宝石学会(日本)講演会要旨
平成15年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
  • 国立博物館の特別展示会にむけて
    松原 聰
    セッションID: S1
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    古代に愛され、現代でも多くの人をひきつける「ひすい」には、まだまだ未知の部分が残されている。私たちはこの「ひすい」についていろいろな角度から探求し、その魅力を改めて人々に紹介しようと、特別展示会を計画している。予定では、平成17年の冬の開催を考えていて、それまでに資料の蓄積や鉱物学的な実験データを集めようと準備をしている。今回は、「ひすい」の抱えるいろいろな問題点を提示して、多くの宝石専門家の方々の有益な御意見をお聞かせいただこうと思っている。
  • 植田 直美
    セッションID: S2
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    琥珀は数少ない有機物を起源とする宝石の一種である。その産出地も限られており最も有名なものにバルト海沿岸のものがある。日本でも少量産地は北海道から九州まで散在しているが主な産地は久慈市、いわき市、銚子市など数えるほどしかない。また、生成年代も世界各地の産地ごとに異なり白亜紀から新生代まで幅広く分布する。中には虫や植物の一部が包括されている場合もあり地質学・有機化学・生物学・植物学・考古学・文化財科学など様々な分野の専門家が興味を抱く対象となる。琥珀は古代から装飾品として使用されてきた。日本では今までの発掘結果から、旧石器時代までその使用がさかのぼることがわかっている。その後は縄文時代から古墳時代まで(弥生時代にはほとんど見かけられないが)主に首飾りなどの装身具として様々な形の玉に加工されたものや加工の途中の未製品も各地の遺跡から数多く発掘されている。以前は土の中に隠れてしまい検出できないものも多かったが最近の発掘技術の進歩により、多くの出土琥珀製品が見つけられるようになって研究が進んで来た。しかし、中世から近世の発掘報告では他の材質の玉類も同様であるが琥珀製品はほとんど発掘されることはなくなる。その後さらに時代が進み近代から現代になって出土品ではないが、再び装飾品として登場することとなる。その間、発掘品では琥珀は数珠などの仏具としての用途に限られ、その他は正倉院に伝世している装飾具に限られるようになる。  古代の人々の装飾品に対する思想は現在のものとは異なり、装身具の対象はほとんどが死者で哀悼の念を表現する装身具であるといわれている。そのため古代人が生きている間にどのような装身具を身に着けていたかを推測するのは非常に難しく、琥珀が宝石の中でどのような位置づけをもっていたか、おそらく時代によっても異なると思われるが非常に興味が持たれる。  一方、発掘された琥珀は、そのほとんど全てが琥珀本来の輝きを失い非常に脆く崩壊しているものが多い。琥珀の劣化状態を調べることは文化財である琥珀製品を後世にまで長く残すための保存技術を開発する上でも重要である。さらに、現在装飾品として使用されている琥珀の劣化についても同様な研究が役に立つと考える。琥珀の劣化要因についての研究は進んでおり、劣化を防ぐ手段についてもさらに研究は進むと思われる。 最近まで国内で行なわれていた分析はほとんど赤外分光分析(FT-IR)のみであった。この分析法は産地ごとに異なったスペクトルが得られることが特徴で標準の琥珀のスペクトルから産地を推定する手段として最もポピュラーな分析法であった。そのような中で古代の琥珀製装飾品は保存科学的あるいは考古学的な研究を進めるため科学分析が行なわれてきた。保存科学的には琥珀であるかどうかの判断および劣化状態を把握するため、また考古学的には古代の交易を探る手がかりのひとつとなる出土琥珀の産地を推定する手段として実施されてきた。近年、核磁気共鳴(NMR)法や熱分析法による分析法が開発され実施されるようになった。これらの分析法は赤外分光分析だけでは判断することが難しかった劣化した琥珀の産地推定や構造解析への応用の可能性を持っている。現在まだ、完全に適用できるデータを揃えていないため今後の研究に期待がかかる。また各種の分析結果を総合して結論を導くことはより信頼のある結果を得るためには必要なことであると考える。 琥珀は長い年月の間に様々な樹木から流れ出た樹脂が高分子化したもので国外の琥珀については様々な分析方法を総合し、構造が解明されているが国内の琥珀については今のところ構造解析は進んでいない。これについては今後前記以外の分析方法を用いることにより国内の主産地琥珀の比較や国外の琥珀との比較を行い、分子構造を決定することができるようになると期待する。以上のように琥珀全般にわたり、現在国外および国内で行なわれている研究や現状を紹介する。
  • 矢野 晴也
    セッションID: 1
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    ブリリアントJットされた石をある特定な形状にリJットするとJラーグレードが変化した事例については、前回の本学会で報告した。
    円形ブリリアントJットをリJットし、そのカット・グレードを改善する試みは一般に広く行われており、これによるカラーグレードの変化が問題になることが多い。
    今回はこれに問題を絞って論ずることとする。
    リ・カットの主要目的は、言うまでもなく、カット・グレードの向上であろう。即ち、下位のグレードをより上位のグレードにする事である。good或いはvery goodを最終的にexcellentのプロポーションにする事である。このことにより、当然カット形状、即ちプロポーションは変化し、その中を通過する光の経路も変化することになる。この事の結果として、当然この石の見かけ上の色は変化することになる。この光の経路長と吸収量の関係は、前回示したごとくランバート・ベールの法則、
    I=Ioexp(-μL)
    Io:入射光強度、I:透過光強度、L:透過距離、μ:吸収係数
    で示される。すなわち、ダイヤモンドの色はそれが本来的に持つ光を吸収する性質μとカットにより支配される光の透過距離Lの複合効果である。従ってLとμが分かればこの色や変化の度合いはある程度予測できることになる。前回報告した通りである。通常カラーグレーディングを行う際には、パビリオン側からガードル面に平行な方向で観察するが、この場合の光の経路が具体的にリ・カットの前後でどのように変化するのかを求めれば、色の変化度合いの予測がある程度可能となるはずである。
    具体的な事例につき検討したので報告する事としたい。
    結論として
    1.宝石用ダイヤモンドの色はその石の光を吸収する性質と光の透過経路の長さの複合効果である。
    2.従って、リ・カットにより、そのカラーグレードは変化する可能性がある。
    3.変化の度合いは、定性的にはともかく、定量的にその詳細を言う事は困難である。ただ、通常のカラーグレードの範囲(E~J)においてはおよその推測は可能である。
    4.一般論として、ブリリアント・カットを薄くすることでカラーグレードは改善されるであろう。逆の場合は悪くなるであろう。
    5.参考までに、ガードル部の汚れは、カラーグレードに大きく影響を及ぼすであろう。
  • 北脇 裕士, 岡野 誠
    セッションID: 2
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    1999年3月、LKIの発表以降、ダイヤモンドのHPHT処理が世界的な話題になっている。今年の世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)の世界大会においても紛争ダイヤモンドと共にHPHT処理が世界的な懸念材料になっていたと報告されている。
    ひとくちにHPHT処理といってもいくつかのタイプが知られており、実験室レベルのものから日常の鑑別業務でしばしば見かけるものまで存在する。当初LKIによって発表されたGE POLはタイプ?のブラウンを無色化したものであったが、その後NOVAダイヤモンド社からタイプ?のブラウンをイエローに処理されたものが市場に登場した。その後、NOVAと同様であるが、さらにグリーニッシュな"アップル・グリーン"あるいは"ネオン・グリーン"とプロモートされているものが量産されている。さらに最近ではケープ・イエローに酷似したものや"カナリー・イエロー"に類似した色が市販されている。特殊な例としてはタイプ?のブラウンを処理した際にピンクやブルーになるものも知られている。
    本報告では各色のHPHT処理ダイヤモンドをUV-VIS-NIR分光光度計、FT-IR、カソードルミネッセンス装置、顕微ラマン分光装置等を用いて分析した結果を紹介し、鑑別の可能性について言及する。
  • 神田 久生, 渡邊 賢司
    セッションID: 3
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    天然II型ダイヤモンドのカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを測定すると、250nm-300nmの波長範囲に、2BD(F), 2BD(G)と呼ばれる発光ピークがみられることが知られているが、このダイヤモンドを6万気圧、2000℃で熱処理すると、これら発光の強度が小さくなった。この結果は、2BD(F), 2BD(G)の発光強度を調べることも、天然II型ダイヤモンドの熱処理の有無の鑑別法の一つとなることを示唆する。
    1999年に、ブラウンカラーの天然ダイヤモンドを熱処理することによって、カラーグレードを向上させるという技術が発表され、II型のブラウンは色が淡くなり、I型は黄緑色に変わるということが知られてきた。これに関係して、その色変化のメカニズムや熱処理の有無の鑑別方法の問題は、多くの宝石関係者の興味を引きつけている。
    これらの課題について、いくつか論文も発表されており、明らかになった点もある[1]。
    1)熱処理で色変化するブラウンカラーの石は、塑性変形を受けている。
    2)塑性変形に関連する欠陥の発光が認められる。
    3)Ia型のブラウンは熱処理によって凝集した不純物窒素の一部が分解してIb成分があらわれる。これは、つぎのようなスペクトルに反映される。
    a)赤外吸収スペクトルで1344cm-1ピークが現れる。
    b)H2吸収ピーク(986 nm )が現れる。
    c)フォトルミネッセンスピーク比が634/575nm >1 となる。
    など。
    これらのデータを用いると、ダイヤモンドの熱処理の有無を鑑別することが可能であるが、すべてのダイヤモンドに適用できるわけではない。特にII型結晶については、鑑別困難なこともある。
    本研究では、次の実験を行った。天然ダイヤモンド原石のエッジを研磨し、その断面のカソードルミネッセンス(CL)スペクトルの測定を行った。カソードルミネッセンス(CL)とは、電子線を試料に照射して発生する発光のことであるが、本実験では、走査型電子顕微鏡(SEM)に分光器を接続した装置を用いて発光を測定した。測定では、特に300nm以下の波長に注目した。
    II型ダイヤモンドからは、自由励起子ピーク(235nm、242nm、250nm)が観測される。今回測定した天然ダイヤモンドからはこの励起子ピーク以外に、250-300nmの間に、微小のピーク群が観測された。これらのピークは2種類に分けられ、それぞれ2BD(F), 2BD(G)と呼ばれている。
    この試料を、超高圧発生装置を用いて、6万気圧、2000℃で熱処理した。熱処理後の試料の同一場所のCLスペクトルを測定すると、スペクトルに変化が見られた。つまり、2BD(F), 2BD(G)のピーク強度が励起子ピークに比べて小さくなっていた。特に2BD(G)は消失していた。
    この2BD(F), 2BD(G)については、ほとんど研究がなく、どのような欠陥に起因する発光かまだあきらかでない。今までの研究結果から類推すると、2BD(F), 2BD(G)ピークも低温での塑性変形によって生じる不安定な欠陥による発光と考えられる。
    以上の結果から、2BD(F), 2BD(G)の強度測定を行うことで、天然II型の熱処理の有無の鑑別に利用できることが期待される。なお、フォトルミネッセンス測定の論文[2]にも、250-300nmの発光が熱処理によって消滅すると記載されているが、これも2BD(F), 2BD(G)の変化と思われる。
  • 林 政彦
    セッションID: 4
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    宝石学会(日本)創立の際の趣意書に、「久米武夫氏の初期的な研究がありながら、日本には宝石学が在存しないという比判が外国の宝石学者からしばしば寄せられたものです。」(1)と書かれているように、宝石学会の設立は当時の時代の要請であった。今からちょうど30年前に発起人たちが集まり、その翌年に宝石学会(日本)が創設され、宝石学(Gemmology)の発展に貢献してきた。その結果、現在のわが国の宝石学のレベルは他の国に肩を並べるようになった。特に、さまざまな最新鋭の分析機器が宝石の鑑別にも利用され、最新知見が得られた結果、宝石学の発展にも寄与した(2)。今回、わが国に宝石学が導入されてきた時期について調べてみたので報告する。
  • 中住 譲秀
    セッションID: 5
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    Mr. Pierre Gilsonは昨年4月逝去された。享年88才である。ビエール・ギルソンはベルヌイやチョクラルスキーと共に宝石や結晶に携わる者には知れ渡っている。私は1980年以降彼の技術の真髄にふれ親しく彼の技術指導を受けた。今彼の経歴と技術の一端を紹介することにより氏の偉大な業績を偲びたいと思う。
  • 高橋 泰, 三木 かおり
    セッションID: 6
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    一般的な色彩学の分野で論じられている色知覚の特性は、塗料(反射光)や特定の光源についての実験が大半である。宝石の場合、ファセット・カットされたカラーストーンは表面反射光、内部反射光、透過光が入り交じり複雑な外観を示すため、一般論で論じることができるとは限らない。カラーストーンにも人間の色知覚の特性が作用するか確かめるため、最初に透明な平板状の着色ガラスに対する近似色をカラーフィルムを組み合わせて作成し、機械測色により色差を算出した後、同じサンプルを被験者に目視検査で比色してもらった。その結果、色差の判定においては、明度の高い黄色、ピンク色、青色では機械測色の色差が小さかった割に、敏感に反応した。一方、明度の低い赤色、青色で色差の数値の割に、反応が鈍かった。また、緑色では明度の高低にかかわらず、肉眼は敏感に色差を知覚できることがわかった。このことは、透明体においても人間の色知覚の鈍感な色と敏感な色が同様に存在することを示し、色彩学での一般論に準ずる結果であった。
    次にカラーストーンのカット石について、前述した着色ガラス同様の比色実験を試みた。各カット石の近似色をカラーフィルターで作成し、それぞれのカラーストーンとの比色実験を被験者による目視検査で行った。結果は着色ガラスの場合に類似していた。高明度の黄色、青色、ピンク色、青紫色、緑色は機械測色における色差が比較的小さいにもかかわらず、その差を感じ取った被験者が多かった。イエロー・ダイアモンド、イエロー・トルマリン、ブルー・フルオライト、ロードライト・ガーネット(明)、クンツァイト、モルガナイト、タンザナイト、グリーン・フルオライトがその例である。逆に機械測色の色差が比較的大きいのに対し、肉眼がその色差を感じ取れなかったものは、暗色の赤色、青色、紫色であり、例としては、ロードライト・ガーネット(暗)、合成ブルー・スピネル、アメシストであった。
    また、これらの検証を通して新たな問題点が浮上した。ファセット・カットされた石の色は外観上非常に複雑であり、平板状の着色ガラスに比べ近似色を作成する場合、難易度が格段に上がったことである。それは近似色フィルムとカット石の色差が着色ガラスの場合に比べ大きいことにも現れている。人間の目は複雑なカット石の色をどう捉えているか確認するため、カット石中の色を明度により明、中、暗の3段階に分け、それぞれの近似色を前述の実験同様に作成し、被験者に目視検査で比色してもらった。ここでの明色はKatzの色分類における「光輝」に、中色は「明るい容積色」、暗色は「暗い容積色」に相当する。比色実験の結果、中明度の「明るい容積色」を人間の目はファセット・カットされたカラーストーンの色として認識していることがわかった。
  • 砂川 一郎, E. Alan Jobbins, Emma Tinnyyunt
    セッションID: 7
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    ルチル入り水晶はジュユリー素材としてポピュラーな存在で広く親しまれている。ルチルの結晶は細く針状に伸び、普通は不規則、不定方位で発達している。
    ルチルの針状結晶が水晶の成長より前にでき、そのあとから成長した水晶にとりこまれたインクルージョンであるのか、あるいは水晶中の転位があとからの作用によってデコレートされたものか、の2つの異なった成因論がだされていた。ルチルの結晶構造から構造形を予測すると、柱面と錐面で囲まれた短柱状であるが、観察される針状は異方性がはるかに署しく、アスペクト比も大きい。したがってこれらはルチルのひげ結晶であるとみなせるが、いままでひげ結晶として論じられたことはない。
    著者の一人(ET)がミャンマーMogok地区を訪ねた折り、高さ56mmの卵形に研磨した透明水晶中に直線状のほかにコイル状をしたルチルのインクルージョンをふくむ試料を入手した。最近、マイクロコイル、ヘリカル、メビウスの帯状、8の字状などトポロジカルなひげ結晶がCVD法で合成した金属、硫化物、セレン化物、窒化物などの結晶中に見いだされ、その特異な形と1次元導体の素材としての関心をよんでいることとからんで、コイル状のこの試料について研究した。
    屈折率、光学的性質から母体は水晶である同定された。インクルージョンとして含まれるルチルには太さ20~100μm,長さ20~30mmの直線的なもの、僅かにねじれたものから、コイル状のものまで、太いものから細いものまである。コイルは長さ9mm,径15mm,間隔1.8mm,6回転の太めのコイル、長さ9mm,径1.0mm,間隔1.5mm,3回転の細めのものまである。一般に細めのものはsolidであるが、太めのものは中空で中空壁に褐色の沈殿物が認められる。細めのものは光学的異方性を示し、単結晶であるが太めのものは束状の多結晶集合体と判断される。その分布は不規則不定方位で、水晶単結晶中に一般的に見られる成長誘起の転位分布とは異なることから、これらは水晶の結晶の成長以前にできていたルチルのひげ結晶で、成長時の形を崩されることなくあとから成長した水晶中にインクルージョンとしてとりこまれたひげ結晶であると結論される。
    ひげ結晶の形成機構についてはいくつかのモデルが出されている。上述のトポロジカルなひげ結晶はすべてVLS機構で説明されている。この機構では、共融液滴の球が結晶先端に常に存在することが必要である。このルチルではその種の球は観察されない。もう一つの機構として最近提案されたものに3価の不純物イオンが4価のTiを置換することにより電気的中性を保つため脱酸素が起こり、錐面だけがラフニング転移を起こすことにより、成長速度の異方性が強調されひげ結晶が出来るというモデルがある[1]。ルチルの成長環境を考えるとこのモデルがもっともありうる機構であろう。なお、この観察が動機になって、スカルン中のヘデンベルグ輝石上にコイル、ヘリカル、カール、縄状などの角閃石のひげ結晶が観察された。これらは、VLS機構に由ることが確認されている。
  • 川崎 雅之
    セッションID: 8
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    水晶の構造から予測される理想的な形(構造形)は r、z、mの三面で構成されている。しかし、工業用に種子を用いて育成されている人工水晶にはr、z、m以外にZ, +X、-X、Sと呼ばれる面が出現する。後者の四面は種子を用いて育成する際に一時的に出現する準安定な面であり、特徴的な表面モルフォロジ-を示す。Z面はコブル構造と呼ばれるセル状の形状を示し、+X面は起伏に富んだ荒れた面である。-X、S面は条線面である。
    1)カソ-ドルミネッセンス(CL)による内部組織の観察
     一般にCLは不純物に敏感であり、不純物量の違いを容易に画像化できる。水晶の場合、主にAl不純物が発光センタ-になっており、セクタ-構造や成長縞等が観察できた。画像から推定される発光強度は+S > +X > Z および -X > Z であり、一般に知られているAl不純物量の順に一致する。また、+Xセクタ-ではブロック構造や縞状組織が観察された。マクロな+X面は真の+X面、S面、m面が交互に合わさった複合的な面である。+X面の表面と+Xセクタ-の組織との関係から、+X、S、mの三面における成長速度や不純物量の差がブロック構造や縞状組織を形成したことがわかった。
    2)原子間力顕微鏡(AFM)による表面の観察
    ナノレベルでの表面形状を明瞭に観察できるのが、AFMである。水晶の底面(Z面)は構造的にラフな面であり、形態不安定性によりコブル構造(タイプ?、?)が形成される。このコブル構造のAFM観察については昨年の当学会で報告した。混合転位が優先的な突出の役割を果たし、同心円状のセル状組織(タイプ?のコブル)を形成していることを述べた。この同心円組織は中心から周囲にいくほどセル幅が大きく、且つ溝が多くなり、次第にタイプ?のコブルに漸移していく。これは混合転位を起点とした形態不安定化の発達過程を示している。Z面における形態不安定性には、二つの過程があると言える。種子表面から始まりZ面表面に至る過程とタイプ?における混合転位を中心として周囲に広がっていく過程である。
    一方、r、z、m面はスム-スな面であり、渦巻成長機構が働いていると考えられる。工業用に育成されている人工水晶ではr、z面に円錐状の成長丘が、m面にステップを持つ多角形の成長丘が観察されている。しかし、より微細な領域の観察はこれまで不可能であったが、AFMを適用することで、成長丘中心でのステップやホロ-コアが観察でき、らせん成分を持った転位による渦巻成長機構が働いていることが確認された。
  • 藤田 直也
    セッションID: 9
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    山珊瑚という俗称は一度は聞いたことがあるはずであるが、それが何であるのかということになると、詳しい資料や文献などはほとんどない。俗説ではヒマラヤが昔海であった頃にできた珊瑚が造山運動により押し上げられて山で取れるようになったということであるが、果してそのようなことが起こりうるのか、またどうしてそのような説が出てくるようになったのかを検証することにする。
  • 宮島 宏, 松原 聰, 横山 一己, 宮脇 律郎, 伊藤 加奈子, 廣川 和雄, 三石 喬
    セッションID: 10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    糸魚川・青海、ミャンマー、ロシア、カザフスタン、グアテマラ産のひすいについて、顕微鏡観察、EDS、XRD、WDS-mappingにより明らかにした主要構成鉱物や元素分布を示し、ひすいの色との関係を論じる。
  • 古屋 正司
    セッションID: 11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    2001年夏頃より、タイで加熱加工された、新しいタイプのパパラチャ・サファイアが急激に、そして多量に市場に出回った。
    特にパパラチャ・サファイアを好む日本には、全輸出量の90%以上が輸入されたと推定される。日本ではジュエリーを販売する時には、一般に鑑別書をつけて販売されるので、当然のことながら、鑑別書も多量に用いられた。しかし、2002年1月にアメリカのAGTAより、この新しいタイプの石はDiffusion(表面拡散)の“処理石”であると発表された。日本で多量に発行している鑑別書には“処理石”ではなく“エンハンスメント”のコメントを用いているために、当社でももちろんだか、日本の宝石業界全体がどよめいた。
    その後、この加熱はクリソベリルを用いた“ベリリウム加熱”であるとの発表があり、さらに市場が混乱したために2002年4月より全てのベリリウム加熱の宝石鑑別書はストップして鑑別書を発行しないようにとAGLで決定された。その後も、混乱は増々大きく広がっていき、販売された宝石が返品されたり、一般誌であるサンデー毎日が“アメリカで処理石とされているベリリウム加熱のパパラチャ・サファイアが日本では処理石ではないゥ凵hと我々業界を批判する記事を掲載し、増々市場は混乱した。
    2002年、11月の初めに、バンコクの大手加熱加工工場を視察することができた。それをまとめて当研究所の情報誌Gem Information第23号に詳しく掲載した。又、今年の3月にはAGLの有志10名により、バンコクとチャンタブリの加熱加工工場の視察を行い、持ち帰ってきた資料を整理して、当研究所では最新号のGem Information第24号で発表している。
    当研究所の考えとしてはベリリウム加熱加工は
    1)今までの表面拡散(Diffusion)処理とは違うこと
    2)加熱加工によりオレンジ、パパラチャ、イエロー、ゴールデン、ブルー、レッド、変化なし等の結果が得られること
    3)ベリリウムは宝石の着色原因である遷移元素ではないこと
    4)今までの加熱では変化しなかった石までが変化すること等を確認した
    コランダムの加熱加工は数10年も前から行われており、旧加熱方法では約30~40%しか美しい宝石に仕上がらなかったが、今度の新しいベリリウム加熱では90%以上が美しい宝石に生まれ変わるとのことだ。
    ベリリウムを用いて加熱加工することは、宝石業界に於いては、画期的な技術革新であり、宝石が本来持っている天然の要素を美しく引き出す新しい加熱技術である。言い換えれば地球がやり残したことの手助けをしているのだ。未熟児で生まれた宝石を見捨ててしまうのか、それとも手を掛けて一人前になるまで育ててあげるのか、そんな選択に似ている。
    5年後、10年後になればこの発見がいかに素晴らしいことであったかが分かるだろう。
  • 平田 辰夫, 堀川 洋一
    セッションID: 12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    昨年来世界中で物議を醸しているベリリウムの拡散を伴うコランダムの加熱を実際に自分達の試料で処理してもらえる機会をAGL(宝石鑑別団体協議会)としてもてた。当社もその一員としてタイに赴き、実際の処理の現場を観察し自分たちの合成サファイアを処理してもらった。
    今回はバンコックとチャンタブリの処理工場で見せられた新技法の紹介と実際にその場で処理をしてもらった2種類の合成ホワイトサファイアの処理後の結果の違いについてSIMS等を用いて調査した結果を発表する。
  • 大野 剛, 平田 岳史
    セッションID: 13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    高周波誘導結合プラズマイオン源質量分析法(ICP質量分析法)は、大気圧高温プラズマをイオン源として用いた質量分析計であり、迅速かつ高感度な多元素同時分析法として鉱物試料から生体試料まで幅広い分析試料に応用されている。イオン源が大気圧にあることにより、溶液試料導入法からレーザーアブレーション(LA)を利用する固体試料導入法などの試料導入法も適用可能であり、多様な分析試料に対応できることもICP質量分析計の分析法としての汎用性・拡張性を高める一因となっている。
    本講演では特に固体試料の迅速かつ高感度な多元素同時分析が行えるレーザーアブレーション試料導入法を用いたICP質量分析法の原理と応用、さらに我々のグループが行ってきた分析装置の改造やデータの信頼性、迅速性を高めるための試料導入法の開発について紹介する。
  • アヒマディジャン アブドレイム, 志田 淳子, 北脇 裕士
    セッションID: 14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
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    2001年後半より日本国内の市場において、高彩度のオレンジ色、ピンク色そして黄色のサファイアが広く見られるようになった。これらの中にはオレンジ・ピンクからピンキッシュ・オレンジの、いわゆる“パパラチャ”のバラエテイ・ネームで知られるサファイアも含まれており、これらは従来のタイプに比較すると一見鮮やかで均一な色調を呈するが、結晶外縁部にはオレンジ色の層が分布し、中心部はほとんどピンク色を示す。また、同じようにカット形状に沿って外縁部に黄色あるいはオレンジ色が分布する、バイオレット、グリーン、ブルーなどのサファイア、そしてルビーも出現している。このような特異な色分布から、当初これらのコランダムは“表面拡散”処理が疑われたが、その後の調査分析の結果から、外部添加物であるクリソベリルを構成する主元素のBe(ベリリウム)を拡散させる、それまで知られていなかった全く新しい技法であることが判明した。ただし、その着色のメカニズムについては今までいくつかの説が発表されているが、必ずしもすべてが解明されていない。また、このような拡散因子である軽元素Beの検出は一般的な宝石学的手法では不可能であり、SIMSなどのより高度な分析装置を用いることが必要で、その看破の難しさが問題となっている。
    本研究では、レーザー・アブレション・システムを用いた誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を使用してベリリウム(Be)を含めた不純物元素の測定を行い、新技法コランダムの看破の可能性を追求した。
    その結果、未加熱および従来の加熱法と新技法のコランダムの間にはベリリウム濃度に明らかな差異が認められ、この分析手法の有効性が確認できた。 今後、その他の軽元素の添加など多様化することが予想される加熱手法の看破や着色メカニズムの解明にLA-ICP-MSによる分析は極めて有効であると考えられる。
  • 勝亦 徹, 相沢 宏明
    セッションID: 15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    ルビーなど、クロムイオン(Cr3+)を不純物として含む結晶に紫外線を照射すると特有の発光をしめす。ルビーの場合、この発光は、波長693nmと694nmの赤色の可視光線であるため肉眼で容易に観察することができる。クロムイオンを含むアレキサンドライト、スピネル、エメラルド、ガーネットなど種々の結晶が、それぞれ特有の波長で発光することが知られている。結晶内のクロムイオン(Cr3+)からの発光は、結晶の置かれている温度により変化する。特に発光寿命は、温度に大きな影響を受けることが知られている。この性質を利用して、ルビーの蛍光寿命の温度依存性を使った光ファイバー温度計が報告されている(1-4)
    ルビーを使った光ファイバー温度計では、蛍光寿命が室温付近で4ミリ秒程度で、温度上昇とともに寿命が減少し、約400℃程度まで温度測定が可能である。より高感度な温度センサを開発するためには、蛍光寿命の長い材料を探索する必要がある。ここでは、クロムイオン(Cr3+)を含む結晶材料として、スピネル(MgAl2O4)および、イットリウムアルミネート(YAlO3)について、結晶育成を行い、蛍光寿命の温度依存性を評価した(5,6)。その結果、スピネル( MgAl2O4)結晶は、室温で約8ミリ秒、イットリウムアルミネート(YAlO3)は室温で約40ミリ秒の長い蛍光寿命を持つことがわかった。温度計の感度の指標となる温度係数も、ルビーの-0.010ms/Kに比べ、スピネル(MgAl2O4)は、-0.037 ms/K、イットリウムアルミネート(YAlO3)は、-0.075 ms/Kであり、それぞれ数倍大きい数値であった。これらの結晶を使えば、光ファイバー温度計の高感度化が可能であると考えられる。
  • 伊藤 映子
    セッションID: 16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    現在流通している真珠は、大部分が海水産あるいは淡水産二枚貝による養殖真珠である。一方、アワビ真珠、コンク・パール、ホース・コンク、メロ・パール等は巻貝から産出され、一部のアワビ真珠を除き、いずれも天然真珠として発見される。これらは二枚貝産出真珠とは異なった特有な外観や構造を有し、その稀少性と独特な美しさから宝飾史の中でも古くから珍重されてきた。
    そこで、今回は巻貝産出真珠に着目し、その特性を紹介するとともに耐久性に関して若干の知見を得たので報告する。
  • 黄 怡娟, 矢崎 純子, 小松 博, 渥美 郁男
    セッションID: 17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    最近、日本産アコヤ真珠の中に「にごり珠」と通称される、グリーン色を基調とした透明感の不足したものが多くなっている。これらの真珠は従来余り見られなかったものであり、「加工」でもほとんど赤みがのらず、業者間で頭を痛めている問題である。
    私たちはこの「にごり珠」について、まず現象面での詳細な観察を行い、以上の特徴を明らかにした。
    ?干渉色はグリーンのみで赤みのそれはほとんど発現していない。
    ?頭頂部での光源像部のダブリ(二重映り)が顕著である。
    ?透過光の拡散率が大きい。
    ?真珠層表面の結晶成長模様での“等高線”の幅が狭い。
    次に真珠層を切断、薄片化しその断面構造を電子顕微鏡で観察し、以下のような特徴を見出した。
    ?真珠層を構成しているアラゴナイト結晶層の厚さが極めて薄い。
    ?各結晶層の積み重なりの乱れが極めて大きい。
    以上の現象面観察結果と構造観察結果は、論理的に整合することを明らかにした。
  • 難波 里恵, 矢崎 純子, 小松 博
    セッションID: 18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    2年前に販売した黒蝶真珠ネックレスの数個がてりを喪失するというクレームが発生し、その原因分析を依頼された。
    てり喪失真珠(以下試料と称す)について現象面を観察し、以下のことが明らかになった。
    ?目視からも陬はなく、Iーロラ効果煬轤黷轣A試料では光の干渉が起きていない。
    ?X線透視画像からは内部に亀裂・ひびは認められない。
    ?分光反射スペクトルには三つの黒蝶吸収が明瞭に認められる。
    ?真珠層表面拡大でも何ら特異な点は見られなかった。
    次に試料を切断。薄片化し、その断面構造を光学顕微鏡レベル、電子顕微鏡レベルで観察した。
    その結果表面から30、50、80ミクロン付近に微小な亀裂が発生しているのが観察された。入射光はこの亀裂のために散乱を起こし、光の干渉が起きない(てりが喪失)ことが分かった。
    JISの温度・湿度サイクル試験に準拠して、これらの微小亀裂の発生を再現してみせたので併せて報告する。
  • 鈴木 千代子, 小松 博
    セッションID: 19
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/06
    会議録・要旨集 フリー
    神奈川県の毘沙門洞穴遺跡から発掘された推定1700~1800年前のアワビ貝殻の真珠層が、どのように物性変化しているかを現生アワビの貝殻と比較しながら推定した。
    物性測定項目は以下のとおりである。
    ?硬度測定
    ?光輝(てり)値測定
    ?透明度測定
    ?分光スペクトルによる色測定
    ?光学および電子顕微鏡観察
    データはすべて真珠層の脆弱化を示しているが、その根本的原因に、真珠層を構成するたんぱく質層の喪失があることが分かった。
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