1.はじめに:
カリ長石と曹長石は、組成的にも両端成分鉱物であり、宝石もムーンストーンとペリステライトがあり、よく似たイリデッセンス干渉色を示す長石である。
本研究のタンザニア産ムーンストーン宝石は、青色のイリデッセンス干渉色を示し、カリ長石と曹長石の数十ミクロメーターからなる互層を示しているので、光学偏光顕微鏡ではムーンストーン宝石として市販されている。
しかし、バルクの組成とイリデッセンス干渉色の色調から、ペリステライトであるので、電子顕微鏡観察などの研究した結果を報告する。
2.物性データの特徴:
屈折率が1.53~1.54 で、比重が2.62~2.63で、ムーンストーンよりやや高めである。
紫外線下では長波で不活性、短波で赤色蛍光を示した。針状インクルージョンや双晶面などが観察される。イリデッセンス干渉色は青色で普通のムーンストーンとよく似ているが、本試料は少し青が強く普通のムーンストーン宝石の青白色ではない。物性データはムーンストーンとは違う特徴を示している。
3.バルクの化学組成の特徴:
蛍光X線分析の結果、曹長石(An
73Or
27)組成である。対比ビルマ産ムーンストーン宝石のバルク組成はOr
76An
0のカリ長石である。バルク組成からも、本試料は普通のムーンストーン宝石の組成ではない。
4.薄片上の組織の組成の特徴:
曹長石(An
73Or
27)組成に、百ミクロメーターサイズの不規則な葉片状のカリ長石(Or
63An
4)を含む。この光学顕微鏡サイズのカリ長石と曹長石の組織は、可視光線の波長には大きすぎて干渉色の原因ではない。
5.サブミクロメーターの離溶ラメラ多層膜組織の電子顕微鏡観察:
試料全面の離溶ラメラ多層膜組織を観察するには、電子顕微鏡の走査像で見られたが、普通の走査電子顕微鏡(山口大学)では解像度が低くて観察できないので、特殊のFE走査電子顕微鏡で100ナノメーターの離溶ラメラ多層膜組織がこの試料で観察した。透過型電子顕微鏡(山口大学)は、局所的なラメラ組織や、格子像観察ができた。
6. 離溶ラメラ多層膜組織の分析電子顕微鏡による分析と格子像:
EDXによる分析電子顕微鏡観察から、ラメラ層厚が120nm([100]方向)から130nm([001]方向写真)となり、それぞれ50nmのオリゴクレースと70nm~80nmのアルバイトラメラが観察できた。EDXによる分析では、An
4Or
2とAn
17Or
216点分析)に分かれ、いわゆるペリステライト不混和領域の分析データ(三浦:宝石学会誌、1978)と一致することがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡観察で、d(010)とd(001)の格子像が観察でき、斜長石の格子像であることもわかった。
7.まとめ
全国宝石学協会から提供された、タンザニア産ムーンストーン宝石は、物性・バルク分析データとFE電子顕微鏡観察・EDX分析電子顕微鏡観察など(山口大学)から、約130nm離溶ラメラ組織を示すペリステライト不混和領域の分析データを示すので、ムーンストーンではなく斜長石ペリステライトの宝石鉱物であることが新たにわかった。
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