配列の整然性で決まり、干渉色は結晶層の厚さで決まる。さらに結晶層の厚さや配列の整然性は主として、真珠袋内のたんぱく質の仕切りの状態で決まることが推定できる。本報告は、これらの仮説の立証のためのひとつの実験結果である。
  • 報告1:「てり」と「オーロラ効果」の相関性について
    鈴木 千代子, 小松 博
    p. 9
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    真珠の下半球には拡散光による固有の干渉現象が現れる。これを「オーロラ効果」と命名する。これまで明らかになったこの現象の内容を報告する。次に、それらが本来の真珠の「てり」と、どのような関係にあるかを機器測定し、ある種の“定性的相関性”にあることを報告する。
  • 伊藤 映子
    p. 10
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    真珠の母貝鑑別における元素分析の有効性について、昨年の発表に統計的手法を加えて検討を試みた。また、真珠の色調や紫外線蛍光が漂白加工工程でどのように変化していくのか、さらにそれらが鑑別結果に及ぼす影響について追跡調査を行った。色調の変化については計測機器を使用して数値化の可能性について模索した。最近、鑑別に持ち込まれた真珠や各種処理などについても紹介する。
  • 横山 照之
    p. 11
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    真珠においての元素分析は、銀塩処理真珠の判定や真珠に含まれる微量元素などにより母貝の判定に用いられている。今回、淡水産真珠に多く含まれるMnの含有量が異常に低い淡水真珠に遭遇した。淡水真珠は、海水産真珠と比較してMnの含有量が桁違いに多い事が知られており、母貝判定の決め手になっているが、この事から従来のMnの検出法による淡水産、海水産の判定が難しくなる。この事よりMn以外の微量元素により、判定が出来ないか、測定を行った結果を報告する。和田浩爾先生(1982)によって“養殖真珠の真珠層の科学組成”が詳しく紹介されているので比較もあわせて行った。
  • 藤田 直也, Claudio Milisenda
    p. 12
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
    会議録・要旨集 フリー
    “パライバ”トルマリンと同様に銅/マンガンを含むトルマリンがナイジェリアでも産出されるようになった。この新産地のトルマリンも“パライバ”トルマリンと同様“ネオンブルー”や“エレクトリックブルー”といった色調のものが産出されている。このナイジェリア産、ブラジルのパライバ産及びリオグランデ·ド·ノルテ産のサンプルをエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置(EDXRF)とフーリエ交換型赤外分光光度計(FT-IR)を使って得たデータの比較を行ない産地同定の可能性を見出すことが出来た。
  • 近山 晶
    p. 13
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    ◇エジプト、セント·ジョンス島のペリドート鉱山
    エジプト領の紅海のセント·ジョンス島から良質石が産出していたことは、歴史的にも良く知られている。旧称ゼベルゲットなどの種々の名で呼ばれていたが、面積約5平方kmのこの島は、南部の岩塊のみに鉱脈が存在している。長い世紀の間忘れられた存在であったが、1905年の再発見以後良質石の産地として注目されて、盛んに採掘が行われたが、1958年以後は採鉱は休止し、鉱山は廃墟となって歴史的な意義を残すのみである。
    ◇ミャンマーのペリドート産地
    ミャンマーは世界的にも良質石の供給国として重要な地位にある。宝石類の産地として知られるモーゴク町の北北西のパヤン·ガン地区チャウポン山の北斜面で、ペリドートが採掘されている。ミャンマー産石は、中世以降第2次世界大戦まで世界市場に供給されていた。1962年の軍事政権樹立後は鉱山は国有化されていたが、現在ではその採鉱は政府との合弁会社などによって行われている。1980年代に入って、従来からの鉱山の生産は低下してきたが、しかしごく最近に至って、旧鉱山に近い傾斜面に新鉱山が発見されて採鉱が開始されて、品質良好な石の産出が報告されている。
    ◇アメリカ、アリゾナ州のペリドート産地
    現在アメリカは世界におけるペリドート宝石の生産·供給の最大手の国である。その産地はアリゾナ州、ジラ郡のアパッチ·インディアン保護区内のサン·カルロス地区にある。玄武岩台地(メサ)の豊富な鉱床は居住のアパッチ族のみが特別の採鉱許可権を与えられていて、彼らによる手工具主体の原始的方式によって散発的に生産されている。余り知られていないが、アメリカにおけるもう1つの産出地として、ニュー·メキシコ州のキルポーン·ホールがある。火山クレーターよりの産出であり、商業的な供給産地ではない。またよく知られているハワイ産のペリドートは、実際は全て小粒状つまり砂状の産出で、このグリーン·サンドは、ハワイ島の南部のマハナ湾のビーチのみで採取されている。
    ◇パキスタン、コヒスタン地域のペリドート産地
    パキスタンにおいては1994年に、同国北部のコヒスタン地域で宝石種のペリドートが発見された。この新しい注目さるべき産出地はナンガ·パルパット山地区のサパトナラ(サムパットあるいはサプパットとも)の標高約4,500mの地点にある。地元民による採掘は、厳寒の積雪の多い地域のためにそのシーズンは、5月から10月の間である。同国と中国以外のアジア地域においては、ベトナムの南部と中央部の2ヵ所に産出があることが1995年に報告されている。
    ◇その他の産出国
    アフリカのケニア、タンザニア、エチオピアおよびメキシコ、オーストラリアに産出があるが、いずれも商業的な原石産地といえるものではない。
    ◇中国における2つのペリドート鉱山
    中国においては、1970年代末以降に重要な2つのペリドート鉱床地帯が発見された。その1つの河北省の張家口地域のペリドート鉱床は、北京の北西約180kmに位置している。産出地はその付近一帯の総面積1,600平方kmの広大な地域に広がっていて、その主な採鉱地区は、中央の万全、北東部の崇礼、北西部の尚義の3ヵ所である。この地域は軍事秘密基地であることを理由として、立入りに特別の許可が必要とされている。それゆえ、この地域のペリドート鉱床や採鉱の詳細な情報はほとんど得られていない。より新しい重要なペリドート鉱床は、吉林省の吉林の南東120kmの白色山鎮内に位置している。この鉱床は1989年に発見されて、1990年より小規模な採掘が開始され、1995年に本格的な鉱山として採鉱がスタートした。現在操業中の白色山鉱山においては、標高791mのために「791高地」と呼ばれる玄武岩台地(メサ)の平らな頂上で採鉱が行われている。露天掘りの中国で唯一の機械化採掘の宝石鉱山で、採鉱夫100名以上を擁して最大な宝石鉱山でもあるといわれている。旧満州の寒冷地で、採鉱シーズンは5月から10月の間である。良質石が産出していて目下注目されている産地である。
  • 古屋 正司
    p. 14
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    1995年にマダガスカルの東南部、東海岸のFort Dauphinの北北東100kmに位置するAndranondamboで良質のサファイアが発見され、それからしばらくして、今度は最北端のDiego Suarezの南100kmのAmbondromifihyにおいて、またサファイアが発見された。そして1998年中頃、南部のIsalo国立公園近郊で牛の放牧をしていた若者が青色の美しい石を発見したのがイラカカでのサファイア·ラッシュの始まりであった。このようにマダガスカルでは、ここ数年の間に世界的に有名となるサファイアの鉱床が3箇所も発見された事になる。イラカカは首都Antananaivoより南西に750km、西海岸の町Tulearより北東に250kmの国道7号沿いに位置し、ほんの少し前までは小さな寒村であった。イラカカの宝石鉱床は大きく2つの地域に分けられる。ひとつはAndranolavaを中心とした北地区と、イラカカ川を中心とした南地区であり、いずれもスリランカやタンザニアの宝石鉱床と同種の石灰岩堆積鉱床であり、鉱床はとても広大な地域に広がっている。北地区の宝石鉱床は、Sakarahaの北部よりAnkazoaboの町の近くまでの約40×70kmの地域で、南地区はRanohiraの近郊からSakarahaの町の先まで約50×130kmの地域で広範囲に宝石が発見されている。採掘は実に簡単な方法で行われている。小さなグループは、4∼5人の家族操業である。直径80cm位の縦穴を掘り、一人は穴の中に入ってシャベルでつつき、袋に土砂を入れる。上にいる人はそれを紐で引き上げ近くに溜め、他の人がそれを30kg程袋に詰めて川まで担いで運んで行く。そこで穴のあいた箱に土砂を入れて川の水で洗う。この方法が大半である。50∼60人ほどの大きなグループではシャベルと2m程のバールで広い範囲を掘り、階段式に深く掘り下げて行き、その階段状の平らな場所に順に下から土砂を運び上げ、やはり袋に詰めて川まで運び2人一組になって洗っている。最近では、タイ、スイス、ドイツ、カナダから宝石業者が入ってきてシャベルカーやブルドーザーなどの重機を使って、洗石機で一日に千トンの土砂を選別している。これらの地域からは、基本的にピンク、オレンジ、ブルー、パパラチャ、ギウダのサファイア、アレキサンドライト、クリソベリル·キャッツアイ、ジルコン、赤色と緑色のガーネット、ガーネットのアレキサンドライトタイプ、ファンシーカラー·トルマリン、クロム·トルマリン、トパーズ、ベリル、スピネル、美しい緑色と緑青色のガラス、水晶等が発見されている。採掘の様子、産出石の特徴、今現在のマダガスカルの状況などスライドを用いながら説明したい。
  • 平賀 清美
    p. 15
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    ビルマはスリランカ、アフリカ、ブラジル等と同じく、宝石産地として大変有名な国です。特にひすいやコランダムは世界一とも言える良質の原石が産出されています。しかし国の政策により思うように採掘が行われず、良質の原石をコンスタントに採掘するのは大変難しいようです。今年の初めにビルマのNanya産と言われる美しい非加熱のルビーを鑑別することが出来ました。原石1個とカット石6点で大変美しい品物でした。Nanyaは人口数百人の、ほとんどの地図に記載のない小さな村です。ビルマの北部カチン州のジェードマインとして有名なパカンの東約10kmに位置し、ひすい鉱山の逆側になります。鉱山まではラングーンより飛行機でマンダレー経由でミチーナ(Myitkina)まで飛びそこからさらに車で7∼8時間パカンに向かって走り、国道から鉱山まではさらに歩いて1時間半かかるとの事です。最近市場に出回っているルビーは、ほとんどが加熱(エンハンスメント)されていて、非加熱のルビーを探すことは大変難しいのが現状です。一見したところ美しいルビーであっても、宝石顕微鏡を透して見ると、ワレやクラックにガラス質(透明材)が含浸されており、さらにフェザーのような液体インクルージョンがギッシリ入っているために透明感が全くありません。ある加工職人によれば少し力が加わるとボロボロに割れてしまうこともあるそうです。今回鑑別依頼をいただいた7点のNanya産ルビーは久しぶりに見た透明感の良い、美しい品物でした。拡大検査ではビルマ産に代表的なスタッビィ状のカルサイトの透明結晶インクルージョンがたくさん入っており糖密状の色むらも見えました。嬉しい事に美しいシルクインクルージョンが全ての石に見られました。ルビーは約1500度以上に加熱されると、シルクインクルージョンが細かな微小インクルージョンに変わってしまうため、最近のルビーにシルクインクルージョンを見たことはほとんどありませんでした。FT-IR検査で、大変興味深いことが発見されました。今回のルビーはほとんどがチャートNo.1の吸収スペクトルですが、このうちの1石にチャートNo.2の吸収スペクトルが表れました。疑問に思いさらにその内部検査をしてみると、カルサイトの吸収スペクトルはチャートNo.3ですのでそれらを比較するとピッタリ重なりました。インクルージョンがこれほど強く吸収スペクトルに表れたのは驚きでした。ルビーといえばまずビルマ産と言われますが、この石は大変美しい石で、さらに非加熱であったことには、大変興味を抱きました。これからはこのようなナチュラル·ナチュナルの美しい宝石が見直される時が来ているのではないでしょうか。
  • 川崎 雅之
    p. 16
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    天然水晶のモルフォロジーは主にr、z、mの三面で構成されており、底面c(0001)の出現は極めて希である。PBC解析により、水晶の安定な面(F面)はr、z、mの三面であり、底面は荒れた面(K面)であることが示されている。従って、天然水晶は出来始めから安定なr、z、m面で囲まれていて、底面は通常、出現しないと考えられる。ドイツで出版された水晶についての本[1]に天然水晶の底面が記載されている。それによるとアルプス産の小さな水晶に見られる底面にはいぼ状の突起があり、底面とr、z面の間に高指数面(ω、π)が現われている。天然水晶における底面の形成過程は次のように考えられる。水晶が激しく溶解を受ければ、頂点や稜の部分が溶解して先端が丸みを帯びてくる。この時点で再度条件が変わり、水晶が再成長すれば一時的に頂点の部分に底面や高指数面が出現する可能性がある(実際、水晶球を種子として育成すると、c軸方向には底面が現れる)。成長が継続されればそれらの面は当然消失してしまうが、その前に成長が停止すれば、底面のある天然水晶が残る。つまり底面を持つ水晶は成長—溶解—成長—(停止)の過程を経ていると考えられる。水晶の底面の特徴は人工水晶で明瞭に見ることができる。人工水晶は底面に平行に切断した種を用いて育成するので、底面(Z面)が出現する。その特徴はコブル構造と呼ばれるセル状組織であるが、そのコブルには二つのタイプがある。一つはなだらかな形状を示す小丘(タイプI)であり、他方は明瞭な頂点と“ステップパターン”を持つ三回対称の成長丘(タイプII)である。前者は荒れた表面での形態不安定性によって形成されているが、後者についてはその頂点に混合転位が存在していることから、層成長機構も働いていると考えられていた。しかしながら、原子間力顕微鏡(AFM)による観察では、セル状のなだらかな凹凸や溝に沿った突起は見られるものの、層成長機構を示すステップは確認できない。従って、混合転位はステップの供給源ではなく、形態不安定化において優先的な突出の役割を果たしていると考えられる。その結果、タイプIIの成長丘はタイプIの小丘よりも大きく発達する。しかし、その発達には限界があり、周囲では“ステップパターン”からセル状組織へ漸移していく。タイプIIの成長丘に見られる“ステップパターン”は層成長を示すステップではなく、セルの一形態である。
  • 林 政彦
    p. 17
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    宝石にみられる最も代表的な色は赤·青·緑色という、光の3原色に相当する。それぞれ、ルビー, ブルー·サファイア, エメラルドとヒスイ(ジェイダイト)が代表例である。これらの着色原因については、次のような説明が与えられている。ルビーは微量に含まれるクロムイオンがアルミニウムイオン半径より大きいため、6個の酸素イオンがつくる8面体の構造が歪んでしまう。この歪みが原因で特有の色が生じる。即ち, 4A2から4T1, 4A2から4T2への励起に起因した吸収がそれぞれ、400nmと550nmに大きな吸収を生じさせ、更に4A2から2Eの遷移によって、その独特な蛍光を発するようになる。従って、ルビーは吸収と発光によって、その独特な“赤色”を呈する。ブルー·サファイアは、鉄イオンとチタンイオンの電荷移動によって、可視光線の一部が吸収されて特有な“青色”を呈するようになる。即ち、2価の鉄イオンと4価のチタンイオンがそれぞれ3価の鉄イオンと3価のチタンイオンへそれぞれ電荷が移動する際に可視光線を吸収して、それが着色の原因となるとされている。エメラルドも、ルビーと同じ微量に含まれるクロムイオンによって、同様なメカニズムで吸収と発光現象を生じる。ルビーとの違いはクロムイオンのエネルギー準位を決める結晶場の違いによる。即ち、珪酸塩のエメラルドは、ルビーよりイオン性が数%小さいために4T14T2がより少ないエネルギー準位になる。その結果、可視光線の青と緑色をより透過するようになるため, “緑色”を呈する。ヒスイ(ジェイダイト)は、不均一な色を呈する宝石として知られているが、これは外観の異なる同一鉱物の集合による場合と、別な鉱物が含まれている場合とに分けて考える必要がある。前者については、ヒスイとして流通しているもののなかにジェイダイト(ヒスイ輝石)ではなく、コクモクロアやオンファサイトという別な鉱物種に分類できるものがあることは、すでに指摘した(林, 1993·1996)。さらに、流通しているヒスイ(ジェイダイト)の中には、コスモクロアやオンファサイトが含まれていることも分かってきた。従って、ヒスイ(ジェイダイト)はコスモクロアあるいはオンファサイトが一部含まれることによって、その美しい外観を呈しているものがあると言うことができる。しかし、非破壊によってそれらを同定するのは困難である。従来から、ヒスイ(ジェイダイト)の緑色の着色原因については、従来からクロムイオンで着色されたとみなされてきた。そこで、クロムイオン(Cr3+)における3d3のエネルギー準位図と緑色ヒスイ(ジェイダイト)の一般的な吸収スペクトルと予想される吸収を図に示す。この結晶場理論からも、ヒスイ(ジェイダイト)の緑色については、エメラルドと同様に、クロムイオンによって着色されているとみなすことと矛盾はしない。その他、アメシストなどの着色原因についても触れる。
  • 間中 裕二
    p. 18
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/23
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    合成アメシストが商業ベースで供給され始めた1970年以来、その鑑別はジェモロジストにとって難題のひとつとなった。往事においては比較的安価な天然アメシストを合成する理由もそれらを鑑別する意義も深く理解されていなかったが、近年では合成アメシストの過剰生産に加え、これらが天然アメシストの原産地において混入されるなど、アメシスト鑑別は世界的な関心ごととなっている。特に旧ソ連が崩壊し、市場経済が発達するにつれ、ロシアの結晶育成技術が輸出用のジュエリー製造に向けられるようになってからは、大量供給に伴い合成アメシスト原石の価格も急落し、さらには中国製との競合の結果、その価格はベルヌイ合成品並に下落しており、必然的にアメシスト鑑別の重要性は高まっている。天然アメシストと合成アメシストの鑑別法については多くの研究者によってさまざまな方法が公表され実践されてきた。アメシストは天然も合成も化学組成および結晶構造は同一であるため屈折率や比重などの特性値は鑑別上有効な指標にはなり得ない。本報告では宝石鑑別ラボで標準的に採用されているアメシスト鑑別の手法と問題点について言及する。
    (1)内包物の観察
    ゲーサイトは天然アメシストの典型的な固体包有物として広く知られている。パン屑状インクルージョンは合成起源を暗示しており、種結晶の存在は決定的な証拠となる。液体インクルージョンは合成アメシストには稀にしか見られず、ブラジル双晶に関連したタイガー·ストライプまたはゼブラ·ストライプと呼ばれる形状を示すものは天然起源と考えられる。
    (2)カラー·ゾーニングの観察
    カラー·ゾーニングはいうまでもなく結晶成長における形態変化に対応するものであり、天然と合成の結晶形態の理解が重要である。天然アメシストでは通常、r面あるいはz面に対応する2方向以上のパープルもしくはバイオレットと無色のカラー·ゾーニングが観察され、その境界もきわめて直線的かつ明瞭である。これに対し、量産タイプの合成アメシストは通常z面に平行な一方向でパープル系の明暗のカラー·ゾーニングを示す。また、z面上の微斜面の形態に対応する紡錘形のカラー·ゾーニングは合成起源を示唆する。
    (3)双晶の有無
    天然アメシストはほとんどのものがブラジル双晶をしており、合成アメシストは基本的に双晶していない。したがって、偏光器などを用いて交差偏光下でアメシストを光軸方向から観察し、ブリュスター·フリンジが観察されれば天然と考えられ、干渉による単純なカラー·リングの場合は合成の可能性が高い。
    (4)赤外分光分析
    アメシストにおいては3543cm-1の吸収は合成の特徴と考えられている。我々のラボにおいてこれまで検査した100以上の合成アメシストのうちおよそ80%以上に明瞭な3543cm-1吸収が認められている。
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