宝石学会(日本)講演会要旨
平成21年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
  • 田賀井 篤平
    セッションID: S1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     シーボルトは1976年にWürzburg(独)に生まれ、Würzburg大学で医学を学んだが、そのころから東アジアの自然に強い関心を持ち、東インドの自然の研究者になることを希望していた。彼の希望はかなえられ、オランダ領東インド陸軍の軍医としてBataviaに赴任した。当時のオランダはナポレオン戦争などの影響で経済が危機的状況にあったため、貿易を独占していた日本との交易で一層の利益を上げるべく、シーボルトを自然史・文化史をふくむ総合的な日本研究を行うために日本に派遣した。シーボルトは医者として活躍する一方で、日本のあらゆる情報や標本を収集してオランダに送った。その数は、動物標本約7000点、植物標本約14000点、民俗標本約5000点となっている。これらの標本を基にして、シーボルトの3大著作である「日本動物誌(Fauna Japonica)」、「日本植物誌(Flora Japonica)」、「日本(Japan…)」が書かれ、その後のヨーロッパにおける日本研究に多大な影響を与えている。
     しかしながら、植物界・動物界とともに自然の体系を構成する(リンネによれば)鉱物界を代表する鉱物標本については、シーボルト研究でほとんど取り上げられることなく現在に到っている。実際は、シーボルトは「日本鉱物誌」の実現に意欲を持っていたのである。さまざまな理由から、「日本鉱物誌」は実現しなかったが、その目的で収集された鉱物標本が存在する。
     オランダのLeidenにある国立自然史博物館の標本室にはアジアのセクションがあり、そこに約830点のシーボルト収集とされる鉱物標本があった。シーボルトは鉱物に関心はあるものの、多忙であることや知識不足から自分自身で鉱物標本を収集せずに、助手であるビュルガーに任せた。ビュルガーは薬剤師であるが、鉱物学を勉強していたようで、シーボルトに代わって精力的に標本収集にあたった。しかし、オランダ人が出島に拘束されているために、標本収集は、日本人の弟子に指示して行わなければならなかった。日本人の弟子は鉱物学の知識が不十分であったため、鉱物収集は体系的なものにはならなかった。集められた標本には外形の奇妙さ、色の美しさ、表面の模様などの非科学的な基準で集められたものも多い。しかしながら、明らかに鉱物学・地質学の見地から、あるいは資源的な見地から集められた標本も多い。例えば、シーボルトが活火山に興味を持っていたことから、火山の標本 ─溶岩、軽石、火山灰、火山性硫黄など─ が広く集められている。また、北はサハリンから南は沖縄まで、広い範囲で標本が集められている。最も多く集められた標本は、石英、黄銅鉱、珪化木であるが、注目すべき標本として、輝安鉱、黒曜石、陶土、竿銅などが挙げられる。輝安鉱は日本産鉱物として著名であるし、黒曜石は考古試料として、陶土は磁器素材として、竿銅は重要な交易品として重要であった。これらの標本から、シーボルトの鉱物観や日本人の鉱物学の水準を推し量ることができる。
     シーボルトは江戸期の本草学に近代的な自然科学を導入し、日本における明治以降の学問の発展に貢献したばかりでなく、ヨーロッパにとって遠い外国の一国に過ぎなかった日本を紹介し、ヨーロッパにおける日本学(Japanology)やジャポニズムの出発点ともなったのである。シーボルトの持ち帰った鉱物・動物標本は国立自然史博物館、植物標本は国立植物標本館、民俗標本は国立民族博物館(いずれもLeidenにある)に収められて研究に供されている。
  • 鍵 裕之
    セッションID: S2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     ダイヤモンドは地球深部で成長した鉱物の一つである。ダイヤモンドの熱力学的安定領域から、ダイヤモンドは地表から150km以上の深さに位置するマントルで生成したと考えられている。天然ダイヤモンドにはしばしば包有物(インクルージョン)が取り込まれている。包有物の存在は、宝石としてのダイヤモンドの価値を下げるが、我々は地球深部の物質を探る貴重な試料として重要視している。ダイヤモンド中の包有物は、地球深部を構成する岩石の破片と考えられる。ダイヤモンドは物理的・化学的に強固かつ安定なカプセルであるため、包有物は地球深部の情報を保存している可能性が高い。包有物を詳細に調べることにより、ダイヤモンドが成長した地球深部の環境(化学組成、同位体組成、酸化還元状態など)を知ることができる。
     さて、手元にあるダイヤモンドは地球内部のどの程度の深さで成長したのだろうか?包有物を丹念に調べることで答えを出すことが可能である。ダイヤモンド中の多くの包有物はケイ酸塩(シリケート)である。地球深部でダイヤモンドの結晶中にケイ酸塩の包有物が取り込まれ、地表へ上昇し、我々が手にすることができるようになる。ケイ酸塩とそれを取り囲むダイヤモンドの弾性的性質、すなわち熱膨張率や圧縮率は大きく異なる。ダイヤモンドが地球深部から地表に移動する過程で温度と圧力は低下するが、包有物とダイヤモンドの弾性的性質が異なるため、両者の体積変化に違いが生じ、ダイヤモンドに取り込まれた包有物の周辺にはひじょうに高い圧力が残されることになる。例えばダイヤモンド中の石英に約1 GPa(1万気圧)1)、固体二酸化炭素の包有物に約5 GPaの残留圧力2)が報告されている。これらの残留圧力は、1mm程度に集光したレーザー光をダイヤモンドに集光し、ラマンスペクトルを測定することで調べられている。包有物周辺の残留圧力を知ることで、包有物がダイヤモンドに取り込まれた深さ、すなわちダイヤモンドが成長した深さを推定することも可能となる。
     本講演では、天然ダイヤモンドの性質、特に地球深部を構成する物質の特徴や起源を調べる研究について、私たちの研究グループの最近の成果を含めて紹介する3)
     参考文献
    1) Navon O. (1991) Nature 353, 746-748.
    2) Schrauder M. and Navon O. (1993) Nature 365, 42-44.
    3) http://www.eqchem.s.u-tokyo.ac.jp/~kagi
  • 田中 宏樹, 矢崎 純子, 小松 博
    セッションID: 1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     真珠表層における光の干渉現象(テリ)と結晶層との相関については、これまでもいろいろな角度から論じ本学会で発表してきた。
     今回は、_丸1_この現象で現れる干渉色模様を3つのパターンに概括分類し、精密に実写画像化を試みた。更にそれらの真珠の結晶層を実測し、その一層当たりの厚さから算出される色模様を描き出し、実写像と比較してみた。結果はほぼ一致することが判明した。
     _丸2_次にこの現象の強度を支配する結晶層の「乱れ」について、SEM画像を分析し、その主要因について考察した。結果は厚さの整合性であることが判明した。
  • 山本 亮, 矢崎 純子, 小松 博
    セッションID: 2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     前処理工程の不備で発生したと推定されるひびや斑点などの“加工キズ”について、
    _丸1_その形態、構造を光学顕微鏡で観察し、その発生要因を、真珠層の膨張・収縮によるストレスではないかと推察した。
    _丸2_次にこれらの“加工キズ”が経時変化でどのように発達し、より顕在化するかを加速試験で追跡した。
    _丸3_更に幾つかの膨張・収縮運動を無キズの真珠に適用し、同種の“加工キズ”を発生させる再現実験を試みた。
  • 佐藤 友恵, 矢崎 純子, 小松 博
    セッションID: 3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     核を褐色化させた放射線処理ブルー系真珠とナチュラルブルー系真珠との鑑別法は、現時点では「光透過法」が唯一の方法である。しかしこの方法も、真珠内部の異質層の発達度合いや分布状況では両者の判別が非常に難しい場合が多々ある。
     核にのみ注目すれば、放射線処理したものは色が褐色であると共に、紫外線照射による蛍光の消失という特長を持つ。「光透過法」は前者に依拠した鑑別法であるが、今回は後者に依拠した鑑別法の創出である。
     核は淡水産“ドブガイ”の貝殻真珠層を研削加工して作られる。蛍光の消失原因はこの真珠層の構成成分であるアラゴナイトでなく、同じく構成成分であるタンパク質にあるのではないかと推定し、幾つかの検証を行った。
     次に真珠の孔口から削り器を挿入し、孔内壁面より微量粉末を採取した。微量粉末を蛍光顕微鏡で観察した結果、未処理の核粉末は淡黄色を帯びているのに対し、処理粉末は青白色であり、明らかに目視確認が可能であった。
  • 渥美 郁男, 矢崎 純子
    セッションID: 4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     淡水真珠は加熱することにより本来の色調が変化することがあると宝石学会(鈴木2001年)で発表されている。これらのことを踏まえて海水産の黒系真珠や貝殻についても加熱することにより本来の色調が変化する可能性を調べることが研究目的である。
     今回はテストに際しクロチョウガイの貝殻と幾つかの色調を持つクロチョウ養殖真珠を使い実際に加熱テストを実施した。そして真珠と貝殻に対する加熱テストによりどのように真珠と貝殻の色調が変化するかを時系列に記録観察した。またUV-Vis-NIR Reflectance Spectraの変化にも注目した。
  • 岩松 利香, 大池  茜 大池  茜, ウィジェセカラ チャンダナ
    セッションID: 5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     オパールの産地には、有名なところとしてオーストラリアがあげられる。なかでもN.S.W.州のLightning RidgeやQueensland州のQuilpieなどは、著名な産出地としてよく知られている。
     今回、Queensland州のWinton産と言われるオパールを検査する機会があった。これは、黒色の母岩にオパールが点在するもので、ブラックオパールやボルダーオパールなどとは異なる外観をもつオパールマトリックスである。しかしその色や組織の状態から、なんらかの処理が施されている可能性がもたれた。
     このオパールについて、いくつかの検査および観察をおこなったので、その結果等について報告する。
  • 森 孝仁, 奥田 薫
    セッションID: 6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     ミャンマーの鉱山は外国人の入山が認められていないため、産出される宝石に関する情報は十分に開示されていません。これが、時には、誤った情報が流通してしまう原因ともなっています。 例えば、Nam-Yaで産出されるルビーは、「Nasyaseik産」と呼ばれることがあります。Nam-Yaにはいくつかの鉱区があり、現在産出しているのは、「Zabbow」および「Cammain」が中心となります。「Nayaseik」はNam-Yaの中のすでに枯渇してしまった鉱区の名前になりますので、この呼び方が適当でないことは明白です。
     同様に、加熱処理をはじめとする処理の有無については、流通過程に乗せられたルースを検査しても、信頼性の高いデータを取得することは大変困難なことと予想されます。完成した商品であるルースは、現地通貨ではかなり高額であるということ、そして、現地の業者の立場を考えれば、少しでも、商品価値を高める努力は当然のことであり、また処理技術自体が自社商品の競争力を握る鍵となる場合、ミャンマーの情報開示が行われにくいのも当然のことと考えられます。
     そこで、ミャンマー連邦国に現地法人があるモリスでは、ルビーの研究のために、カチン州にあるルビー鉱山「Nam-Ya」で活動ができる拠点をつくり、そこで採取した原石を自社の工房でカット研磨し、拡大検査を継続して行うことにしました。この現地スタッフ(F.G.A.)によるデータ収集は、6年目になりますが、これからも継続した活動を通して、信頼性の高いサンプル、データ、情報の蓄積を行い、その情報を開示していきたいと考えています。今回は、この原産地での活動から得られたNam-Ya鉱山のルビー産出の現状とその原石の特徴、およびルビー以外に産出される宝石についての情報を報告します。
  • 中島 彩乃, 古屋 正貴
    セッションID: 7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     平成20年の9月にタイのチャンタブリのマーケットで、「Heating」として販売されていた赤色系のスピネル3ピースを入手した。
     これらのスピネルには、白濁した結晶インクルージョンや砕けた結晶インクルージョン等が観察され、加熱処理の痕跡が示唆された。分光吸収測定および成分分析を行い、同じ色相の非加熱スピネルのデータと比較したところ、赤外分光において、4200cm-1付近の吸収に特徴的なものが認められた。
     通常、スピネルは加熱処理が行われていないことは知られているが、今回入手したサンプル石に加熱の痕跡が見られること、過去に、タンザニア産(Morogoro)のスピネルに加熱処理を行うことにより、色調の改善が見られたとの報告もあることから、今回、スピネルの加熱処理の有効性とその市場性についての考察を行った。
     今回入手したサンプル石から、スピネルの加熱条件を推察し、その条件に従って、非加熱の赤色系のスピネルを用いて加熱処理実験を行った。色相の変化と加熱温度、加熱前後のインクルージョンの変化および分光分析および成分分析の結果について報告する。
  • 林 政彦, 山崎 淳司
    セッションID: 8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     最近、いつかの結晶の集合体である群晶の合成石に遭遇したので、その特徴を報告する。
     その群晶とは、チャザム社製合成アレキサンドライトとロシアのノボシビルスクで製造された合成エメラルドで、それぞれの群晶の中に、アレキサンドライトやエメラルド以外の結晶が観察された。それらの結晶については以下のとおりの特徴を持つ。
    1)チャザム社製合成アレキサンドライト
     合成アレキサンドライトの群晶の表面には、銀白色のプラチナと無色の合成フェナカイトが見られ、群晶の底部には紫赤色の合成ルビーが見られる。
    2)ロシア・ノボシビルスク製合成エメラルド
     合成エメラルドの群晶とは明らかに外形が異なり、黒色に見える結晶について、X線回折実験を行った結果、合成アレキサンドライトであることが分かった。
  • 間中 裕二, 尾方 朋子
    セッションID: 9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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    ● ターフェアイトとマスグラバイト
     ターフェアイト(Taaffeite / Magnesiotaaffeite - 2N’2S)はコレクターズストーンとして人気のある宝石種であるが、さらに希少で近縁のマスグラバイト(Musgravite / Magnesiotaaffeite -6N’3S)とは、近年まで区別が難しいとされていた宝石であり、宝石学の基本的な手法である屈折率・比重では鑑別に限界がある。近年になってラマン分光法を用いることにより非破壊で区別が可能であることが示された。(Kiefert and Schmetzer, 1998)また、宝石学会(日本)においても平成18年度の神田らの発表、平成19年度の阿依アヒマディらの発表等によりラマン分光や蛍光X線による両者の識別が示された。今回は現在鑑別に使用される機器として認識されている赤外分光光度計(FT-IR)において両者の違いが見出されたため、その差異を紹介する。
    ● オルミアイト
     オルミアイト(Olmiite)はかつてポルダーバータイト(Poldervaartite)として認識されていたが、2006年にオルミアイトがIMAで独立種として認証されたため、鑑別結果も区別されることになる。オルミアイトの化学組成はCaMn2+[SiO3(OH)](OH)であり、ポルダーバータイトの化学組成はCaCa[SiO3(OH)](OH)である。つまり、オルミアイトはポルダーバータイトのMn2+ dominantということになる。端成分としては屈折率の相違が示されているが、実際にはCaの一つが完全に置き換わるのではないため、正確な鑑別には通常の鑑別手法に加え、元素分析による区別も必要と考えられる。
     この他に鑑別に持ち込まれること自体がほとんど無いマイクロライトの緑色を呈するものやチカロバイトといった宝石種を紹介する予定である。
  • 小林 泰介, 阿依 アヒマディ
    セッションID: 10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    GAAJ-ZENHOKYO Laboratoryにおける最近の3件のトピックスについて報告する。
    ● 天然シャッタカイトと天然プランシェアイト
     シャッタカイト(Cu5(SiO3)4(OH)2)とプランシェアイト(Cu4(Si4O11)(OH)2・H2O)は、ともに青色~濃青色を呈する半透明から不透明の鉱物であり、最近では宝飾品としても利用されている。これらの鉱物は主に銅鉱床の二次鉱物としてクリソコーラ、マラカイト、ダイオプテーズなどの含銅鉱物とともに産出される。  両者はともにイノ珪酸塩鉱物に属し、SiO4四面体が鎖状に結合する基本構造を有しているが、宝石学的特性に明確な差がないために一般的な鑑別手法のみでは識別は困難である。確実な識別方法は粉末X線回折法を用いた結晶構造による同定であるが、この方法は破壊検査であるため、宝石鑑別として有効な手段とはいえない。そこで今回、シャッタカイトとプランシェアイトを赤外分光(FTIR)およびラマン分光によってスペクトルを検証した結果、両者の識別が可能である事がわかった。
    ● 天然アンブリゴナイト
     アンブリゴナイトは一般的に無色から黄色を呈する鉱物であり、おもにリチウムを含有するペグマタイトに産出される燐酸塩鉱物の一種である。アンブリゴナイトの理想的な化学組成はLiAl(PO4)Fであるが、結晶構造中のフッ素(F)原子が水酸基(OH)によって置換され、両者の間では完全な固溶体を形成する事が知られている。OHが完全に置換される場合はモンテブラサイトという鉱物名で呼ばれている。
     最近、淡青緑色のアンブリゴナイトのファセット石を使ったジュエリーがインターネットで販売されるようになり、注目されている。しかし、アンブリゴナイトの一部には照射処理が施されているという情報がある。今回は詳細を確かめるべく、照射処理実験によるアンブリゴナイトの色の変化についての検証結果を交えて、アンブリゴナイトの宝石学的特性と業界における現状について報告する。
    ● オレンジ系の色相を示す天然カイヤナイト
     カイヤナイトは、アンダリュサイト、シリマナイトと並んでAl2SiO5からなる組成で異なる結晶構造をもつ多形鉱物の一つである。宝石質のカイヤナイトは、ブルー~グリーンにかけての色相を呈する透明のものが知られているが、今年のツーソン・ジェム・ショーにてタンザニア産とされるオレンジ色のカヤナイトが登場し、新種石として注目された。
     そこで今回入手したオレンジ色のカヤナイトの原石とファセット石の宝石学的検証を行い、分光光度計(UV-Vis、FT-IR)ならびに蛍光X線装置による分析を行った。その結果、ブルー~グリーンのカヤナイトの場合における鉄とチタンの電荷移動による着色とは異なり、オレンジ色のカヤナイトの着色の原因はマンガンであることがわかった。
  • 阿依 アヒマディ
    セッションID: 11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     アンデシンは長石グループの鉱物で、2002年以降知られるようになった比較的新しい宝石変種である。最近になって、宝石業界ではこのアンデシンの色の起源(天然か拡散加熱処理か)と産出地の真偽(真の原産地はどこか)に関心が寄せられている。筆者はこの問題の解決の一助とするため2008年10月と11月に、中国のチベットと内モンゴル自治区の鉱山を調査した。
     今回の調査の結果、チベットでは赤色(稀に緑色)のアンデシンが実際に産出されていることを確認できたが、内モンゴル自治区の固阳県では、産出するアンデシンの色相は淡黄色のみで、これらは拡散加熱処理(人為的な着色)の原材に利用されているこという確かな情報が得られた。
     チベット産のアンデシン鉱山
     チベットのアンデシン鉱山は、チベット自治区第二の都市であるXigazê (Shigatse)から70kmほど南に離れた地域に位置しており、平均海抜が4,000mを超える高地であるため酸素濃度は低く、冬季は雪に覆われるため、採掘は4月から11月に限られている。
     この地のアンデシンは第三紀の砂礫岩や白亜紀の泥質砂岩などの二次鉱床から産出されるが、原岩は白亜紀の火成岩に由来すると推定される。河川の侵食や風化作用により結晶は丸みを帯びた形が多く、ほとんどがφ1cm以下である(最大でφ4cm程度)。採掘や選別作業には重機は使用されておらず、ほとんどが手作業で行われている。年間総産出量は700-800kgで、そのうち4-6%が宝石品質である。
     内モンゴルのアンデシン鉱山
     内モンゴルのアンデシン鉱山は首府であるフフホト(Hohhot)市から200kmほど西に位置する砲頭(Baotou)市の固阳県内に産出する中生代~新生代の砂礫岩の二次鉱床で採掘されている。分布は東西20kmあまり、南北はおよそ5kmの広大な範囲に及んでいる。ここでは重機による採掘が行われており、ひと月に10トンのアンデシンが産出され、年間の総産出量は100トンにも及んでいる。採掘されるアンデシンは、透明度の高い粒状結晶で0.3mm~50mmの大きさである。ほとんどは淡黄色で均一な色調である。赤色や緑色などの産出は確認できなかった。
     宝石学的研究
     チベット産の赤色アンデシンには顕著な双晶面や板状のラメラ構造、不均一な色むら、微細な板状自然銅などが観察される。内モンゴル産のアンデシンにも一定方向に配列した微細な双晶面や線状のフィッシャー、成長管が観察された。
     蛍光X線分析では両産地において主元素のSi、Al、Ca、Na以外に微量元素としてK、Mg、Ti、Fe、Srが検出され、チベット産にはこの他にCuが検出された。
     LA-ICP-MS分析では主元素以外に16種類の微量元素が検出されたが両産地における優位な差異は認められなかった。Cuについてはチベット産の赤色アンデシンで300~600ppm、モンゴル産の淡黄色アンデシンで3ppm以下であった。
     今後の研究課題
     現在、チベット産の天然赤色アンデシンと市販されている中国産赤色アンデシン(拡散加熱処理?)を比較研究しているが、有意な鑑別上の差異は見出せていない。また、内モンゴル産の淡黄色アンデシンを拡散加熱処理したサンプルを入手し、調査を開始している。これらの結果についても合わせて報告する予定である。
  • 北村 雅夫
    セッションID: 12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     同一種類の鉱物結晶であっても、産地や生成条件の違いによって多様な外形(晶相変化)を示すことが知られている。古くからこれらの外形に基づいて結晶の対称性(点群)の決定が行われてきた。一方、結晶の点群を満足する複数個の外形が出現可能である。そのため点群の制約の範囲内で、成長環境の違いに依存して形が異なったり、成長に伴って一つの形から他の形へと変化する。
     対称性の制約に加えて、熱力学的平衡時には界面の自由エネルギーを最小にするという熱力学的制約によって、また結晶成長時には法線成長速度の遅い面で囲まれるという幾何学的制約によって結晶の外形が決まる。鉱物の形の大半は成長時に与えられた外形である。したがって、晶相変化を理解するためには、法線成長速度の方位依存性の成長条件による変化の原因を明らかにする必要がある。晶相変化に関する実験的研究は多く行われてきたが、理論的には未解決の問題として残されてきた。
     晶相変化の代表的な例は多面体間での変化である。たとえば、等軸晶系に属する結晶の正六面体と正八面体との変化などである。これらの多面体を構成する各面の成長は、らせん転位による成長が支配的な場合が多い。以下では、多面体間の晶相変化の一般的な場合と考えられる、らせん成長機構によって成長する多面体間の晶相変化を取り上げる。
     らせん成長機構による法線成長速度の方位依存性の研究例はHartman and Bennema (1980) など少数しかない。彼らは、結晶表面のエネルギー状態が低くなる程、法線成長速度が速くなるという一般的な結果を得た。しかしながら、面方位の変化に対して法線成長速度が単一にしか変化しないという結果であり、晶相変化の説明は出来できないものであった。
     結晶成長は母相にある成長単元を結晶(キンク)に取り込む過程である。その過程では並列にある複数の経路を経ることが可能であり、最も速い経路が全体の速度を律する。先に我々は高速輸送経路の存在を提示した(Kitamura and Nishioka, 2000)。この高速輸送経路とは、表面上の各種のサイト間の活性化エネルギーの増加に伴って、直接的にキンクに取り込まれる経路より複数のサイトを経由する経路の方がより速い輸送が可能となるために生じる特殊な経路である。今回、高速輸送経路の観点から、らせん成長する多面体間の晶相変化を明らかにすることを試みた。
     理論的解析の結果、全体の活性化エネルギーを増加させると各成長面の法線成長速度が相対的に変化し、多面体間の晶相変化が期待できることが分かった。特に単純立方格子を持つ結晶について、表面上の各サイト間の輸送に伴う活性化エネルギーが当該のサイト間のエネルギー差に比例するという簡単な仮定を置いて法線成長速度の方位依存性を求めた。その結果、過飽和度の上昇、温度の低下、活性化エネルギーを増加させるような成長環境の変化などによって、正六面体から正八面体へと晶相変化することが明らかとなった。
  • 三浦 保範
    セッションID: 13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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    1)宝石として利用されているリビアンガラスは、アフリカの砂漠から多く発見されている隕石テクタイトとして販売されている。本研究では、その組成や形成過程を最新の分析と試料対比から研究報告する。
    2)全分析(XRF)と軽元素分析(3方法)などと電子顕微鏡分析によるその場観察などから、
     a) 純粋なシリカではない。少量の元素が数種含まれている。
     b)これまでに指摘されていない数元素が微量特異な組織に確認でき、その元素は海洋衝突時に混入したことを示すものと考えられる。
     c) 微量元素は長石成分であるので、衝突時の高温による長石組成からのシリカ組成の生成が考えられる。
     d) 軽元素が形成中にとりこまれたことが数種の分析方法で確認でき、そして組識によって含有量が異なっていることが分かった。  e) 鉄に富む粒子も含まれていることが分かった。
    3)リビアンガラスの特徴的な組成を確認するために、人工衝突ガラス(広島長崎の原爆資料、米国の核実験ガラスなど)許可を得て観察して、取り込まれる軽元素の対比をした。
  • 江森 健太郎
    セッションID: 14
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     ダイヤモンドのグレーディングを行う際、HPHT等の処理未処理を決定するには高度な分析を要することがあり、注意が必要である。 グレーディングを行う前にそういった処理されている可能性のある石を選別する際に一番有効な方法はフーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)である。しかし、FT-IRで選別する作業は、1台が非常に高価であること、知識あるスタッフが必要であるといった問題点を抱えるため、数を捌くには適当ではないと思われる。こういった選別を容易に行うための機械として、HRDのD-Screen、DTCのDiamondSureが存在する。こういった機械を使うには知識あるスタッフは不必要であるし、機械のコストもFT-IRに比べると段違いに安い。しかし、これらの機械のメンテナンスはユーザーが行えない、費用時間がかかるといった問題点がある。
     こういった問題を解決するべく、ダイヤモンドの分別に有効であると思われる機材を開発した。電子工作の初心者の方でも簡単に作成できるものであり、ほとんどのパーツは電子部品屋で簡単に集められるもので、部品代も上で紹介したものに比べると圧倒的に安価である。また、簡単に用意できるパーツで作成しているため、メンテナンスも容易で、実用的である。
     今回はこの機材の作成方法と有効性について発表する。
  • 川野 潤, 西京 邦浩
    セッションID: 15
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     ダイヤモンドのカラーグレーディングには、カラーをD-Zで表記するGIAのグレーディングシステムが広く用いられている。ここでのカラーグレーディングは、熟練したグレーダーがマスターストーンとテストストーンのカラーを厳密に比較することにより行われるが、一方でさらなる客観性と高い再現性を求めて、カラー・グレードを自動的に測定できる装置の開発・研究が進められてきた。
     「DiaMensionTM」などダイヤモンドに関する測定装置を数多く開発・販売しているイスラエルのSarin社は、カラーグレーディング装置の開発にも注力してきたが、2006年に新たなダイヤモンドの自動カラーグレーディング装置「ColibriTM」を発表した。この装置は、Ia型でケープ系の色相をもつダイヤモンドのカラーグレーディングに特化しており、独自のシステムを導入することにより測定精度が向上したとされている。GAAJ-ZENHOKYO Laboratoryは、開発当初からSarin社に協力し、イスラエルZENHOKYOのスタッフが「ColibriTM」の実用性の検証を行い、検証情報を提供してきた。Sarin社ではそれを基に改良を重ね、その後数度にわたるバージョンアップを行ってきた。
     今回、GAAJ-ZENHOKYO Laboratory は2008年製最新モデルの「ColibriTM」を導入し、そのルーティンワークにおける実用性について、新たに約15,000ピースのダイヤモンドを用いて詳細な検討を行った。
     その結果、「ColibriTM」の測定値には極めて高い再現性が確認され、_丸1_ 1 ct 未満で_丸2_カットグレードがGood以上のラウンド・ブリリアントで、_丸3_ケープ系の色相をもち、_丸4_紫外線蛍光性がNone~Medium Blueまでのもの に関しては、実用可能な測定結果が得られた。特に蛍光性がnoneに関しては、80%以上のものが測定結果の誤差が±1/2グレードの範囲に収まった。
     今回検証を行ったルーティンワークで任意にセレクトした約15,000ピースのダイヤモンドのうち、上記の条件_丸1_~_丸4_を満たすものは約70%に達する。このことから、ColibriTMの特性を理解し、適切な使用で得られた測定結果は、カラーグレーディングの際のひとつの客観的な目安に十分なりうると考えられる。さらにブラウン系やグレー系など、ケープ系以外の色相をもつものでも、ColibriTMの測定値に適正な補正を加えることで、正しいカラーグレードを推定することが可能である。しかしながら、Strong Blueの蛍光をもつダイヤモンドに関しては、測定値が補正可能な限度を超えて著しく小さい値を示すためColibriTMの使用は不適切といえる。
    今後、さらに測定データを蓄積し、今回測定精度の低かった1ct以上のもの、ラウンド以外の形状のもの、カットグレードやカラーグレードの低いものなどを含めた多様なダイヤモンドにも対応できるよう検証を進めていく予定である。
  • 岡野 誠, 北脇 裕士
    セッションID: 16
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/01
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     黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。
     かつてブラック・カルセドニーは、黒色不透明石の中で最もポピュラーなもののひとつであった。スピネル、オージャイト、テクタイト、オブシディアン、黒色ガラス(模造石)などの多くの黒色石はその代用品とされていた。
     1990年代後半からは“ブラック・ダイヤモンド”がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインが流行した。この “ブラック・ダイヤモンド”には_丸1_ナチュラル・カラー、_丸2_照射処理されたもの、_丸3_高温で加熱処理されたものが含まれているが、現在流行の主流は_丸3_の高温加熱処理されたものである。
     また、“ブラック・ダイヤモンド”のジュエリーにはブラック・キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトなどの類似石が混入していることもあり、鑑別をより困難なものにしている。 さらに最近になって、ブラック・スピネルにコーティング処理が施され、ブラック・ダイヤモンド様の金属光沢を呈するものや青色金属光沢を有するものを見かけるようになった。
     標準的な鑑別検査
     黒色不透明石の鑑別には、屈折率測定や拡大検査が有効である。しかしながら、セッティングの状況によっては屈折率測定が不可能となり、ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用した丹念な検査が不可欠である。“ブラック・ダイヤモンド”は金剛光沢とシャープなファセットエッジが特徴で、針状の黒色内包物や微細なグラファイトの密集等が認められる。
     レントゲン検査
     ダイヤモンドと類似石の識別にはX線透過性(レントゲン)検査が有効である。特に多数個がセッティングされているジュエリーにはまとめて検査できる上に写真撮影を行うことで、ジュエリーのどの石が類似石かを記録することが可能である。
     蛍光X線分析
     元素分析は素材の同定を行う上で極めて有用である。黒色ガラスにおいても組成の違いでテクタイト、オブシディアン、模造石(人工ガラス)の識別も可能である。
     顕微ラマン分光分析
     ラマン分光分析はラマン効果を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法で、数ミクロン程度の試料や局所分析にきわめて有効である。ジュエリーにセッティングされたものでも個々の分析を短時間で行うことができ、ダイヤモンド、モアッサナイト、CZ等を明確に同定することが可能である。
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