宝石学会(日本)講演会要旨
平成17年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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  • 山崎 淳司
    セッションID: S-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     コランダム(corundum)は、α-Al2O3の主化学組成と構造型をもつ鉱物種名であり、微量のクロム、チタン、鉄が固溶することによって発色したルビー、サファイアなどは変種名である。コランダムが宝石として用いられるには、透明性とある程度の大きさが求められる。しかし、生成条件の関係から乳白色で産出するいわゆる「ギウダ」や、生成過程で混入した不純物種によって色の質が落ちるコランダムを加熱処理して、透明度や色調を向上させたものが、一部で流通している様である。この加熱処理は、宝石としてのコランダムの流通量が増えるなどの利点はあるが、加熱処理物と非加熱処理物とが流通過程で混在していることが問題にもなっている。
     今回の講演では、コランダム型構造を有する物質の結晶化学的特徴を紹介し、コランダムに各種遷移金属元素をドープし、加熱処理した場合の発色機構について、主に顕微ラマン分光、カソードルミネッセンス スペクトルなど分光学的測定法を用いて得られる知見について紹介する。
  • 松月 清郎
    セッションID: S-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     鳥羽の真珠博物館は1985年に開館し、本年で20周年を迎える。その間に真珠に関する文献や装身具、真珠標本などさまざまな資料を蓄積し、調査研究と展示活動をおこなって、多くの一般の方々へ啓蒙を続けてきた。今回は博物館収蔵の天然真珠を用いた装身具を中心に、真珠が人々にいかに愛されてきたかを、主に文化史の側面から概観する。
  • 尾方 朋子, 山本 正博
    セッションID: 1
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     合成ColourダイヤモンドはColourlessに比べて低コストで製造でき、以前よりもより天然ダイヤモンドに近い発色が可能になってきている。一方、Colourダイヤモンドの人気が高まってきていることから、合成Colourダイヤモンドの市場への流入は今後さらに増加すると思われる。
     今回、Chatham Created Gemsが販売する合成ダイヤモンド11ピースを検査する機会を得た。これらの石について、拡大検査、分光検査(FTIR、可視)、ダイヤモンドビューTM(DV)による観察およびフォトルミネッセンス(PL,514nm/488nm/325nmレーザー励起)による分析結果についてその特徴を紹介する。
     11ピースのうち4ピースが?b型のブルーで、残り7ピースが?b型に照射・アニールを施したピンクであった。
      以下、結果抜粋
    ・拡大検査:金属インクルージョン、成長セクター沿いの色むら
    ・可視分光:ピンクの石には637nmと575nmに吸収
    ・FTIR:1050cm-1、2460cm-1(ブルー)、1050cm-1、1450cm-1(ピンク)
    ・フォトルミネッセンス(PL514nm/488nm/ 325nm)、580nmにNiによるピーク(ブルー)、575nm、637nm(ピンク)
    ・DTC Diamond View:高温高圧(HPHT)合成石特有の成長構造
  • 神田 久生
    セッションID: 2
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     ダイヤモンドに電子線を照射すると空孔など欠陥が発生することが知られているが、そのためには、500kV以上の高いエネルギーが必要である。今回、走査型電子顕微鏡で使われる20kV程度の低いエネルギーの電子線の照射で、カソードルミネッセンススペクトルに変化が生じることが観測された。
     測定に用いたのは高圧合成のII型のダイヤモンド結晶で、この結晶に20kVの電子線を照射しながらカソードルミネッセンススペクトルの測定を行った。今回は、通常より20倍大きい電流を照射した。その結果、電子線照射とともに次のようなスペクトルの変化が認められた。
    (1)420nmと540 nmの波長に新たな発光ピークが出現し、照射時間とともに強度が増加した。しかし、2-3分以上照射を続けると、強度は減少し始めた。
    (2)410 nmにピークを持つ幅の広い発光も出現し、強度は増加した。これは、長い照射でも減少することはなかった。
    (3)485 nmの発光ピークは、電子線照射開始時にみられるが、これは照射とともに強度が減少した。
     ほかにも微小なピークに変化がみられた。これらの発光ピークはII型ダイヤモンドに特有で、II型でもセクターによってスペクトルの形状変化に違いがみられた。II型とはいえ微量の不純物を含んでおり、これが上記発光ピークと関係していると考えられる。
     一旦出現した発光ピークの発光源は電子線照射を止めても、なくなることはなく、数ヵ月放置後、カソードルミネッセンス測定すると、そのピークは観測された。このことから、この電子線照射は、一つの刻印機能をもつといえる。ダイヤモンド上のある位置、あるいはある形に電子線照射すれば、そこに発光センターが形成され、そのセンターは、後日、ルミネッセンス測定で検出することができる。ただし、このような照射効果はすべてのダイヤモンドに適用できることはないようである。
  • 江森 健太郎
    セッションID: 3
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     最近市場でペリステライト、ハイアロフェン等の長石が見かけられるようになった。それらの長石についての特徴と鑑別に際する注意点について、通常見られる長石類と比較しつつ述べる。
     ペリステライトは約2~19mol%のアノーサイト成分を持つ低温型斜長石でありイリデッセンスを放つラブラドーライトと同じように100nmオーダーのラメラ構造を呈している鉱物である。ムーンストーンと非常によく似た外観を持ち、屈折率、比重だけでは区別することが難しい。また、ムーンストーンと類似した外観をもつラブラドーライトについても述べる。
     ハイアロフェンはバリウム長石であるセルシアン(celsian;BaAl2Si2O8)と正長石(orthoclase;KAlSi3O8)の中間組成を持つ長石である。屈折率が斜長石系列の中間程度を示し、誤鑑別を生む原因となる。
     これらの長石は赤外分光法(FT-IR)で簡易的に鑑別することが可能であるが、正確な鑑別には蛍光X線分析装置(EDS)を用いて組成を直接分析することが望ましい。
  • 岡野 誠, 北脇 裕士
    セッションID: 4
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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    宝石鑑別ラボラトリーにおける最近話題の宝石について報告する。
    ◆ブラック・ダイヤモンド
    1990年代後半からブラック・ダイヤモンドがジュエリー素材として注目を集めるようになった。これらは当初、天然のブラックであったが、いつのまにか照射処理石に取って代わり、その後高温加熱(HT)処理ブラックが台頭するようになった。照射処理石はその透過光の色(緑~青)で容易に識別することができる。加熱処理ブラックは慎重な内部特徴の観察によって看破できるが、場合によってはHPHT処理の看破と同様にフォト・ルミネッセンス分析が必要となる。
    ◆鉛ガラス含浸ルビー
    昨年の上半期から鉛ガラスが含浸されたルビーを見かけるようになった。これらは透明度の改善を目的にしたもので、単に加熱に伴う残留物ではない。鉛ガラスの含浸処理が行われたルビーは、たいていフラクチャーに特有のフラッシュ効果が見られる。レントゲン写真を撮ると含浸されたフラクチャーは鮮明に映し出される。時にフラッシュ効果が認められないスター石などもあるが、このようなケースの最終的な判断には蛍光X線分析による鉛の検出が最も有効である。
    ◆紫色の宝石素材
    紫色の宝石はJJAの2005年イヤー・カラー・ストーンである。これにちなんで珍しい紫色の宝石変種を紹介する。パープル・カルセドニーはインドネシア産の新種の宝石で、スティヒタイトはスギライトに外観が酷似した炭酸塩鉱物である。紫色のトルコ石は“加熱による”ナチュラルJラーとして販売されていたが、実際には着色されたものであった。さらにCermikiteは魅力的な紫色の結晶であるが、水溶液から育成された人工結晶である。
    ◆長石類の宝石変種
    長石類の宝石素材として、ムーンストーン、サンストーン、ラブラドーライト、アマゾナイトなどが良く知られている。最近ではこれらにアルバイト、アンデシンなどの新しい変種が見られるようになった。タンザニア産の青白いシーンを示す長石の変種はしばしばムーンストーンとして誤称されているが、これらはアルバイトとオリゴクレースの組成を持つ2成分の微細なラメラ構造を有する“ペリステライト”である。
  • 三浦 保範, 北脇 裕士
    セッションID: 5
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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    1.はじめに:
     カリ長石と曹長石は、組成的にも両端成分鉱物であり、宝石もムーンストーンとペリステライトがあり、よく似たイリデッセンス干渉色を示す長石である。
     本研究のタンザニア産ムーンストーン宝石は、青色のイリデッセンス干渉色を示し、カリ長石と曹長石の数十ミクロメーターからなる互層を示しているので、光学偏光顕微鏡ではムーンストーン宝石として市販されている。
     しかし、バルクの組成とイリデッセンス干渉色の色調から、ペリステライトであるので、電子顕微鏡観察などの研究した結果を報告する。
    2.物性データの特徴:
     屈折率が1.53~1.54 で、比重が2.62~2.63で、ムーンストーンよりやや高めである。
     紫外線下では長波で不活性、短波で赤色蛍光を示した。針状インクルージョンや双晶面などが観察される。イリデッセンス干渉色は青色で普通のムーンストーンとよく似ているが、本試料は少し青が強く普通のムーンストーン宝石の青白色ではない。物性データはムーンストーンとは違う特徴を示している。
    3.バルクの化学組成の特徴:
     蛍光X線分析の結果、曹長石(An73Or27)組成である。対比ビルマ産ムーンストーン宝石のバルク組成はOr76An0のカリ長石である。バルク組成からも、本試料は普通のムーンストーン宝石の組成ではない。
    4.薄片上の組織の組成の特徴:
     曹長石(An73Or27)組成に、百ミクロメーターサイズの不規則な葉片状のカリ長石(Or63An4)を含む。この光学顕微鏡サイズのカリ長石と曹長石の組織は、可視光線の波長には大きすぎて干渉色の原因ではない。
    5.サブミクロメーターの離溶ラメラ多層膜組織の電子顕微鏡観察:
     試料全面の離溶ラメラ多層膜組織を観察するには、電子顕微鏡の走査像で見られたが、普通の走査電子顕微鏡(山口大学)では解像度が低くて観察できないので、特殊のFE走査電子顕微鏡で100ナノメーターの離溶ラメラ多層膜組織がこの試料で観察した。透過型電子顕微鏡(山口大学)は、局所的なラメラ組織や、格子像観察ができた。
    6. 離溶ラメラ多層膜組織の分析電子顕微鏡による分析と格子像:
     EDXによる分析電子顕微鏡観察から、ラメラ層厚が120nm([100]方向)から130nm([001]方向写真)となり、それぞれ50nmのオリゴクレースと70nm~80nmのアルバイトラメラが観察できた。EDXによる分析では、An4Or2とAn17Or216点分析)に分かれ、いわゆるペリステライト不混和領域の分析データ(三浦:宝石学会誌、1978)と一致することがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡観察で、d(010)とd(001)の格子像が観察でき、斜長石の格子像であることもわかった。
    7.まとめ
     全国宝石学協会から提供された、タンザニア産ムーンストーン宝石は、物性・バルク分析データとFE電子顕微鏡観察・EDX分析電子顕微鏡観察など(山口大学)から、約130nm離溶ラメラ組織を示すペリステライト不混和領域の分析データを示すので、ムーンストーンではなく斜長石ペリステライトの宝石鉱物であることが新たにわかった。
  • 北脇 裕士, アブドレイム アヒマディジャン, 岡野 誠
    セッションID: 6
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     昨年9月の鑑別表記ルール改定に伴い、AGL(宝石鑑別団体協議会)ではコランダムの加熱について個別表示するようになった。一部では鑑別機関によって(特に海外のラボとの間で)は加熱・非加熱に関して異なる結果表示がなされるとの指摘が聞かれる。このような背景について考察し、加熱・非加熱の鑑別法について紹介する。
     加熱されたコランダムの鑑別には詳細な内部特徴の観察が重要となる。多くの結晶インクルージョンはコランダムより低い融点のため、加熱により融解したり、変色したりする。また、液体インクルージョンは癒着し、加熱に使用される触媒等がフラクチャーに残留物として見られることがある。また、加熱により紫外-可視領域、赤外領域の分光スペクトルに変化が見られる。還元雰囲気で加熱されたブルー・サファイアには非加熱の状態にはなかったOHに起因する吸収が加熱後に出現する。同様に加熱されたMong Hsu産ルビーには構造的に結合したOHの吸収が表れる。レーザー・トモグラフィでは加熱によるディスロケーションの発達や蛍光色の変化を鋭敏に捉えることができ、加熱・非加熱の判断には極めて有効である。
     また、合成ルビーも加熱されることがあり、特に内部特徴が変化することから鑑別上注意を要する。1990年代初頭、ベトナム産ルビーの市場への登場と同時期に大量の加熱されたベルヌイ法合成ルビーが市場に投入された。1990年代半ばには加熱されたカシャン合成ルビーが出現した。これらは得てして大粒の結晶で国際的な知名度のある鑑別ラボでも誤鑑別が生じるなど看破の難しさが問題となった。最近ではラモラ・ルビーの特徴を有する合成ルビーが加熱されており、ルビー鑑別に新たな問題を提議している。ラモラ(RamauraTM)は1983年に販売が開始されたフラックス法の合成ルビーである。販売当初は天然との識別が困難であるため、メーカー側がラモラの指標になるようにあえて合成時に希土類元素を添加したと言われている。今年になってこの識別困難なラモラ・ルビーが加熱され、さらに鑑別が難しくなったものを見かけるようになった。拡大検査において融解したオレンジ・フラックスが観察されれば、加熱されたラモラ・ルビーの識別特徴になるが、微小インクルージョン、色むら、成長線などは天然ルビーに酷似しているため注意が必要である。
  • アブドレイム アヒマディジャン, 北脇 裕士, 古屋 正司
    セッションID: 7
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     宝石の地理的地域の産地鑑別はそれを行うそれぞれの鑑別ラボの意見であり、その宝石の品質や価値を示唆するものではない。このことはCIBJOのルールにおいても基本理念となっている。産地鑑別は、宝石鑑別機関の独自に収集した既知の標本との比較、現時点での継続的研究の成果および文献化された情報、蓄積された科学的データあるいは経験に基づいて行われている。各種宝石の産地鑑別をより高い精度で検査するために蛍光X線分析、分光分析、レーザー・トモグラフィなどが有効に利用されている。これらの手法は主に生成起源によって異なる微量元素や成長履歴の相違に注目したものである。さらに筆者ら(阿依、北脇)はレーザー・アブレーション(LA) -誘導結合プラズマ(ICP)-質量分析法(MS)に着目し、宝石鉱物の化学組成及び微量元素~極微量元素分析への応用研究を行ってきた。
     本報告ではLA-ICP-MS分析法を用いた超微量元素分析を行い、それらの種類や含有量および組み合わせ等から、コランダム、エメラルドおよびトルマリンなどにおける地理的産地鑑別への可能性について検討した。
    (1) 非玄武岩起源の大理石岩、変成岩に関連したルビー;ミャンマー(Mong Hsu, Mogok)、スリランカ(Ratnapura)、パキスタン(Nangimali/Kashmir)と玄武岩起源に関連したルビー;ケニヤ(John Soul)、マダガスカル(Vatomandry)、タイ(Borai)、タンザニア(Songea)の微量分析では、Cr2O3wt%/Ga2O3wt%とFe2O3wt%/TiO2wt%を用いた”Chemical Finger Print”において両起源のルビーが明瞭に区別できる。さらに超微量元素の種類及び含有量によって同産状起源ルビーの特異な差が見られる。
    (2) ペグマタイトに関連したエメラルド;ナイジェリア(kaduna)、ザンビア(Ndola Rural)、ジンバブウェ(Sandawana)、ブラジル(Itabira-Nova)とペグマタイトの介入を伴わないエメラルド;ブラジル(Santa Terzinha)、パキスタン(Swat)、アフガニスタン(Panjishir)及びコロンビア(Cordillera)産などの化学的な特徴は(Cs2O+K2Owt%)VS(FeO+ MgOwt%)の濃度分布によって相違が見られる。
    (3) ブラジルのParaiba,およびRio Grand do Norte産のいわゆる“パライバ・トルマリン”と同色を示すナイジェリア, Edeko-Ilorin産トルマリンの識別は蛍光X線レベルの分析では極めて困難である。LA-ICP-MS分析による超微量元素Pb-Ga-Geの三角ダイアグラムでは、ブラジル産トルマリンはGaを富んだ領域に、ナイジェリア産トルマリンはPbを富む領域にプロットされることが分かった。
  • 古屋 正司
    セッションID: 8
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     1970年代初め頃、タイの加工業者がリュックを背にスリランカに入り、地元のスリランカ人が捨てていたギューダをただ同然の値段で買い入れた。バンコクに持ち帰り、加熱して美しいコーンフラワー色のブルーTファイアに仕上げ、世界中に販売してきた。
     それから35年、天然素材がどんどん少なくなっていく中で昔のようなカット、研磨以外に人の手が何も加わっていないとされる石は市場から消えてしまった。たとえ鑑別結果がN.N.(ナチュラル・ナチュラル)になったとしても、それらには“加熱の徴候が見られない石である”というコメントが載っている。それだけ天然界の美しい宝石は数が少なくなっているのが現状である。
     昨年末頃から日本市場に大きくて美しく、大変安価なルビーが急激に入ってきている。それらを蛍光X線分析装置で成分分析した結果、今までには無かった“鉛”が検出された。全てがファセット・カットされた良質なルビーで、3~5ctの大きさが中心だが、当研究所に鑑別依頼のあった中には13.83 cts というルビーでは考えられない程の大きなサイズもあった。
     実はこの鉛含浸加工は、騒がれ出した昨年に始まったことではない。ダイヤモンドにおいては1987年頃イスラエルで急激に広まり、加工業者の名前から“Koss処理”又は“Yehuda処理”と呼ばれて取り引きされてきた。昨年末に当研究所でも大変美しいこのYehuda処理されたダイヤモンドを購入する事が出来た。イスラエル政府を通して、消費国が何度か製造をストップするよう要望したが、いまだに出回っていることを見ると、ダイヤモンドにおいて非常に有効な加工方法であるのではないかと思われる。ダイヤモンドに有効であるならば、ルビーなど他の宝石にも同じ加工が施され流通するのは当然のことであろう。
     鉛は330℃位の低温で簡単に溶ける。このコランダムの加熱加工は1250℃前後の温度で行われているために、鉛はクラックやクリベージに容易に入り込んでいく。加熱温度が低いためスター・ルビーには大変有効な加工技術である。コランダムの加熱加工には1850℃まで温度を上げる技法もあるが、それらとは違って安いコストで加工でき、しかも宝石内部に変化を生じる事が無く美しく仕上がるために、鑑別には大変知識が必要である。
     そこで、これらの鉛ガラス含浸ルビーの鑑別方法について、またこれらの宝石を日本市場ではどのように受け止め対処していくのか、他のコランダムの加熱との比較をしながら発表する。
  • 下林 典正, 三宅 亮, 大滝 祥生, 北村 雅夫, 鶴田 憲次
    セッションID: 9
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     アンドラダイト(andradite)はカルシウムと3価の鉄に富むガーネットで、鉄をアルミニウムに置換したグロッシュラー(grossular)との間でほぼ連続的な固溶体系列をつくっている。1930年代にイリデッセンスによって虹色に輝くアンドラダイトの変種が見つかり、レインボーガーネットと呼ばれている。レインボーガーネットは産出が非常に稀で、これまで数例しか報告がなく、市場でもほとんど入手困難な状態であった。ところが最近、奈良県吉野郡天川村より膨大な数量のレインボーガーネットが見つかり、“スーパーレインボーガーネット”と称して、昨秋からミネラルフェアーを席巻している。本研究は、この天川村産レインボーガーネットに関して初めて鉱物学的な研究を行なったものである。
     観察に用いた試料は、大きさ10mm程度で{110}面に囲まれた12面体の外形をもつ。色はやや赤みを帯びた淡茶褐色であるが、光を入射する方向によっては帯緑色のシラーを発する。平均化学組成はAnd96.0Grs3.3Sps0.7である。このガーネット試料のc軸に垂直な薄片を作製したところ、8個の{110}セクターに分かれることがわかった。そのうち{110}面が薄片面に対して斜めとなっている4つのセクター内では強いイリデッセンスが観察されたが、{110}面が薄片面に直交する残りの4つのセクターではイリデッセンスは観察されなかった。したがって、イリデッセンスの原因は{110}面に平行な薄膜の重なりを光が通過する際に起こる干渉によるものと考えられる。
     光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡での観察では、{110}面に平行なバンド組織(幅170~300μm)やその中に波状のラメラ構造(幅10~20μm)が観察された。とくに後者には有意な組成差も確認できた。しかし、これらの組織は光の干渉を起こすためには間隔が大きすぎるため、イリデッセンスの原因とは考えられない。この試料をさらに高分解能電子顕微鏡で観察したところ、波状ラメラの間に間隔100~300nm程度の微細なラメラ構造が{110}に平行に存在することが明らかになった。このラメラの成因は、離溶によるもの(Hirai & Nakazawa, 1986)であるか振動累帯構造(Akizuki et al., 1984)のいずれかであると考えられるが、いずれにせよこの微細ラメラが天川村産のレインボーガーネットの虹色の原因となっていると結論できる。
  • 森 孝仁, 奥田 薫
    セッションID: 10
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     日本市場でも大変人気のあるルビーであるが、中でもミャンマー産は高く評価されている。
     ミャンマーのルビーは、mong-hsu(シャン州)、mogok(マンダレー区)、nam-ya(カチン州)の3つの鉱区から産出する。日本の市場では、鉱区まで明記して販売することは稀であるが、最近では、鑑別書に表記改定に伴い、加熱処理の有無を明確にさせることからも、しばしば鉱区を特定する必要性が生じるようになってきた。一般にmogokとnam-yaのルビーは良質で、加熱処理の必要のないものがあり、mong-hsuのルビーは加熱することにより、鮮やかな赤色に変化するといわれている。
     今回、株式会社モリスはミャンマーの協力を得て、3つの鉱区からの未処理のルビー原石および母岩を入手することができた。それぞれの母岩をもとに、鉱区の成り立ちを検証するとともに、未処理のルビー原石について、内包物の拡大検査、可視分光吸収特性および含有微量元素について調査を行なった。
     ミャンマーの3つの鉱区におけるルビーの特徴について、今回得られた結果を報告する。
  • 藤田 直也
    セッションID: 11
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     こはくは人類に最も古くから親しまれてきた宝石のひとつであり、の特徴的な包有物は宝石収集家だけでなく科学者にも興味をもたれている。また有機質の宝石であるこはくは古くからさまざまな処理が行われており、ローマ時代にはすでにいくつかの処理法が確立されていたという。こはくの加熱実験は1980年代に数多く発表されていたが、今回は特に赤外分光分析データやその他の特性がどのように変化していくかを検証する。
  • 伊藤 映子, 伊藤 由貴
    セッションID: 12
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     ラマン分光法とは、物質に単色光を当てた際に発生する光源の波長とは異なる波長をもつ散乱光、すなわちラマン散乱を測定して物質の同定や分子構造の研究を行う近代的な手法の一つである。近年、宝石鑑別の分野においてもその有効性が着目され実用化されている。とりわけ顕微ラマン分光装置ではレーザーを用いて微小領域の分析が可能となり、非破壊で宝石内部のインクルージョンを測定し産地同定などに有効な情報を得ることができる。一方、ラマン分光を測定する際には物質から生ずる蛍光も同時に測定され、こちらはフォトルミネッセンス分析法としてHPHT処理の看破などダイヤモンドの構造欠陥を検出する上での重要な指標となっている。
     真珠やこはくなどの有機宝石にもラマン分光法ならびフォトルミネッセンス法が使用されその有効性が認められている。これまで宝石鑑別分野においては励起光として主に514nmのアルゴン・イオン・レーザーが使用されてきた。本研究では有機宝石の鑑別には紫外線蛍光検査が多くの情報をもたらすことに着目し、紫外線レーザー(325nm)を励起光に採用したラマン分光法並びにフォトルミネッセンス分析法の有機宝石への利用を新たに検討した。さらに、励起光を633nmに変えて同様にその有効性を模索した。真珠に関しては、白色系真珠の母貝鑑別、各種母貝の貝殻ならびに産出真珠の真珠層含有色素、加熱・漂白など一般的な加工や処理などの影響について検討した。また、こはく、象牙などとそれらの類似品との識別においても若干の知見を得たので報告する。
  • 林 政彦
    セッションID: 13
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     インターネットとは、もともと1969年に米国の国防省によってつくられたネットワークが前身で、その後、大学や民間レベルで使いやすいものへと発達してきた。米国ではパソコンが急速に普及し、電話回線を通して商品を見ながらショッピングが楽しめるといった、通信販売に関する情報が数多くある。分厚いカタログをつくり、わざわざ家に届ける必要がないので、販売する方の負担が減るし、利用する方もコンピュータ・ソフトのお陰で、以前より簡単な操作によって、必要な商品の最新情報が入手しやすくなっている。
     一方、わが国も米国と同様にインターネットを利用した販売が急速に増えている。当然のことながら、宝石販売にも利用されている。特に、宝石の原石とも言える、鉱物については、インターネット・オークションなどでも盛んに売買されている。
     しかし、インターネットで売られているものが、正しく表示されているものであるかどうか、実際に実物を見るまでは不安が残る。
     今回は、インターネットから得られる宝石の情報について、実際にインターネットで購入した宝石が、明らかに異なっていた例を紹介し、注意を促すと共に、今後のインターネットの活用方法について述べる。
  • 高橋 泰, 岡田 満成
    セッションID: 14
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     過去にも、ファセット・カットされたカラーストーンの色についてはいくつかの研究がなされている。しかし、そのほとんどは特定の宝石種におけるカラーバラエティーを定量化したものであり、カラーグレーディング等に応用されている。これに対し、本研究では一つの素材について、その厚みの変化と色変化の関係を調べたことを特徴とする。つまり、既存のカット石をリカットした際、厚さの変化が色変化にどの様に影響するか、また、多色性を有する宝石素材については方向毎の色変化を調べることにより、リカットする際のオリエンテーションによる色への影響を調べることを目的としている。測色には浜松ホトニクス社製のマルチ分光測色計C5940を使用した。サブテーマは以下の3つである。
    ?有色透明素材の厚みと色の関係
     ここではカット石の深さ=厚さの変化が色変化に与える影響を調べた。純粋に厚さだけの影響を確かめるため、多色性の無い素材を用いた。結果は1mm薄くなる毎に色差?E(CIELAB表色系)が約2~4の範囲で変化することが多かった。この値はJIS規格許容色差の4級程度に相当する。
    ?ルビーの厚さと方向による色変化
     多色性を持つ宝石素材の代表例として、ルビーを用いて測定を行った。試料の色ムラを避けるため、引き上げ法の合成ルビーを使用し、a軸方向とc軸方向別に同一の厚さ(15mm)の試料を作成し、厚さを1mm減らす毎に測色をした。1mm毎の色差?Eの値は?に類似した2~5の変化であったが、修正マンセル表色系の色相変化は軸方向により色の変化量が異なることが判明した。a軸方向よりもc軸方向において厚さに対する色相変化が大きいという結果が示された。この軸方向による違いは、厚さに対する蛍光強度の変化にも現れた。
    ?多色性の強さと人間の色知覚
     多色性の強さを人間の色知覚はどの様に捉えているかを調べるため、同一素材から作成した各方向の試料(2方向)を目視検査で比較し、アンケート形式でデータ収集した。一般に称される多色性強度「強」「明」の石については9割を越える被験者が色差を認識できたが、「弱」の石について色差を認識できたと答えた人は被験者の3割前後であったが、事実上肉眼では認識できていなかった。
  • 青嶋 寿和, 小松 兵衛, 亀井 俊治, 鈴木 千代子
    セッションID: 15
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     上方からの光を遮断し、下方からの拡散光でのみ真珠の下半球を観察すると、独自の光彩色が観察される。私たちはこれを「オーロラ効果」と名付け、昨年の本学会誌に発表した。
     上記照明装置でホワイト系の真珠を観察した時、「オーロラ効果」の他に、上半球にも光彩色が観察される。そしてこれら上下の半球に出る光彩色は位置的に逆の関係、すなわち補色の関係になっている。
     このメカニズムについて考究した結果、これが真珠層の持つダイクロイック現象によるものであることが分かったので報告する。
     またこれら光彩色の色調や濃度は、真珠のてりの強弱と一定の相関性を有することが分かっているので、その画像搬送のみによって、遠隔地での品質分析に寄与しえるのではないかと考え、若干の実験を試みたのでそれも報告する。
  • 山本 亮, 矢崎 純子
    セッションID: 16
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     真珠層における光の干渉現象(「てり」)が、アラゴナイト結晶層の厚さや配列と相関があることは、昨年の本学会誌で発表した。
     今回は以下の、一般の「てり」とは外見的に変わっている「てり」をサンプルとして、その真珠層構造との相関を考究してみた。
    ?「超てり」あるいは「メタリック」と呼ばれる、輝きが極めて強く、「オーロラ効果」の光彩色も一般とは異なるもの(アコヤ真珠、淡水真珠)。
    ?「にじみ光彩」と呼ばれる、輝きは弱いが様々な光彩色が周縁部に発現するもの(アコヤ真珠)。
    ?一部の白蝶真珠に見られる、透明感があり輝きも強いが、同時に周縁部から中心部まで様々な光彩色が浮き出ているもの(シルバー系白蝶真珠)。
  • 小村 純子, 荻村 亨, 三田 惣子
    セッションID: 17
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     真珠層が光学的にダイクロイック現象を有していることは先に発表した通りである。
     本研究は、真珠内部の核の材質が異なれば、真珠内部を透過する光の透過率や拡散率が異なる故、透過の干渉色に一定の影響を与えるのではないかと考えた。 そこで貝殻や真珠を用い、様々な材質を内部に核として入れ、その透過光量や光輝値、あるいは干渉色の色調や濃度などを測定してみた。
  • 田中 美帆, 矢野 晴也, 金子 伸明
    セッションID: 18
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/06/19
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     「ドブガイ」貝殻から作られた真珠養殖用核には、光の層間反射による強い輝きがあり、「ギラ」と呼ばれている。
     昨年の総会で私たちは、「ギラ」の有無でドブガイ核とシャコカイ核の判別が可能であることを発表した。
     今回は「ギラ」の光学的メカニズムをその貝殻構造から解明すると共に、「ギラ」の強弱を測定する方法を探索してみた。
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